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死ねない死神は今日も泣く  作者: 無色といろ
Ⅱ 死神の庭
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チャプター2 いつかの絶望 明日の絶望

 夜が明けた東京ブロック本拠地では零花とシロの戦闘訓練が始まっていた。


「なあ、レイ。ひとつ聞いていいか?」

「はい、何でしょう?」


昨日、説明された内容をまったく覚えていないシロは素直に聞くことにした。

まったく話を聞いていないと思っていない零花はやさしく頷く。


「そもそも守護霊と戦うメリットって何?」


シロが基礎的な質問をしたことに零花は残念そうな、そして呆れるかのようにシロをにらみつける。


「説明…聞いてなかったんだ…」

「あはは…ごめん…」

「まあ、いいです。守護霊と戦闘して守護霊と目標の命を刈り取れれば点数がもらえます。それによって借神(しゃっかん)を返済していくわけです。これが最大のメリット、言わずもがな強い守護霊であればあるほど報酬が多くなるので借神(しゃっかん)を返しやすい。だから強い守護霊を倒すためにも戦闘訓練は大事ですから頑張ろうね」


そこに立ち、説明をする零花はおどおどした雰囲気を持っている彼女からは考えられない凛とした表情であった。

そして零花は二度目となる説明を淡々と続ける。

零花はおもむろに足元に落ちていた石ころを拾うとさらっと告げた。


「じゃあ、この石、シロさんに投げるんで」

「ちょっ!!待っ…」


そう言いかけたシロに構わず零花は渾身の力で野球ボールぐらいの大きさの石を容赦なく投げつけてきた。投げた時から頬をかすめるその瞬間まで、まばたきすることができなかった。その石は視認することができなかった。女子高生に投げられるような速度ではないことは一瞬でわかった。

かすめた箇所からは血がタラリと頬を伝い落ちた。


「て…言ったのに…」


シロは力が抜け、その場にへたりこんだ。


「ちっ…」

「ちょっと、レイさん…今、舌打ちしなかった?」

「えー何のことですか?」


シロはやさしくおどおどしていた零花がここまで表情がなくなることに純粋な恐怖を感じていた。

(こ、この子、怖い…ここで死ねるなら死んでもいいけど、石投げられて死ぬって、しかも女子高生になんかやだ…)

そう考えたシロは再び謝ることと、二度と彼女を怒らせないことを心に決めた。


「あの…ほんとに説明聞いていなかったのはごめんなさい。なので冗談でもいきなり石投げつけるのは勘弁してもらえないでしょうか?」

「しょうがないなぁ、またふざけたこと言ったら当てるからね」

そういうと無邪気に笑った零花であった。

「えっと、冗談はここまでにして…気づいたと思うけど女の人が投げることができる速度じゃなかったでしょ」


彼女の投げた石はバッティングセンターで見る130Km/hの速度よりも数段早く、かるく200km/hを超える速度のように感じられた。


「うん、どんな手品使ったの?」

「なんにもしてないんだよ、本気で投げただけ」

「んな、ばかな」

「これが、人の本来の力だよ。死んだ時点で生きている私たちを制御している脳とリンクが一度、切れてリミットがなくなった状態になってるんだよ」

「えっと、人は脳が勝手に力を制御してるって話?」

「そうそう、だから生きている間には出し切れてなかった筋力を100%使える。というか、死神になった段階で身体能力が相当あがってるみたいだけどね、私でも簡単にりんご握りつぶせるくらいだし」

「えっっ??」


シロは軽く引いていた。それを見ていたレイはあたふたしながら


「これぐらいは誰だってできるんだから、そんな目で見ないで!!」


恥ずかしいのか怒っているのかわからない零花の頬の赤みをみながらシロは笑っていた。

頬の赤みを隠すかのように零花は説明を始めた。


「でも、いくら力強くなっても守護霊相手には物理的なものは基本的には効かないからね」

「意味ないじゃん!!」


シロはすばやくツッコミをいれてしまった。すかさず零花は


「基本的にはって言ったでしょ、最後まで話を聞いてよね」


その手には石が握られようとしていたためすぐさまシロは謝りながら話を進めようとした。


「ごめん、で、その例外ってのは?」

死力(しりょく)を使うの」

「しりょく?」

「そう。死力を尽くすとか言うでしょ?」

「あぁ、その死力ね」

「そう、簡単に説明すると…私たち死神の自らの絶望を精神的なエネルギーとするの。守護霊も実体を持たないとは言っても存在している、つまり私たち死神と同じような存在なの」

「同じような存在なら死力を使わなくても普通に殴っても倒せるんじゃないの?」

「ううん、だめなの、死神と比べて存在がすごく抽象的、薄いって言うのかな…倒すためには死力で体を(まと)う必要があるのよ」

「それによって死神の体、同じ存在に近づけてやれば触れるってことか」

「こればっかりは説明するよりやってみたほうが早いからやって見せるね」


そういうと彼女は少しうつむく。そして一瞬にして表情を曇らせた。シロにはその表情に見覚えがあった。


”絶望”……その表情をだった。


笑顔を見せることの多かったその表情は、全てを呪うように目は光を失い、体は力を失ったように四肢が垂れ下がる。

零花の見たことのない悲しみ、憎しみ、怒り、すべての負の感情を表した表情に言葉を失うシロがそこにはいた。


「これが…死力…」


怪しく光る零花の体をみてシロは圧倒されていた。その光は紫陽花の花のような青紫色の光を放っていたが、世間一般的に”光”という言葉によって意味、想像される”明るさ”や”希望”を決して意味することのない色合いで揺らめいていた。


「こんな感じ…かな?」


恥ずかしそうにしながら言葉をかけてくる少女であったが死力を使う前に一瞬見えた”負”そのものを見てしまったシロはかける言葉も見当たらず、静かに揺らめく”光”ともいえぬ光をただ見つめることしかできずにいた。ただ黙って立っているシロを見かねた少女は光を発するのをやめ、シロに問いかけた。


「大丈夫?」


そうやさしい感情に包まれた言葉をかけられ、ようやくシロは意識がはっきりした。


「ああ、大丈夫…今のがレイの絶望…?」

「そう生前に与えられた絶望を心の中で思い出す。で、心の中を絶望で満たしたらそれを外に爆発させるイメージで出すの」

「つらくないの…?」

「つらいよ、だって自分の絶望、憤怒、悲哀、憎悪、醜悪とかのトラウマと向き合わなければならないもの…」


彼女から放たれた言葉は彼女の悲しみの心を語っていた。


「でも、みんなそういうトラウマと向き合ってここに存在して、戦ってる。私だけ何もしないわけにはいかないもの…」


そういう彼女の言葉にはやさしくあたたかい感情がすでになかった。あるのは生前の彼女を苦しめた絶望だけが二人を包んでいた。

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