チャプター23 神の怒り
彼の言葉は確実にそして着実に現実のものとなっていた。リヴィアタンの前へ立ちはだかった一人と一体の死神たちは白い光を放出し、荒れ狂う海を凪の海へと変えていく。
リヴィアタンは破壊されていく体を再生させ、シロへ渾身の力で自らの体をぶつけようとするが、彼の白い光に触れるたびに消失する。そして消失するとともに苦痛が訪れる。一匹の蛇はそれしか打つ手がないかのように再び自分の体を再生させ、再び白い光を放つ死神へ体をぶつける。
リヴィアタンにはその方法しかないのが現状であった。
そんなリヴィアタンをあざ笑うかのようにシロは傍若無人ともいえる力を振りかざしていた。
「”嫉妬”の悪魔…悪いけど…消えろ」
二人の内一人のシロは自らの自分の身長ほどある大鎌でレヴィアタンの頭を殴打する。跳ね上がった頭をもう一人のシロが先回りし、レヴィアタンの頭すらも貫けるように巨大化させた大鎌を容赦なく振り落とす。大鎌はその勢いでレヴィアタンの頭を貫いたまま地面へ突き刺さる。レヴィアタンは頭を動かすことが出来ない現状にひどく焦り、その体をじたばたとさせるが地面奥深くまで突き刺さった大鎌が抜けることはなった。それを見逃すほどシロは甘くはなかった。
大鎌を再び武器化した後、二人のシロはレヴィアタンの口元へ経ち、レヴィアタンの口の中へ鎌の刃先を容赦なく突っ込んだ。ぎょろぎょろと巨大な目だけが動く蛇は今から起こりえる状況を覚悟するほかなかった。一匹の蛇の目をじっと両サイドから見る二人のシロは蛇の中に入れた自らの武器へ力を込める。
「さっきはよくもやってくれたな…嫉妬の蛇…でも、この戦いも君の命も…終わりだ」
「我は殺されぬ、破壊されぬ、やるだけ無駄だ」
「…殺せないというなら試してみようか?」
そういうと二人のシロは完全にシンクロした形で空と地を切り裂くように鎌を振りぬく。リヴィアタンの体は上と下にわかれた。ビニール紐の用に裂かれ宙に舞う。その衝撃で彼の顔を固定していた大鎌は抜けていた。レヴィアタンは切り裂かれた体を修復しようとするが、少し遅かった。黒田の体から抜け出るときに彼から奪った存在の結晶が雨のように降り注いでいた。レヴィアタンは完全に勝ち目がなくなったことを悟るとすぐさま体を修復し、その場を立ち去ろうと宙へ浮き闇夜に消えようとしていたが、それを防ぐかのようにシロは彼の移動方向を塞いだ。
シロはただただ殴る、素手で殴り続ける。一匹の蛇が一瞬でも行動不能になるように彼の頭を横へ縦へ殴っていた。蛇は目の前にいる死神を完全に見失っていた。レヴィアタンの体が沈黙するとシロは上へ飛ぶ。それと同時に下からもう一人のシロが飛んでくる。速度を速め、蛇の首の切断を試みる。上にいたシロもまた、上空から落下し、蛇の首の切断を試みていた。
「平等を…君に届けよう…」
交差した二人の死神は容易にその蛇の首を切断した。跳ね上がる頭は満月と重なり浮遊する。そして渾身の力と白い光を鎌に集め、まるでボールを打つかのように蛇の頭を満月へ向け殴打した。まもなく彼の頭は空中で分解し、切り離された胴体は消滅を始めていた。
その光景をみた零花と大門は沈黙するしかなかった。圧倒的なまでの力、その力は大門さえも凌ぎ、リヴィアタンを撃破した。その事実もさることながら、シロが作成した自身のコピー、それが二人を沈黙させていた。大門は自分の記憶を再度確かめながら彼のコピーを見ていた。
(二つ名もちでもアサルトライフルを作るやつがいるが…それを通り越して人間の作成だと…あいつは何者だ…)
そんな大門の驚きを気にすることもなく戦闘を終えたシロは二人へ近づいていた。
「すいません、時間かけちゃって…」
零花がシロへ駆け寄り、まず彼の身を心配していた。
「大丈夫!!?あんな力使って無事なの?!!」
「いや、まあ…大丈夫みたい…レイこそ大丈夫?」
零花はその言葉で自分のせいでこうなってしまったことを思い出していた。
「ごめんなさい…私のせいで…大門さんにもシロさんにも迷惑かけて…」
泣きそうになりながら小さな体を震わせ、謝罪をする。そんなことをまったく気にしていなかったシロはその姿を見てたじろいでいた。
「い、いや、気にするなって。レイが無事ならいいんだよ」
「ごめんなさい…」
謝り続ける少女とそれをなだめる青年を見ながら大門は微笑んだ。
大門はシロに対して疑問は持っていたが、とりあえず強大な敵が去ったこの状況を素直に喜んでいた。大門は喜びから心が緩み、二人をからかっていた。
「そうだぞ、零花きにすることはない。それに一之宮は”零花を守る”ってはっきりと言ったぐらいだからな」
その言葉を聞き、二人は顔を真っ赤にする。
自身の思いをここまではっきりと口にしたことがなかったシロは恥ずかしくてしょうがなかった。零花はその言葉が嬉しく、またシロが戦う姿を思い返しシロの存在を意識してしまっていた。
「大門さん、あんまりからかわないでください…あの時は必死だったんだから」
「悪いな、お前があいつを倒したことが嬉しかったんで、ついな」
そこに顔を赤く染め上げた少女は自分の中で彼の存在がどんどんと大きくなる。あまりにも大きくなってしまうと恥ずかしくて自分の思いが伝えられなくなることを少女は心配していた。彼女は自分の中にある思いが伝えられなくなる前に伝えようとしていた。
「あ、あのね…シロさん…あ、ありがとう…助けてくれて」
そう静かに放たれた思いをシロもまた自分の素直な感情を零花に放っていた。
「どういたしまして。それから…僕のほうこそ、ありがとう。俺の存在を認めてくれて…」
二人はお互いに自分が抱く本当の思いを相手に渡し、相手から本当の気持ちを受け取っていた。シロは自分の中にある暖かいような懐かしいような気持ちを抱き、空を見上げ輝く満月を見ていた。そんなシロをみた零花も同じように満月を見上げるのであった。
満月の輝く夜に嫉妬は蠢いていた。静かに浮かぶ彼の頭は少しずつ回復していた。
「我、死なぬ…あの力は神の遺産…我、見つけたり…我の仲間達の下へ伝えなければ…」
「そんなこと許すと思っているのかい?」
満月を背にしてリヴィアタンを見下ろすのは神の代行者である天津であった。
「汝は…神の代行者…我に何のようだ?」
「君に今日見たことを仲間に言われちゃうと、面倒なんだよね…何よりも…」
「…?」
「僕は君に死んでもらいたいんだよ。個人的に、感情論的に、自己中心的に君がしたこと…僕は許せないからね…」
「…」
「君が死神を殺したことは別に構わないさ、だが死神同士にいらない殺し合いをさせたこと、恐怖を与えたことが気に食わない…彼らの…死神たちの心は…」
そう言いかけた所でリヴィアタンは天津を噛み砕こうと顎を開け、天津へ飛び掛る。天津はそこから消えていた。空振りを見せたレヴィアタンを見下すかのようにさらに上空にいる天津は自身の体からシロが出した光と同じような白い光を放ち、呆れや怒りといった感情を顕にする。
「はぁ…これだから悪魔は…いい加減にしてくれないかな…」
「我は神の代行者などの力などに…」
そういいかけたリヴィアタンは天の怒号のような雷鳴に撃たれ、その存在をなくした。
「…消えやがれ…」
怒りに満ちた表情を表すかのように雷鳴は轟き続けていた。
天津は消え行く存在を見届けると光を放つことをやめ、自分の姿を消していた。怒号のような雷鳴は天津が消えた後もしばらくなり続けていた。




