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死ねない死神は今日も泣く  作者: 無色といろ
Ⅲ 死神と悪魔
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チャプター18 女難の相

 シロと零花は本拠地へ帰還していた。シロの傷は重症であったが本拠地へ帰還するとともにその傷は治っていた。正確に言うならば修復されたというのが正しい説明だろう。シロは修復された体をテストするかのように右手を握ってみたり、開いてみたりしていた。


「本当に死ねないんだな…」


今のところ自分の体に不調な部分が見つからないシロは一言だけ呟いていた。シロは体の状況も心配であったが、もう一つ気になっていたことがあった。


「なぁ、レイ、悪魔に借りを作るとどうなるんだ?」

「さぁ?私も悪魔にあったの初めてだからわからないよ。大門さんならわかるんだろうけど…」

「んー何だったんだろ?体も不調ってわけじゃないし…」

「そのうち、わかるんじゃない?いつの間にか勝手に内臓一個くらい持ってかれるとか」

「それは、ちょっと怖いから…」


本拠地に帰還し安堵の笑いが零れ落ちた二人であったが、あることに気付き始めていた。死神たちの視線がいつも以上に彼らに向けられていた。シロが新人であることは初任務後のパーティで周知の事実となっていたため、それ以来声をかけられることは多くなっていた。だが、今回の視線は興味だけというわけではなかった。本拠地には仕事を終えた死神たちが大勢いたがシロに視線を向けるのが女性だけだったのだ。サレオスとの戦闘で著しく消耗したシロはそんなことよりもはやく帰りたいという気持ちが強かったため、その視線を無視してその場を離れようとしていた。ゆっくりと歩き出したシロたちであったが、なぜかぞろぞろと後ろをつけてられていた。


「シロさんなんかしたの?ちょっとこれは…」

「いや…何も覚えがないんだが…」


するとある一人の女性がシロに話しかけてきた。


「ねぇ、一之宮君…今、付き合っている人とか…いる?」

「は?」


突然の質問にたじろぐシロであった。もちろんシロは女性と初対面であった。そんなこと聞かれる覚えはなかったが質問に素直にシロは答えていた。


「いや、いないけど…?」

「ほんと?やったぁ!!」


シロが質問に答えると女性は喜んでいたが、それと同時に周りの女性達も黄色い歓声を上げていた。シロにとっては異様な光景であったことはいうまでもなかった。


「じゃあ…私と…付き合ってくれないかな…?」

「へ?なんで?」

「一之宮君のこと…す…好きになっちゃったみたいなの…だから私と…付き合って!!」

「いやいや、ちょっと待って!!初対面だよね、俺達」

「いいから、付き合って!!」


そう言い放つといきなり女性はシロに抱きついてきていた。それを見るやいなや後ろに控えていた多くの女性達が黄色い歓声とともにシロに駆け寄っていた。その状況がシロに尋常じゃない恐怖を与え、抱きついてきた女性を引き離し、シロは逃げる羽目になってしまった。零花の手を無意識に握り、シロは走り出していた。彼女達もあきらめることなくシロたちのあとを追いかける。しばらく続いた鬼ごっこであったが、何とか建物に入り周りが静かになり始めるとシロはため息を吐き出していた。


「レイ、大丈夫か?無理やり引っ張っちゃってごめん」


少し息を切らし、零花の方へ振り向くと零花は走ったことによる息切れとは思えないほど肩を上下させていた。そして顔は真っ赤に染まっていた。


「あ…悪魔の借りって…まさか…」


シロが何かに気付いた頃には零花は冷静ではなかった。シロにいきなり抱きつくとシロの胸に顔をうずめながら何かをしゃべっているようだった。


「シロ…好き…」

「ちょ…レイ!!しっかりしろって!!」


シロもそんな風に攻められてしまっては弱かった。顔を真っ赤にしながらレイを何とか引き離す。シロに残された手段は一つしかなかった。それはサレオスを呼び出して事情を聞くしかなかった。いざサレオスを召喚するために手順を確認していたが零花は引き離されたことが不服だったのか顔を膨らましながら抱きつこうとしていた。


「シロぉ…シロってばぁ…」


そんな零花の頭を精一杯手で押しのけ、召喚方法を頭の中でイメージする。そしてシロは実行した。


「レイ!!いいから見とけってお前にしか見せない特別なダンスだから!!」

「私…だけ?…うん…みる。ずっと…シロのこと見てる…」


シロは何とか零花を誤魔化し、サレオスを召喚の儀式をおこなった。

右手を上に上げて、左手を下に配置し、それぞれの両手で円を描くように半回転させる。それぞれの手を胸元に持ってきて、親指と人差し指をくっつけ乳首をつまむようにした後、シロは恥ずかしそうに例の言葉を叫ぶ。


「さっちゃん!さっちゃん!!シロちゃんの下に来てくださぁーい!!」


するとシロの目の前からさっきまで戦闘していたサレオスが黒い光から出現していた。一連の流れが終わったのを確認すると零花はすかさずシロに飛びついた。もはや、零花をとめることを諦めたシロはただされるがままであった。


「はぁーい!!どうかした?」

「どうかした?じゃねーよ。なんだよ、この状況は!!」

「え?あー…僕の力が君をハーレムの世界に(いざな)うんだ!!喜びたまえ!!あぁ…ハーレム…その四文字の甘美な言葉はすべての男性の夢!!ハーレムには無限の希望、そして愛が詰まっているんだ!!どうだい?!!感動した?」

「どうだい…じゃねーし、感動もしてないっての…」

「あれ?反応薄くない?けっこう力強くしてあるのに…今すぐ抱いてくださいっていう女の子いっぱい来たでしょ?」

「いいから、さっさとこの女難の相を解きやがれ…」

「女難の相って…えー…ハーレムだよ?ウハウハだよ?両手に花束だよ?」

「解け!!」

「ハーレムはお好きじゃないのね…じゃあそこにいる女の子だけにかけてあげようか?」


そういうと零花を指差したサレオスだったが、すかさずシロは叫ぶ。


「解け!!」

「ぶぅー…僕に負けたくせに…」

「それとこれはまったく別問題だ!!」

「じゃあ、たまには僕を呼び出してくれるかい?」

「いやだ」

「なら解かないね、悪魔に要求するなら対価が必要さ」

「く…わかったよ…一年に一回な」

「だめだよ。一時間に一回」

「多いわ!!…じゃあ…月一回」

「んー…まあ、じゃあそれで許してあげるよ…言っとくけど忘れたらまたさっきみたいな状況にするからね?今度は絶対に解かないから」

「わかったわかった…」


そうしたやり取りを繰り返し、サレオスは不服そうにしながら指を鳴らす。指を鳴らすとさっきまで意地でも離れようとしなかった零花がすぐさま離れた。零花は下を向くばかりで、喋ろうともしなかった。無言のまま零花は死力を開放しサレオスに対して攻撃を開始していた。うまい具合にサレオスは零花の攻撃を避けながらシロに話しかけていた。


「ねぇ、シロー、用件はこれだけかい?なら、僕は帰るよー?ここにいたら殺されちゃいそうだしー」

「あぁ、帰れ帰れ」

「えぇ?!!なんか冷たくない?お礼くらい言ってくれていいんだよ?」

「どうも出張サービスご苦労様でした。お帰りください」

「もー素直じゃないんだから…まあ、いいや。帰るねー」


無言の零花の攻撃をサレオスは避けながら叫ぶと、黒い光に包まれ、その場から消えていった。抹殺すべき対象のいなくなった零花は再び下を向くばかりであり、会話のしようがなかったシロは帰ろうかとだけ聞くと零花はコクンと頷き、二人は各々の宿舎へと向かった。


 自分の部屋へと帰宅したシロはふと昔の恋愛を思い返していた。シロは女性に対して自分から迫ることはなかったが、女性から告白されることはたまにあった。そのたびシロはその女性に対して何か特別な感情を抱いていたわけでもなかったが、嫌いというわけでもなかったため断ることも出来ず、大抵は付き合うことになっていた。徐々にその女性と距離が縮まる内にシロは少しずつではあるが人生に希望を持つことが出来るような気がしていた。そして、その女性に対して好きだという感情が芽生えていく。

しかし別れは突然やってくるのであった。


 突如として女性のほうから別れたいという意思を聞かされるのである。シロは自分が何か悪いことをしたのではないかと自分の行動を思い返してみるが結局何も思い当たらない。女性に聞いてみても何も答えることはなく、女性はただシロとの関係を一方的に断つだけであった。

そんな恋愛をシロは何度か繰り返してきた。シロは一つの恋愛が終わるたびに自問自答する、何が悪かったのだろう…と。時には相手の悪かったところも考えてみたり、悪口を言ってみたりする。しかし彼は結局のところ、自分が何か悪いことをしたから彼女は去っていってしまったのだ…とすべて自分のせいにしてしまうのであった。シロには過去の女性達がなにを考え、自分との関係を断ったのかわからなかった。わからなかったからこそすべての責任を自分に押しつけ、先へ何とか進もうとするのであった。


そんな彼も、とうとうすべてが嫌になってしまい、恋愛を拒むようになってしまったのだった。

恋愛を拒むようになったシロはもとより自分の本性を仮面で隠し生きてきたが、拍車がかかり誰も信じなくなってしまっていた。


誰かに裏切られるなら恋愛なんて、人付き合いなんてしたくない。

誰かを裏切ってしまうのなら恋愛なんて、人付き合いなんてしたくない。


 彼はそう心に刻んでいた。もう面倒ごとはたくさんだと言わんばかりにシロは自分の本性を隠し続け、生きるつもりであった。死んで開放されると思っていたが、結局彼は死神として存在し続けなければならず、今日の出来事も逃げることしか出来なかった。彼にとってハーレムなど何の価値も持たないものである。女性の数が増えるたびに、恋愛の数が増えるたびに、恋愛が終わりを告げるたびに彼は再びすべての責任をかぶり、自分の心を折る。そんなことに何の意味があるのだろうと彼は思っている。


 過去の恋愛事情を思い出した彼はひどく憂鬱な気分に陥ってしまっていた。いまさら後悔したところで何も変わらないことはわかっていながら、憂鬱な気分になる。過去をきっぱりと切り捨てることが出来ないシロはこんなことで憂鬱になっている自分がさらに嫌になっていくのであった。


気分がどん底まで落ちたところで彼はもう部屋の明かりを消し、ベッドに入った。

シロは過去のクラスメイトが雑談交じりに話していたことを思い出していた。


”人生はクソゲーだ”


シロはその意見に賛同していたが、今は違う。

クソゲーであったとしても結局はゲームだ。いくらでもやり直しがきくのである。それに比べて人生はどうだろうか…コンティニューもなければ、リプレイもない、セーブポイントだってないのだ。

シロにとって人生は、ありもしない自分の存在意義を見つける終わりのないものであり、振り返ることも許さない傍若無人な時間の流れでしかないのであった。

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