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死ねない死神は今日も泣く  作者: 無色といろ
Ⅲ 死神と悪魔
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チャプター12 選択の意味

 死神という存在は昔から宗教、神話に深くかかわり、たびたび登場する。その存在はそこに住む人々の生き方、思想、地域性などによって容姿や役割は変化する。あるときは黒いローブを着用し大きな鎌を持っている。またあるときは人間を直接的には死に至らしめないが、その人間を死にたくさせる。時には死神の存在は”死”だけではなく”生”を象徴することもある。

これは実体をもち、生きているものたちが伝承してきた知識である。


シロたちのように存在している死神たちも生前は死神の存在を確認できないまでも死神のことを知ってはいただろう。もしくは死神という言葉を知らずとも死を運んでくる実体を持っていない不吉な存在を感じたことがあっただろう。大門はその後者であった。


 彼が死んだのは約100年前であった。時代は明治、いくらか平和になったとはいえ近代的な、当時は最新の兵器を用いた戦争は行われていた。そんな戦争に巻き込まれた人間の一人である大門はこんな世界に生まれたかったわけではなかった。そのことを考えると無性に悲しくなっていたが大門にはどうすることも出来なかった。大門が参加させられた戦争で多くの仲間たちが死んでいく中、戦場で彼は一筋の閃光を見た。しかしそれは他の人間には見えないようであった。見えているのであれば確実に自分の歩みを止め、その閃光に目を奪われるからだ。大門にとってはそれほどの閃光だったのだ。

瞬間、その閃光巻き込まれた兵士は次々に死んでいった。


 不思議なこともあるものだと思っていたら再び閃光が走る、やはりその閃光に巻き込まれた兵士たちは死んでいった。もしかすると自分には何か特別な力を持っているのではないかと思ったが、それは違っていた。次は大門を巻き込み閃光が走る。そこで彼は気づく、その閃光の中にうごめく人のような存在に。そして彼は一つの結論を出した。これは神の光、何者にも平等に訪れる死の光、遅かれ早かれ人は死ぬ。俺には早く訪れるだけだ、と今までの思い出を走馬灯のように思い出す。しかし大門が思い出した走馬灯はこの大門が生きた時代を後悔するものだけであった。思い出すことすべて、この世界への後悔や怒りだけであった、そのことを自覚すると彼は自分の小ささに絶望していた。その時、彼の脳天に一発の銃弾が直撃した。

彼は見知らぬ部屋にいた。そこはシロがいた部屋と同じであった。


その後の彼の物語も簡単には語れない。

大門自身も死神として働き続け、何度も何度もいやな思いをしてきた。時にはたった一つの存在を奪い合い、時には裏切り者と言われたこともあった。大門は生前も死後もあまりに多くの命を失った、失い続けた。彼が唯一得たのは死神として生きることか、消えてなくなるか、その選択肢だけだった。その選択肢に直面した時、彼は消えていったものたちのことを思い出した。守れなかったものたちを守りたいと言う気持ちに押され、彼は借神(しゃっかん)を返済し終えた後も死神として生き続けることを決めた。

その決意を大門が死神となった時期と同時期に神になった天津に伝えると、天津はただ笑いながら、そんな偽善のために死神を続けることに何の意味があると言っていた。

大門自身は守れなかったものを守りたいという気持ちが偽善であることを知っている、だからこそ、それが偽善でなくなるまで彼は生き続ける、守り続けると決めていた。

この世界に来た元人間たちが仕事終えた時、たった二択とはいえ選択することが出来るまで、誰一人として存在を消させないことを誓い、ただ一人、行動していた。

ただ、守るために…


 死神は全世界に存在していた。しかし大門のように借神(しゃっかん)を返し終えている死神は10%にも満たない。それは死神の世界におけるルールに原因はあった。

人間は一つのことを思い続けることは非常に困難であり、現状を維持しようとするのが人間である。死神たちには悠久の時間が与えられ、どんな絶望を与えられていようが、その感情はいつの間にか薄れてしまう。それゆえ彼らはいつの間にかこの世界が本物であるかのように感じてしまうのであった。本物であるかのように感じてしまったが最後、死神たちは普通に生活をすることになってしまう。普通に食事をし、普通に遊び、普通に恋をし、普通に生きる。それは自分の絶望と向き合うこととは正反対のことであった。与えられた普通の生活は今まで普通でなかった彼らにそれらを失うことを恐怖させ、死神としての力を弱らせる。そして死にたくないと心から思った死神から消えていく。

そんなシステムの中、自らの借神(しゃっかん)を返しきった死神は神の代行者である天津に残るか消えるかの二択のうち、どちらを選択したのか報告する義務が発生する。消えることを選択するものが多い中、死神の世界で生き続けることを選択した死神には二つ名が与えられ、場合によっては一国全ての死神の統括を任される。

大門はそのうちの一人であった。


彼の何人(なんぴと)も守りたいという思いは、彼自身にとっても神にとっても偽善の塊でしかなかった。しかしそんな死神がいても悪くはないと天津は感じていた。そんな彼に天津は”閻魔地蔵”という二つ名をつけていた。地蔵菩薩の化身とされる閻魔は死後の世界において日本古来より冥界の王として死者を裁く存在である。しかし閻魔の元であるとされる地蔵菩薩は無限の大慈悲で苦悩を抱えた人間たちを救うとされていた。そんな地蔵菩薩に彼を重ね、厳しくもやさしくあれという願いを込め天津は大門に”閻魔地蔵”の名をつけた。

しかし大門は自ら閻魔地蔵と名乗ることはほとんどない。地蔵菩薩に自分を重ねてしまうほど大門は自分を評価していないからだ。大門が自分に対する評価はともかくとして、大門が日本を統括し始めてから日本の死神は存在を消されたことはなかった。


大門はいつまでも自分の力が通用するとは思っていない。

いつの日か消えてしまう、その日まで彼は彼自身のために守り続ける。自分を、他の死神を、そして誓いを守り続ける。

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