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機甲少女  作者: 式部ゆかり
第一章
2/6

2

「――飛鳥少佐!」

「大尉、無事ですかッ!」

 その機甲少女――松本駐屯地聯隊(れんたい)所属、飛鳥桜少佐は、健三に駆け寄った。健三が左腕から血を流しているのを見て、顔を歪ませる。

「左腕を……申し訳ありません、来るのが少し遅かったようです。処置はしましたか?」

「いえ。まだですが、自分のことはどうぞお気になさらず……それより、少佐、なぜあなたがこんなところに?」

「あれだけの大爆発があったんですよ。駆けつけるでしょう?」

「あなたは本隊と共に撤退したと聞いておりましたが……」

「ついさっき私の使用許可が下りました。こうして私も戦えます」

「……なるほど」

 使用許可。まるで人を物のように扱う。健三は目の前の兵器としての少女を見つめた。

「しかし、それにしてもよく生きていましたね、大尉」

「幸運でした。ともすれば私もその建物の中で焼け死んだのかもしれないのです」

「〈鏑矢〉ですか? それにしては被害が深刻すぎる……」

 桜は尚も燃え上がるビルを振り仰いだ。たったの一瞬で多くの同士の命を失った。健三は俯いた。奥歯がぎしぎしと軋むんだ。

「無論、迎撃レーザーを飛ばしました。しかし、まったく効果なく……」

「効果がなかった……連中、そんなものをどこから……」

 桜は巡航ミサイルが飛んできた方角を鋭い目つきで見つめた。

「しかし大尉、よくもまあそんな軽装備で、完全装備の敵兵とここまでやりあえたものです。射撃の腕は流石ですね」

「いえ、賞賛に値するものではありません、少佐」

「そうですか? まあ、それより傷の応急処置が先決です。私がします、患部を見せて」

「……かたじけない」

 健三が軍刀を鞘に戻すと、プシュッ、と炭酸が抜けるような音と共に、中から桜の生身がその姿を現し、地上に降り立つ。

 白いG耐用スーツを着た桜の身の丈は、健三の胸あたりまでしかない。一見、ただの少女に見えかねない。

 桜は胸ポケットから湿布のようなものを取り出すと、健三の患部にそれを貼り付けた。瞬間、蛍光グリーンのホログラムが現れ、傷の状態をスキャンする。この湿布は怪我をする前の状態の情報を読み取り、急激に細胞分裂を促すことで元の状態を再現するものだった。

 健三の顔が復元に伴う痛みで歪む。しかし数秒後に桜が湿布を剥がすと、そこには傷はなくなっていた。

「よし、できた」

「ありがとうございます、少佐」

「さて。そろそろ第一中隊が到着した頃――」

 彼女が言い終えないうちに、爆発音がこちらに聞こえてきた。向こうの大通りからだった。

『第一中隊、敵と交戦を開始! 機甲少女の増援を求む!』

 ノイズ交じりに桜の無線から応援要請の声が聞こえてくる。背後では弾丸が空気を裂く音が絶えない。

「と、言っている間に新たな敵が来たみたいですね。私は前線に出ますが」

「……私は、手負いの上、おそらく戦闘には加われません。それよりも、先ほど本部から連絡がありまして、任を授かったばかりです」

「そうですか。ではそちらを優先してください。これを使って」

 脇のポケットから桜がサブマシンガン――UZIを取り出す。百年以上も前のモデルだ。それは機甲少女の強化外装の手が握るにはあまりにも小さすぎた。しかし、それは万が一の事態で機甲少女の生身で戦うことになった場合の最後の武器である。

「いえ、少佐、自分の武器があります。これは、追い込まれたあなたの身を最後まで守るものだ。こんなところで借りるわけにはいきません」

「担保。使えるときが来るかもしれないでしょ」

「しかし――」

 反論しようとする健三を無視して、桜はUZIの所有ライセンスを自分から健三に移す。はあ、と健三は再びため息を吐いた。

「……それと、もし肉弾戦になったときに、その装備では軽すぎます。チョッキがあるとないだけで違います。そこに倒れている者から必要なものはすべて取っておいて」

 死んだものから物を取り上げるという行為は後ろめたかった。しかし、ろくな装備が揃っていない以上自分の身を守るためにこういうことをしなくてはならない。

 健三は倒れている反体制派の兵士が身に着けている装備を取っていった。しかし体の各部分を守るプロテクターや防弾使用のコートを剥ぐだけであった。武器はライセンスが取れず使えないので、奪っても意味がない。

「私はもう行きます。健闘を祈ります」

「ご健闘を」

 バシュッ、と音がして機甲外装の背面部のブースターが青く火を吐き出す。そのまま飛び出すと、加速してあっという間にその姿は見えなくなった。

 健三は桜から授けられたUZIの銃把を握り締める。そして、彼もまた、任を背負って走り出した。

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