前編
私の名はラエリ。ある方の側近として仕事をしている。
あの方は側近を複数お持ちの方だが、そのなかでも、私は最上位の「一の側近」の地位をいただいており、自分で言うのもおこがましいが、有能なほうなので、かなりあの方のお役に立てていると思う。
先日も、あの方の代理として、あの方の管轄の《界》で起きた問題の対処を任された。
あの方の視察に同行させていただいたことのある側近はほかにいても、単独で政務代理を任されるのは私か、二の側近のラエル、五の側近リエラの三人くらいしかいないだろう。あの方が自身の側近に求める能力の基準値は高い。代理を任せられるだけの統治力と判断力がなければ、代理役には選んでくださらないのだ。
当然、側近にそれだけの能力を求めるだけあって、あの方の能力は高く、それに見合うだけの地位や称号も複数お持ちだ。そんな方の側近に選んでいただけたことは、私にとって誇りである。
…だが…今回ばかりは、単独での代理さえ任せていただける自分の有能さが、少し(どころでなく)憎かった。
私が代理業で留守にしているあいだに、あの方のホームグラウンドである直轄《界》でひと騒動あったことを聞かされたのは、代理で処理した問題の報告をあの方に上げにいく直前、六の側近の口からだった。
「なぜお前が一緒に対処させていただいたりしたんだ…!」
「…いやそんなことを言われても」
「お前は武力寄りだろう!そんな細かい事務処理は苦手だったはずだ、あの方によけいな面倒をおかけしたりしなかっただろうな…!?」
「そこはさすがに信用してもらいたいんだが…」
目の前で眉をハの字に下げて情けない表情をしてみせるのを見て、多少、溜飲を下げる。
しかし、ほかにもこいつは自作のサンドイッチを召し上がっていただいて、その上「また腕をふるってほしい」とのお言葉までいただいているのだ。なんと羨ま……いやいや。
「そのことで私に話があると、あの方が仰っていたんだな?」
「…そうだ。もうじき来るはずですと申し上げたら、待っていたからちょうどよかった、と」
「『待っていた』だと!?」
そういうことは早く言え、と言い捨てて、そのまま、あの方の執務室への通路を急ぐ。お待たせしていたとは…!
背後で六の側近がまだなにか言っていたが、きれいさっぱり無視してやった。
とんでもない早さで走り去ったラエリの背中を見送りながら、六の側近リエナは、いちおう言っておくことにした。
「たぶん、走るなって叱られるぞ、お前」
どうせもう聞いてはいないんだろうけど、と思いながら。