偽りの世界の中で [五千文字小説]
秋羽 梨紅さんからのリクエスト作品です。
では、宜しくお願いします!!!
「好きだよ・・・」
俺はこの言葉を、どれだけ君に言っただろうか?
そして、それを聞いて君も俺に同じ言葉を言った。
「あたしも好きだよ・・・」
お互いに大好きで、 両想いだと思っていた。
だけど、そう思っていたのは俺だけだったのかな?
苦しいよ、とっても。 苦しいよ、俺だけが―――――。
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ある日の俺達2人の最後のデートである。
「ねぇ、、、あんたさ、、、」
「あたしのこと、まだ好きなの?」
君はデートの集合時間に少し遅れてきて、まず始めにそう言った。
「え・・・?」
俺は、君の言葉の意味がわからずに聞き返した。
だけど、君は同じことを繰り返すのである。
「まだ好きなのか? って聞いてるのよ!!」
「聞こえてるでしょ? 早く返事してよね!!」
『意味がわからないよ・・・』
俺は心の中で、そう言った。
集合時間に遅れたことのない君が、珍しく遅れてきて、そして突然「好きなの?」と聞いてくる。
俺は、今まで君に何度も「好きだよ」と言ってきたよね?
今更、俺の気持ちを知ったところで答えなんか同じなのに、君はそれでも聞くのだろうか?
「好きだよ・・・」 俺はいつものように君に答えた。
だけど、君は言うのである。
「あたしは好きじゃない・・・」
「それじゃあね!」と―――――。
俺の気持ちはどうなるのだろうか?
「それじゃあね!」って明日も学校で会うのに、どういう顔で会えばいいのか?
君には他に好きな子ができたのだろうか?
俺は、、、俺には、、、何が残されているのだろうか?
待ってくれよ、 俺の気持ちは、、、俺の“好き”はどこに行くのか?
君にとって、俺のどこが駄目だったのか?
説明もしないまま、君は俺を突き放すのか?
君は・・・君は・・・そんなんでいいのか・・・?
俺を残して、君は行ってしまうのだろうか・・・?
―――――●―――――○―――――●―――――○―――――●―――――
次の日の学校である。
俺はクラスに入り、友達と顔を合わせた。
「おはよう!」
俺はこれ以上にない笑顔で友達に言う。
だけど、友達はそれに気付き、俺にその理由を聞いた。
「おはよ、 ってそのテンション、何かあったわけ?」
「お前、なんかいつも以上に笑顔じゃねぇか?」
俺は誰にも理由なんて言いたくなかった。
だから、俺は嘘を吐くのである。
「別に?何もないけど?」
それが良い嘘だったのか、悪い嘘だったのか、 それはわからない。
だけど、俺はその時確かに友達にそう言った。
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帰りの会が終わってからのことである。
「今日どっかに遊びに行く?」
俺の友達が、周りの数人に向かって聞いてきた。
もちろんその中には俺も入っている。
だが、俺は断わることにした。
「ごめん、今日は用事があってな!」
「だから、残念ながら遠慮しておくよ・・・」
そう言った俺の友達は、俺が彼女と別れたことを知らない。
だから、友達の言葉は俺の傷を無意識に抉ることになった。
「おぉ! デートですかね?」
「そりゃあ、邪魔なんかできないわぁ~~」
「おふたりで楽しんでラッシャイ!!!」
そこで周りにいた人達は笑った。
そして、同時に俺も笑った―――――。
それから、泣きたいくらいの気持ちを抑え込んで、俺は「それじゃあ!」とあの時の君が吐いた言葉を同じ笑顔で友達に言った。
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俺の心はボロボロだった。
砕け散って、粉々になって、それでも少しは形が残ってるから、感情がそこにはあって・・・。
悔しかった―――。
君が俺に、別れた理由すら教えてくれないことが。
次の日、、、俺は再び学校に行った。
「おはよう・・・」
いつもと変わらない、挨拶の繰り返し。
ただ、誰にも彼女と別れたことを気付かれないように、今日は控えめの笑顔。
それだけが、昨日とは違った―――。
だから、友達は俺に何も言わなかった。
だけど、それとは別に問題が起きるのである。
《俺が彼女に酷いことをした―――――》
その噂が、学校中に流れたのである。
どこに本当の言葉があるのだろうか?
《君が突然俺に別れを告げた―――――》
《何が理由かもわからないから、俺はどうしていいかわからないでいる―――――》
これが事実じゃないのだろうか?
なのに、不思議と学校では偽の噂が広まったのである。
【あいつさ、、、 酷いことしたんだって。 サイテーだよね~ ほんと、彼女だった子が可愛そうだよ。 なんで平然と笑顔で入れるわけ? 何もないって言ってたけど、自分が酷いことしといてよく言うよ。 なんだよ、あんな奴・・・・・】
悪夢に思えた・・・。
全てのことがスローに見えて、全てのことが俺に刃を向けていた。
『死にたい・・・』
そんな時に、生まれた一つの感情。
『苦しい・・・』
俺の中にずっとあった感情が、新たに生まれた感情の背中を押した。
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浴槽に張られた水。
そこに交じりゆく、真っ赤な俺の血。
手首からの感覚が、すでにない。
心もゆったりとした気分になる。
「温かいなぁ・・・」
俺の血は温かかった。
切り口は熱を持ち、俺の冷めた心を温める。
そこで生まれた感情が、「やっと死ねる・・・」
俺はずっと死にたかった。
彼女に振られてから、ずっと我慢を続けた。
だけど、それも今日でおしまい。
たった数日の我慢だったけれど、俺には何十日にも、、、何年にも、、、永遠にさえ思えた。
だけど、それも今日で終わり。
「俺はやっと死ねるんだ―――」
俺は、そこで意識を失うことになる―――――。
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俺が目覚めたのは、なぜか自分のベッドの上。
『あれ? 死んだんじゃなかったのか?』
俺はベッドで寝ている理由がわからなかった。
俺は生きている理由がわからなかった―――。
だが、その謎もすぐに解けることになる。
「あんた! なんで自殺なんて考えたの?」
ベッドで横になっている俺の顔の目の前にあったのは、俺の母の顔だった。
母が言うのは、お風呂で血だらけになっている俺を発見して、手首を押さえながら急いで病院に連れて行き、医者に手首の出血を止めてもらった。
そして、しばらく医者が「絶対安静」と言ったとのことで、ベッドの上で寝かされていた。
たった、それだけのこと―――――。
だけど、俺にはそれが余計なことに思えた。
「なんで・・・俺を助けたんだ・・・?」
俺は弱弱しくなってしまった声で、母に尋ねた。
だけど、母は言うのである。
「あんたねぇ、本気で死にたいなら手首なんかじゃ駄目よ?」
「もっと、首とかを思い切ってスパッって切らなきゃ駄目よ?」
「だけどね、あんたは生き残った・・・」
「だって、私の子供なんだもん!」
「それくらいの生きる力が有り余ってないとね!?」
「だから、何があったのかは聞かない」
「だけどね、もう“自殺しよう”なんて考えちゃ駄目よ?」
「人は簡単には死ねないから、今回だって痛かったし、辛かったでしょ?」
「だから、そのことを忘れないで、少しずつでいいから前向いて行こうよ・・・」
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俺は母の言葉もあって、手首の傷が治ってから、再び学校に行くことを決める。
だって、俺は何もやましいことなんてしてないんだ。
だって、俺は何も悪いことなんてしてないんだ。
だから、俺は堂々と学校に行こうと門をくぐった。
だけど、そこにあったのは冷たい目線。
俺の自殺未遂事件は知らなくたって、休んでいる間に根も葉もない変な噂がまた沢山広まったんだろう。
【女連れまわして学校休んだんじゃない? きっとそうだよ。 サイテーな奴なんだもん。 絶対なんかヤッテるって・・・ 死ねばいいのに・・・】
俺はその屈辱に必死に耐えた。
周りの友達も次第に俺を避け、俺は独りになりかけた。
だけど、“俺がそんな奴じゃない”と知っている数少ない親友は、俺の傍にいてくれようとした。
だけど、陰では絶対に何か言っているのではないか?
俺は友達を疑った。 いけない事だと知っておきながら。
ほとんど独りと変わらない生活ならば、いっその事たった独りで構わないのに・・・。
俺はそう思っていたから、友達すら敵に見ていた。
だけど、ある時、一番仲の良かった友達が気付くのである。
「なぁ、お前さ・・・自殺しようとしたの・・・?」
「その手・・・見せてみろよ・・・」
俺は「嫌だ」と言おうと思ったのだが、俺の腕を親友が力強く掴み、袖を思い切り捲ったので、俺はその言葉を言うことができなかった。
「俺さ・・・今まで、お前が悪いなんて思ったことないんだよ・・・」
「だからさ、正直に今までのこと・・・元カノとのこと話してくれないかな・・・?」
俺は、親友に言われた―――――。
―――――●―――――○―――――●―――――○―――――●―――――
「それ、本当の事だよな?」
「嘘なんか言ってないよな・・・?」
俺は親友の家で、本当のことを告げた。
「あぁ、本当の事だよ・・・」
「俺は悪くない・・・そう思うんだ・・・」
俺は、彼女とのことを告げた。
そして、それを聞いて親友は言うのである。
「そうか、、、じゃあ、あの噂もあいつが流したってとこかな?」
「あいつは・・・お前の元カノは、お前の評判を下げてやろうって考えたんじゃね?」
「自分には新しい彼氏ができたし、昔の彼氏はオモチャにでもしようとか考えたんじゃね?」
「あいつなら、やりかねない事だよ・・・」
俺に向かって親友は言った。
俺は大好きだった親友を一度でも疑ってしまった。
いいや、きっと心の奥底では、もっと前から疑っていたのだろう。
彼女のこと・・・元カノとのことがなくたって、
ずっと前から、俺は親友のことを疑っていて、信用していなかったのかもしれない。
俺はみんなが言うように、最低な人間だ。
だけど、それは“元カノに酷いことをした”とかそんな理由じゃなく、
友達を、、、そして、周りの人間を信用することができなかったから・・・。
だから、元カノも俺に「別れ」を告げたのではないのだろうか?
悪かったのは全て俺・・・。
人を信用することができなかった俺は、本当に最低な人間。
だけど、今回それに気付くことができた。
もしかしたら、気付くのに時間がかかりすぎていたのかもしれない。
だけど、今回気付くことができたのは事実。
それは、俺の傍で支えてくれた親友のおかげ。
だから、俺は前を向きながら、こらからを歩いて行こうと思う。
人を信じるというのは、難しいことかもしれない。
だけど、俺には傍で支えてくれる人がいる。
だから、俺はひたすらその人達を信用し続ければいいんだ―――。
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俺は次の日の学校で、周りの友達にも昨日と同じことを言った。
信じてくれた友達、、、信じてくれなかった友達、、、俺のことを信じ続けてくれていた友達、、、いろんな人がそこにはいた。
だけど、信じてくれていた人間はみんな声を揃えて言うのである。
「噂の真偽に不安になってたけど、信じてたよ」って―――――。
俺は、その言葉がとても嬉しかった。
俺には、みんなが敵に見えたのに、みんなはこんな俺を待ってくれていた。
「ありがとう―――」
俺はこの5文字の言葉を、周りの大事な人間、、、大好きな友達に告げた。
それから、少しずつ・・・
少しずつではあるが、確実に学校全体に広まっていた噂が消えていった。
それは、俺の友達が誤解を解こうと、“悪いのは彼女の方”という噂を逆に流してくれたからである。
持つべきものは友達―――。
俺は、大切な友達に支えられて笑顔を取り戻すことができた。
だけど、“悪いのは彼女”と言うのが広まってしまえば、必然的に元カノの居場所がなくなってしまう。
だから、俺は“過去のことは水に流す”と言うことで、チャラにすることにした。
だって、今回“信じる大切さ”を知ることができたのは、彼女のおかげなんだから・・・。
そして、彼女を心の奥底から信じていなかった俺の方も悪いと思うから・・・。
だから、俺は君にも言うのである。
心を込めての、ありがとうを―――――。
梨紅さん、変な感じになってしまってすみません(^_^;)