9.私だってボナを守りたいのだ
「貴様が私に『美女灰』など投げつけさせたから、ボナが苦しむことになったのだ。死んで償え」
ジョット殿下は一切ためらうことなく、ベアトリーチェ殿下に斬りつけた。
「ジョット、なにをしているのだ!?」
国王陛下が問いかけられた。
ジョット殿下は血塗られた剣を持ったまま、今度は国王陛下の前に立った。
「父上はベアトリーチェの行いを黙認しておられましたね。父上がさっさとベアトリーチェを裁いていたら、このようなことにはならなかったのですよ」
ジョット殿下は国王陛下のお身体を剣で突き刺した。
「ひっ、ひぃい……!」
第二王子ライモンド殿下が奇妙な声を上げながら、椅子から転げ落ちるようにして逃げ出した。
ライモンド殿下はすぐに隊長に捕らえられ、隊長の配下の近衛騎士に拘束される。
「ライモンドの存在も気に入らないが……。ライモンドは実母が罪を犯すのを止めなかった。王位継承権を剥奪の上、北方の城に幽閉とする。ライモンド、父母と私のこの姿を忘れることなく、私の温情に感謝して生きろ」
ジョット殿下はライモンド殿下に剣の先を向けた。
ライモンド殿下は涙を流しながら、黙って何度もうなずいておられた。
私は驚きすぎて、その場で固まっていた。
敵方の者たちも同様で、動きを止めている。
国王陛下も、王妃殿下も、死んではいないようだが……。
どう見たって瀕死ではないか……!
あれはご回復までに、だいぶ時間がかかるだろう。
「ボナの痛みは、こんなものではなかったと思いますよ。父上がしっかりしないから、こんなことになるのです」
ジョット殿下は国王陛下の胸倉をつかみ、説教を始めた。
いや、待ってくれ! 私はもう美女ではなくなっているのだ!
――ああ、逆か……。
ジョット殿下の愛した『美女ボナ・フェルス』は、もういない。
「父上、聞いておられるのですか?」
いやいや、本当に待ってほしい! 瀕死の国王陛下をあんなに揺さぶったら、そのせいで亡くなってしまうのではないか!?
隊長、第一王子近衛騎士隊の隊長として、ジョット殿下をお止めしてくれ!
私は祭壇の横にいる隊長を見た。隊長は魂の抜けたような顔をして、荒ぶるジョット殿下をぼんやり見ている。
「ジョット殿下! おやめください!」
私は王族席へと跳躍し、ジョット殿下の横でひざまずいた。
「ずっと我慢してきたが、もう許せぬ。誰がなんと言おうともだ。言ったはずだぞ。私だってボナを守りたいのだ。もう許せぬ」
二度も『もう許せぬ』とおっしゃるのか……。それほどに『許せぬ』のか……。
「ジョット殿下……」
「これでは私が腰抜けのようではないか。もうボナに傷ついてほしくないと言っただろう? あちらこちらの顔を立てて、おとなしくしてきたが……。こんなことになるならば、私も好きにさせてもらう」
「本当におやめください。国王陛下が死んでしまいます」
「死んでも大丈夫だ。私がすぐに即位するからね。こんな時のための王位継承権第一位だよ」
そうなのか!? そういう問題!?
「ジョット殿下、必要でしたら、また『美女灰』をかぶります。ですから、落ち着いてください。ベアトリーチェ殿下がまだ生きておられます。治療と引き換えに『美女灰』の入手経路を聞きだします」
「なにを言っているのだ! そんなことをしたら、ボナがまた痛い思いをするだろう!」
「あれしきの痛み、いくらでも耐えられます! ジョット殿下にご寵愛いただけるなら、自分から『美女灰』をかぶりたいくらいです!」
私が自分から美女の姿を望むなら、ジョット殿下には罪悪感もないだろう!?
「ほら、見ろ! ボナが私をクズだと思っているではないか! 貴様のせいだぞ!」
クズ……!?
ジョット殿下は国王陛下を放し、今度はベアトリーチェ殿下の胸倉をつかんだ。
「クズだなんて、そんなこと思っておりません!」
ジョット殿下は一体どうしてしまったのだ……!?
私がまた『美女灰』をかぶって、元の美女に戻ったら済む話だろう!?
「こいつが『美女灰』を持ち出したから、話がこじれたのだ! いや、そもそも、こいつの野心が私とボナを引き離したのだ! ライモンド諸共、さっさと始末するべきだった!」
ベアトリーチェ殿下も、そんなに胸倉をつかんで揺さぶったら、亡くなってしまう……!
「ちょっ、待っ……っ」
ライモンド殿下は目を剥き、なにか言おうとしていた。だが、あの動揺ぶりでは、まともにしゃべれないだろう。
「もう許せぬ! なにが立太子式だ! 今から私がこの国の王だ! ボナを守るために、この場で即位してやる!」
ジョット殿下が完全にブチギレている……!
「国王陛下、ご即位おめでとうございます!」
隊長がいきなり叫んだ。自暴自棄になっているとしか思えない!
「我らの新たなる『三つ頭の翼獅子』に、神の祝福を!」
立太子式を見守っていた大神官様まで叫ぶ。
ジョット殿下は国王陛下の頭から王冠を奪い、片手で自分の頭に載せた。
「国王陛下、戴冠おめでとうございます!」
大神官様、それで良いのですか!? 大神官様が王冠を授けるのでは!?
大神官様が近くにいた神官に命令を下し、神官たちが罪人となった三人を連れて去っていった。
ジョット殿下は私の腕を引いて立たせると、祭壇の中央に戻った。




