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王子様の代わりに呪いを受けたので、好きなように生きてみます(※王子様のせいでできない)  作者: 赤林檎


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6.恋物語では片思いの相手に渡す品物だが?

「ボナはこれまで、あまり休暇をとっていなかっただろう? 少しゆっくりするといい。人生には、楽しいことがたくさんあるのだ」

「ありがとうございます」

 私があまり休暇をとらなかったのは、なるべく現王妃殿下のおそばにいるためだ。


『ジョット殿下は、このボナが必ずお守りします』

 私は、亡き前王妃ステファニア殿下にお約束したのだ。そして、ステファニア殿下との約束を果たすため、ジョット殿下の政敵であるベアトリーチェ王妃殿下の近衛騎士になった。女の私にしかできないことをするために……。


 私にとって、ステファニア殿下はやさしい母のような方だった。見習い騎士だった私に、こっそり甘い焼き菓子をくれて、笑いかけてくれた。


 ステファニア殿下は南部辺境伯家の出で、南の大国の王女を母に持つお方だ。ステファニア殿下が、私のこのいかにも南方の出という容姿を気に入り、直々に近衛騎士隊に推薦してくださったから今がある。


 こんな私に恋物語を読み漁る楽しさを教えてくれたのも、ステファニア殿下だ。


 私は恋をしたところで、成就などするはずのない容姿だ。たくさんの恋物語が、現実では得られるはずのない恋の楽しみを体験させてくれた。


 最期まで、ステファニア殿下を『母上』などと呼ばせていただくことはなかったけれど……。ステファニア殿下は、私にとって特別なお方なのだ。


「ジョット殿下、お忍びで街歩きなど危険でございます」

 私はジョット殿下に、お怒りを恐れず申し上げた。私が守ったお命を大事にしてほしい。


「ボナはやさしいね。大丈夫だよ。第一王子近衛騎士隊の三十人総出で護衛してくれているからね」

「は……?」

 私は思わず声をもらしてしまった。隊長を見ると、渋い顔をしてうなずいた。そうなのか? 三十人全員で? 今も護衛されているのか?

 この方は、いずれ国王陛下となられるお方だ。近衛騎士隊をそのように使うこともある……のか……? ちょっとわからない……。


「それでは不安だったので、王宮警備騎士団から二十人、王都守備騎士団から五十人を出してもらっています」

 百人規模での護衛なら、大丈夫か……。

 王族だって息抜きが必要だよな! うん、わかる! ジョット殿下にだって、お忍びで街歩きしたい日だってあるさ!

 私は強引に自分を納得させた。


 隊長の目が死んでいるように見えることは、気づかなかったことにする。これが物語の挿絵なら、隊長の瞳には、白いハイライトが一つも入っていないだろう……。


「どうせなら、王都広場まで行こうか。今日はたしか露店が出ていて、買い食いができる」

 こんなお上品な顔をしたお方でも、買い食いとか言うのだな……。

 ジョット殿下は隊長に命じ、隊長はまた御者に指示を出した。


「おう、隊長、いいっすね!」

 この返事……。どうやら、御者も騎士であるようだ。腕は立つけれど、頭はあまり良くないタイプか……。

 露店が出ているような場所での護衛なんて不安しかない……。


「がんばるしかない」

 隊長が自分に言い聞かせている。お気の毒だ。



 馬車は、王都広場の近くの馬車止めに駐車された。

 私はジョット殿下に手を引かれて、馬車から降ろしてもらった。

「お嬢様、お手を」

 なんて笑顔で言われて、ついジョット殿下の手をとってしまったのだ。

 後で不敬罪で処刑されたりしないだろうな……。ああ、そうさ、きっと、お忍びだから許されるさ……。


「ボナ、食べたいものがあったら言ってくれ。私のおすすめは肉の串だ」

 元の私は『怒れる猛牛』だからな……。いかにも肉の串を好みそうだよな……。少し悲しくなりつつ、ジョット殿下の腕につかまって歩いた。


 ジョット殿下に『おすすめの食べ物』なんてものがあるということは、けっこうお忍びで王都広場の露店に来ているということだろう。ならば、護衛たちも慣れているだろうから安心できるな。


 私はジョット殿下のおすすめの店で、肉の串を買ってもらった。

 細い木の串に、牛の肉が四つ突き刺さっている。

 私は先端の肉を口に含んだ。熱々の肉汁が、じわりと口に広がる。肉は舌の上で蕩けてなくなりそうだ。


「どうだ、ボナ? ミコー牛の最上級肉の切れ端だ。王都の貴族に卸した時に出る切れ端を、ここで安価に売っているのだ」

「ものすごい美味です。こんな肉があったとは……」

「そうだろ、お嬢様! 見た目は貧相な庶民の食べ物だが、味だけは王宮でも出されるミコー牛だ!」

 売り子の青年は、してやったりという顔をしていた。


 ジョット殿下は青年に軽く手をふると、露店の前を離れた。

 私たちは王宮広場の片隅で、残りの肉を食べた。

 これはたしかに、王宮でご馳走を食べ慣れている王子殿下が、おすすめしてくれる食べ物といった感じだな。私はジョット殿下が肉の串をおすすめしてくれたことに対して、考え違いをしていたようだ。


 その後、愛らしいサクランボの飴細工や、キャラメルポップコーン、チュロスなども食べた。旨味などの点から考えて、肉の串のおいしさが、他を圧倒していた。


 私は肉の串をお代わりした。ミコー牛の肉は、やっぱりおいしかった。あれほどおいしく感じたのは、私が空腹だったからではない。肉の串のおいしさは本物だった。


「『怒れる猛牛』が、牛の肉の串を食べるなんて共食いかよ」

 騎士の誰かの声が聞こえた。私は頬がカッと熱くなった。

 そうだ……。私は今は愛らしい令嬢のような姿をしているが、元は雄々しい『怒れる猛牛』ではないか。


「今の発言をした者を捕らえ、騎士団から追放しろ」

 ジョット殿下が、冷たい声で隊長に命じた。

 隊長は一つうなずくと、まっすぐに声のした方に向かった。あっという間に一人の騎士を捕らえ、他の騎士に押しつけて戻ってくる。


「ボナ、すまなかった。このようなことは、今後はないよう徹底しよう」

 ジョット殿下が謝ってくださったが、この件はジョット殿下とは関係ないのではないだろうか……。


「お心遣いに感謝いたします」

 私はジョット殿下にお礼を言うしかない。


「気分直しに、雑貨屋を見よう。私になにか贈らせてほしい」

 ジョット殿下が私の手を握り、歩き出す。

 私がジョット殿下の横顔を見上げると、ジョット殿下は目を細めて見返してくれた。


 これでは、まるでデートだ――。


「ボナ……」

 ジョット殿下の親指が、私の口の端を拭った。どうやら肉汁がついていたらしい。ジョット殿下は、その親指をペロリと舐めた。


 ――なぜ、舐める……?


 いや、別に毒はなかろうが……。舐める必要あるのか? ハンカチで拭いたらどうなのだ?


「ボナには婚約者はいなかったな。私もなんだ」

「はい」

 ジョット殿下に婚約者がいないことは、国民の誰もが知っている。この国の将来が絡んだ問題だ。一介の騎士である私の婚約と、並べて語るようなことではないと思うが……。


「それで、ボナ……。北方のガラス細工が綺麗なんだ。贈るなら、『幸運を運ぶ花雌牛』がいいな」

 もしかして、ジョット殿下は牛がお好きなのか? 思えば、私は本物の牛についてよく知らなかった。知りたくもなかったしな。


 ああ、そういえば、隊長は北部辺境伯家の出で、長兄は北部辺境伯を継ぎ、次兄は北部辺境騎士団の団長だったな。そんな隊長との繋がりで、ジョット殿下は北方のガラス細工がお好きなのだろう。


 ジョット殿下はキラキラと輝くガラス細工の露店の前に行き、『幸運を運ぶ花雌牛』のガラス細工を手に取った。『幸運を運ぶ花雌牛』は、茶色い雌牛だ。その背中には、カラフルな花が山盛り載っている。


「どうだ、兄ちゃん、綺麗だろう! そちらのお嬢様への贈り物にぴったりだよ! 身分違いの恋も叶ったりするかもしれないぜ!」

 威勢の良い中年男が、ジョット殿下に大声で言った。


「そうなってもらいたいものだな」

 ジョット殿下は中年男と話をあわせた。

 隊長がすぐに銀貨を一枚支払う。


「ボナに幸運を」

 ジョット殿下は、私に『幸運を運ぶ花雌牛』を握らせてくれた。

 いいのだろうか? 『幸運を運ぶ花雌牛』は、恋物語では片思いの相手に渡すものだが……。


 ああ、現実では、違うのかもしれないな……。

 手軽な贈り物として喜ばれている、とかなのかもしれない。


「ありがとうございます。大事にいたします」

 私が『幸運を運ぶ花雌牛』のような、恋物語に出てくるロマンチックな品物を男性から直接贈られるのなんて、きっとこれが最初で最後だろう。


 私は、今日のこの思い出を大切に胸の奥に抱き、この人生を歩んでいくだろう。

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