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王子様の代わりに呪いを受けたので、好きなように生きてみます(※王子様のせいでできない)  作者: 赤林檎


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5/11

5.王族は本当にお忍びで出かけるらしい

 私は店を出ると、そのまま大通りを歩くことにした。


 私が読んだことのある物語では、お忍びで出かけた令嬢が、雑貨屋や花屋、パン屋などを見てまわる。現実の令嬢が、お忍びでの外出などしているのかは知らないが……。


 ――わたくしがやってみたいのだもの。


 他の人なんて、もうどうだっていい。どうせ私は、元から規格外の『怒れる猛牛』だったのだ。


 私が大通りを歩いていると、前から茶色の髪に白いものの混じった紳士が歩いてきた。

 私は、ぎょっとして立ち止まった。父であるフェルス男爵だったのだ。

 なぜ、ここに……? これもジョット殿下の差し金か……?


「これはかわいいお嬢さんだ」

 父は私に声をかけてきた。この様子……、私を娘のボナだと気づいていないように見えるが……? 容姿はたしかに変わったが……。そんなことがあるのか……?


「私はフェルス男爵だ。君くらいの年齢の貴族令嬢は、全員知っているんだよ」

 我が父ながら、どういう自己紹介なのだ……。私はだいぶ背が縮んで、十八歳には見えないが……。父の目には、何歳に見えているのだろう……? いろいろ不安でしょうがない。


「君は裕福な平民の娘だろう? そんな貴族の服を着ていたら処罰されるよ?」

 我が父ながら……。なんだ、こいつは……?

 このくらいのドレスを平民が着ていても、処罰まではされないと思うが……。


「君のお父様は、貴族との繋がりを欲しがっていないかい? 私のところに嫁に来れば、どんなドレスだって自由に着られるよ?」

 父は、自分の娘と同じくらいの年齢の娘を相手に、なにを言っているのだ……。

 好きなドレスを着たいからといって、こんなくたびれた中年の男爵の元に、裕福な商家の若い娘が嫁ぐわけがないだろう……。

 私が元の『怒れる猛牛』だったら、騎士団の詰所に引っ張っていって説教するところだ。


「君、このあたりでは見かけないね。私が案内してあげるよ」

 おいおいおい、父が私の肩を抱こうとしてきたぞ!

 自分の父親ながら、気持ちが悪すぎる!


 私は驚きながら父の手を避けた。

 父が鋭い舌打ちをする。

 舌打ちしたいのは、こちらの方だ!


「私の婚約者になにをしている!」

 父の後ろから、男性の声がした。

 そちらに目をやれば、白い中折れ帽をかぶった銀髪の青年が立っていた。平民なようで、白い綿のシャツに、灰色のトラウザーズ姿だ。

 すらりとした立ち姿が、妙に決まっている。

 ……職業は役者か? 騎士にしては、妙に華がある。


「婚約者だと?」

 父は男性に向き直った。


「……うん? フェルス男爵か?」

 銀髪の青年は、一目で父が誰かわかったようだ。父はそこまで有名ではないと思うが……。


「本当だ。フェルス男爵ではないか。このあたりで若い裕福な平民娘に声をかけまくっていた不審者とは、フェルス男爵だったのか……」

 青年の後ろに立っている中年の男が、呆れたように言った。第一王子近衛騎士隊の隊長ではないか……。ジョット殿下が狙われたばかりなのに、休暇がとれたのか!? そんな暇ないだろう!? こんなところで、なにをしているのだ!? それなりに強いのだから、ジョット殿下のおそばに戻ってくれ!


「貴様、第一王子の近衛の……!」

 父はまた舌打ちをすると、私を青年たちの方に突き飛ばして逃げようとした。

 このやり方は、犯人の逃亡時に頻繁にお目にかかれる。騎士にとっては、まったく目新しさが足りない方法だ。

 私は父の腕をつかみ、踏み出した足を払って、地面に押し倒した。

 つかんだ腕をそのまま捻り上げてやると、父は悲鳴を上げた。逃げられない程度に捻っただけだ。そこまで痛くないはずなのに、大袈裟だな。


「隊長殿、拘束いたしました!」

 私は、いつもの調子で報告した。


「あ、ああ……。流石だな……」

 なんとも気の抜けた返事である。というか、かなり私に引いている。なぜだ……。私がかわいいからか?


「フェルス男爵は騎士団の詰所に連れて行く。そこで、私の名で処罰しよう」

 今度は青年が言った。私の名とは……、と疑問に思いつつ、青年を良く見てみると……。


 ――ジョット殿下ではないか!


 なんでここに!? 王族も、本当にお忍びで出かけたりするのか! この時期に!? なんでだ!? 狙われたばかりではないか! おとなしく王宮にいたらどうなのだ!?


「ジョーだよ」

 ジョット殿下は人差し指を口の前に立てて、ウインクをした。


 ジョーだよ、とは? なんだ!? どういう意味だ!? どうして欲しいのだ!? 私にジョーと呼べと? できるわけないだろう!?


「ええと……、お嬢様、ご同行ください」

 隊長が戸惑いながらも、父の拘束役を交代してくれた。隊長は父を引き起こし、肩と手首をつかんで歩かせる。

 父は観念したのか、すっかりおとなしくなっている。


「すごい早業だったね」

 ジョット殿下が私に笑いかけてきた。気さくな笑顔の破壊力!


「いえ……、普段より、だいぶ遅かったかと……」

 この姿では、力もスピードも出ない。父が油断していて、よくある行動パターンに沿って動いたからこそ、簡単に拘束できただけだ。


「ご謙遜を」

 隊長は、なんで私に敬語なのだ? もしや、私はジョット殿下を守ったことで昇進したのか? 隊長が敬語を使うとなると、どのあたりの地位に昇ったのだろう? 昇進したなんて、誰も一言も言っていなかったが……。


 私たちは、徒歩で王宮の騎士団の詰所まで行った。大通りからだったので、それほど遠くなかった。侍女たちは息切れしていたが、彼女らはあまり鍛えていないから仕方がないだろう。


 騎士団の詰所は、いきなり第一王子近衛騎士隊の隊長が来たこと、平民姿のジョット殿下までいること、『大通りの平民娘声掛け事案』の不審者が捕らえられて来たことで、かなり騒然となった。


 第一王子近衛騎士隊の隊長は、だいたい第一王子宮にいるか、第一王子の執務室にいるか、国王陛下に呼ばれているか、食堂で疲れた顔をして黄昏ているかだ。詰所に来るなんて、ほぼないお方だ。


「こっそり王家の鉱山に送っておいてくれ。この男は誰か、といった詮索は無用だ」

 ジョット殿下は騎士たちに堂々と指示を出した。お忍びとは……? まあ……、王族のやることだからな……。

 王家の鉱山送りか……。これで、父とは二度と会わないだろう。

 私たちはジョット殿下に連れられて騎士団の詰所を出た。


「ボナ、フェルス男爵家はすでに領地も売り払い、残っているのは王都のタウンハウスのみだ。フェルス男爵の爵位は、ボナが引き継げるように処理するよ」

「お気遣い、感謝いたします」

「フェルス男爵家のタウンハウスの管理は、第一王子宮から人を出そう。領地も買い戻したくなったら、いつでも私に声をかけてくれよ」

「ありがたき幸せに存じます」


 領地を買い戻す金なんて、簡単に貯まらないと思うが……。

 ジョット殿下をお助けした褒賞金が出るのか……? 誰から? 国王陛下か? 王妃殿下からは出ないだろう。

 ジョット殿下がこっそり褒賞金をくれるのか? すでに家や使用人、ドレスやアクセサリーを貰ってしまっているが……。その上、領地まで? 貰いすぎではないか?


「街歩きの途中で、とんだ邪魔が入ってしまったね」

「騎士は国と民を守るのが務め。私は責務を果たしたまでです」

 私が右手を胸に当てる騎士の礼をすると、ジョット殿下は微妙な表情をされた。私は、なにか返答を間違えたのだろうか……?


「フェルス卿は騎士の鑑ですな」

 隊長は褒めてくれた。だが、ジョット殿下は、なぜか隊長を不愉快そうににらみつけた。なぜだ……。


 ――わたくしがかわいいから?

 などと、いけ好かない悪役の小娘のようなことを考えて、気を紛らわした。


 私が家から乗ってきた馬車が騎士団の詰所前まで来ており、私とジョット殿下と隊長はその馬車に乗り込んだ。もう一台、王族のお忍び用として使われる紋章のない茶色の馬車には、侍女たちが乗り込む。


「大通りに向かわせろ」

 ジョット殿下が命令し、隊長が御者に指示を出す。

 私の自由な街歩きが……。

 仕方ないか。私は騎士だ。国と民、そして王族をお守りするのが務め。自分の楽しみは、また後日にとっておこう。

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