4.ジョット殿下の贈り物
私は王都の下町に自分の住まいを得た。
石造りの小さな家には、狭いながらも庭があり、花壇には真っ赤な薔薇が咲いている。
……なぜだろう。花壇の花だけ、やたらと派手である。
三人の侍女と二人の下女が、私の世話をしてくれている。
近所に住む平民たちは、もっと大勢の使用人を使っている。どうやらジョット殿下は、私の願いを本当に叶えてくれたようだ。
私は小さな我が家の自室で、一人で三面鏡の前に立ち、髪の毛をそっと束ねてハーフアップにしてみた。
「かわいいな……」
髪型もかわいいし、自分の顔もかわいい。
これに『ピンクのおリボン』でも付けたら完璧だろう。
私はずっとハーフアップにして、おリボンを付けることにあこがれていたのだ。
『怒れる猛牛』だった時にも、一度だけ、髪を伸ばしてハーフアップにしてみたことがあった。
あの時は、自分があまりにも強そうに見えて、非常にショックだった。
部族の誇りをかけて戦いに行く前の猛者にしか見えなかった。
とても『おリボン』なんてものを付ける感じではなかった。
「せっかく美女になれたのだ」
私は紐で髪を結んだ。
――うん、似合う!
話し方だって、もっとかわいくしても良いのではないか?
「わたくしって、かわいいわよね」
鏡に向かってほほ笑んでみた。
ああ、かわいい……! すごくかわいい……!
私はためらいつつ、自分の胸に目を落とす。胸に触れてみると、不思議な弾力があった。
――ちゃんとした女性の胸とは、こんなものだったのか……。
元の私の胸は、やはりただの胸板でしかなかったようだ。
私だって、自分の胸のためにこっそり努力した。胸が大きくなるという食べ物を食べたり、胸が大きくなるストレッチをした。だが、私の胸は、より筋肉質になっただけだった。
この『美女灰』の呪いは、ずっとがんばってきた私へのご褒美だったのかもしれないな……。
この姿でならば、やってみたかったことが全部できるだろう。
私はハーフアップのまま部屋を出て、三人の護衛騎士と侍女たちを連れて街へ出ることにした。
物語によると、かわいいおリボンは、ドレスの仕立て屋が用意してくれている。
私は馬車でドレスの仕立て屋に連れて行ってもらった。
仕立て屋に入ると、すぐに店主であるマダムが出てきた。
私が名乗ると、上品なマダムは私にカーテシーをしてくれた。
「未来の王太子たる、第一王子ジョット殿下をお守りしてくださった、騎士ボナ・フェルス卿にご挨拶いたします」
どうやらこのマダムは、第一王子派の者であるらしい。
――騎士ボナ・フェルス卿か……。
今後、私は元に戻れるとは思えないが、騎士を続けられるのだろうか……。
「なにをお探しでしょうか?」
マダムが私にほほ笑みかけてくれた。美人というのは、同性からもやさしくしてもらえるのだな。
「髪を飾るリボンが欲しいの」
私は、家の鏡で見た自分の愛らしい姿を思い出しながら言った。
マダムはすぐに何本か出してきてくれた。
私は三本のリボンを買った。
白いレースのリボン。
ピンクのレースのリボン。
シンプルなピンクのリボン。
どれもかわいすぎて、どれか一つなんて選べなかったのだ。
マダムがシンプルなピンクのリボンを持ち、私のハーフアップの結び目で蝶結びにしてくれた。
「お嬢様、いかがですか?」
マダムは、この私を『お嬢様』と呼んでくれたぞ! フェルス卿ではなく、『お嬢様』だ!
マダムは姿見と手鏡を使って、蝶結びを見せてくれた。
「とてもかわいいわ」
私は顔が緩みそうになるのを必死でこらえた。
これぞ貴族の令嬢という感じではないか!
「ハーフアップにリボンを付けるのは、今の流行でございますからね」
なんだかマダムもうれしそうだ。
そうか、ハーフアップにリボンを付けることは、ご令嬢たちの間で流行っているのか。
私は、流行りの髪型なんてものにしたこともなかった。
これは『美女灰』の呪いに、お礼でも言わないといけないな!
「ジョット殿下からお嬢様に、ドレスの贈り物がございます」
マダムは店の奥に行き、紙の箱を持ってきた。
「ジョット殿下が、私にドレスを……?」
眠っている間に、採寸されていたのだろうか……。
「わたくしは見ただけで、女性のだいたいの寸法がわかりますので……。第一王子宮の王子妃の寝所に入れていただき、お嬢様を拝見したのです」
マダムは正直に教えてくれた。変な誤解を生まないためだろう。さすが王家御用達といったところか。しっかりしている。
私はピンクのドレスを着せてもらった。フリルとレースとリボンがたくさん付いた、とても愛らしいドレスだ。
「少し子供っぽいと思われるかもしれませんが、お嬢様の愛らしさにはあっているかと……」
マダムは心配そうにしている。以前の私の容姿を知っているのだろう。ならば、私がこのような、いわゆる『フリフリのドレス』など嫌がりそうだと思われていても仕方がない。
「とてもかわいいわ!」
私は試着室を出て、その場で一度クルリと回ってみた。ドレスのスカートが空気を含んでふわりと広がり、静かに元に戻る。
――これは楽しいな! 帰宅したら、何度もやってみよう!
好みのドレスを着て、あこがれの髪型をして……。
こんな日が来るとは!
ああ、騎士になって良かった!
「ジョット殿下からは、お嬢様からドレスのご注文をたまわるよう言い含められております」
マダムは、デザイン画をいろいろと持ってきて見せてくれた。
シンプルで上品なドレス。
今のドレスと同じような愛らしいフリフリのドレス。
胸元が大きく開いた妖艶なドレス。
「いろいろ着てみたいの……。マダムのお勧めはどれ?」
私が選ぶと、愛らしいフリフリのドレスばかりになってしまうからな。
「一番似合われるのは、今のような愛らしいドレスだと思います。逆に胸などを強調したドレスは、あまりお得意ではないかと……。ですので、このあたりはいかがでしょうか?」
マダムはシンプルながらフリルやリボンのついたドレスや、フリフリのドレスのデザイン画を何枚か選んでくれた。
どれも私の好みだ! この姿に、きっと良く似合うだろう!
「お嬢様のその笑顔は、お気に召したのですね! こちらをお作りいたします!」
マダムも満面の笑みだ!
さらに、マダムはアクセサリーも出してきてくれた。
小さな白いお花の形のアクセサリーだ。イヤリングは一輪の花。ネックレスは五輪の花が連なっている。
「かわいい……」
私は、ほうっとため息を吐いた。
華奢な今の身体に似合う、小さくて繊細なアクセサリーだ。
マダムは他にも、四つ葉のクローバーの形のアクセサリーや、小さなハート型のアクセサリー、リボン型のアクセサリーも見せてくれた。私はすべて購入することにした。どれもかわいすぎたのだ。
仕立て屋の使用人たちが、ドレスやアクセサリーを家に運んでくれることになった。




