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ヒロインと悪役令嬢の共闘

アマリリスちゃんは怖がっていた。死を。物語を。運命を。そうだろうとは思っていたが、私の言葉で泣き崩れる彼女から、私とはまた違う場所で戦ってきた彼女の努力の大きさがわかる。

話を聞くとゲームをクリアしていないとのことだった。なるほど、彼女の不安は思っていたよりも大きなものだったと推測できる。

そして、それならば……彼女へ情報提供をする際は、細心の注意を払うべきだと思った。彼女から話を聞く限り、嫉妬による虐めにしては程度が深く、物語の強制力への関係性も懸念できる。彼女を守りながらも、彼女自身も自衛に徹底してほしい。

だから、彼女には私の事情は伝えない。話を聞く限り、この世界に転生したアマリリスちゃんは、優しく、平和主義で、他人の為に動きがちだ。セバン先生のお母さんの対応からもその性質は伺える。もし彼女が私の事情を知ったら、自分のことよりも私のためにと、無茶な動きをするのは目に見えている。

申し訳ないことに私だって平和主義者だ。優しい子が、自分のために無茶をする姿は嬉しくて擽ったい気持ちにはなるが、そこで死んてしまったら目覚めが悪い。私はこれ以上、誰かを犠牲にしたくないのだ。




「はい、アマリリスちゃん、あーん!」

「あ、アゼリア様、私は自分で、食べられますから……」

「えー、なんでよー!味見したけどこれすっごくおいしいよ?ほらほら、ね?お願い」

そう首を傾げると、アマリリスちゃんはぐぬぬと顔を顰めたあと、諦めたようにぱくりとスプーンに口をつけた。そして、ぱあっと明るい表情になる。

「本当ですわ!おいしいですねアゼリア様!」

「ふふ、よかったね〜、アマリリスちゃん」

そうアマリリスちゃんが美味しそうにご飯を食べている様子をニコニコして眺める私。

この様子に、周囲の人達はざわめく。

「アマリリス様、女の子と食事を?」「またあの子ですわね」「……なんか、良い」

それをすべて拾う勢いで聞く私。よしよし、反応は上々だ。

取り敢えず、嫌がらせの回避として、女の子である私と仲良くしている姿を皆に見せる作戦を実行中である。

私たちが仲良くなったことを発表した際、攻略対象3人は目を丸くしていて、信じていない様子だったが、このラブラブっぷりを1週間も見せつけたら、流石に納得したようだ。

美味しそうに食べるアマリリスちゃんの口についているソースを拭いながら話しかける。

「……アマリリスちゃん、あとさ、私言ったじゃない?」

「?……なんのことですの、アゼリア様」

「ほらそれ!」

「!?」

驚くアマリリスちゃんに私は続けた。少し、しょんぼりとした顔で。

「わたしのこと、ちゃん付けで呼んでほしいって、言ったのに……」

その言葉にアマリリスちゃんはわかりやすく慌てる。

「ご、ごめんなさい!……ちょ、ちょっと……恥ずかしくて」

「…………私、アマリリスちゃんともっと仲良くなりたいのに」

「……わ、わかりましたわ!言います!言いますから!」

アマリリスちゃんは押しに弱いし、甘えられるのにも弱い。前世で彼女はきっと、ダメ男製造機だっただろう。そんなことを思いながら、真っ赤な顔で、ぎゅっと目を瞑り、深呼吸したあと、小さく、小さく話すアマリリスちゃんの言葉に耳を傾ける。

「……あ……あ、アゼリア……ちゃん」

「ふふ、よくできました!」

そう頭を撫でると、ホッとしたような、嬉しそうな様子で笑うアマリリスちゃん。

そんな私たちの様子に周囲は「これは……やばいって!」「か、可愛すぎる……推せる!」「……アゼアマ……アマアゼ」と、各々解釈を楽しんでいるようだ。ふっ、ふっ、ふっ!これは嫉妬対策としては完璧だ!

アマリリスちゃんと攻略対象が関わるのは仕方がない。ただ、そこに私という同性のイレギュラーが発生することで、きっと、アマリリスちゃんへのギャラリーは、モテモテなアマリリスちゃんへの嫉妬ではなく、推しカプ争いによる戦争合戦へと変化するだろう。アマリリスちゃんと私のカップリングはもちろん、ロニアでも、セバン先生でも、ダークでも、もう何でもいい。アマリリスちゃんを受けとして……じゃなくて!守るべき対象として、見守る対象としてフィルターチェンジが図れれば完璧だ。そして、その成果は徐々に出ている。現に今は、アマリリスちゃんへ嫌がらせする人達をとめる派閥まで出てきた。ふふ、作戦通りだ。

アマリリスちゃんは私という味方が持てたことと、私といると嫌がらせが減ったという実体験から、私の隣をちょこちょこついて歩くことが多くなった。本人は無意識だろう。可愛くて思わず頭を撫でると、アマリリスちゃんは私を見上げて、にへっと笑う。うん、可愛い。周囲からは「きゃあ!」「おー!!」という黄色い歓声と野太い歓声が聞こえてきた。よし、聞かなかったことにしよう。

そんな努力の末に生まれた穏やかな日々を送りながらも、日々の日課は欠かさない。今日も禁書を読もうとして、セバン先生に捕まった。くそ、最近見つけるの早いな。そう思いながらも、アマリリスちゃんへの心配がなくなったからか、口頭注意のみで済ませるセバン先生の表情からは、私への感謝が滲んでいるように見えた。


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