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悪役令嬢アマリリスの懸念

『ロマンス学園』という、学校の名前がそのままゲーム名になっているシンプルな乙女ゲームかと思いきや、内容は複雑で全て攻略するにはかなりの時間を要する、そんな乙女ゲームの悪役令嬢であるアマリリス・ダラーは、転生した瞬間、泣きそうになっていた。

アマリリス・ダラーといえば、ヒロインが誰かと結ばれた瞬間、死刑が確定するとんでも令嬢だ。その死刑になるだけのことをしているのだから当たり前なのだが、自分がその対象になるのはまっぴらごめんである。

幸い、彼女はゲームの知識を持っていた。しかし、不幸なことにゲームをクリアしたことはなかった。

だから、彼女ができるのはゲームで見たアマリリスとはかけ離れた性格に、かけ離れた周囲の環境にすることだけだった。

義弟になったロニア・ダラーには優しく接し、セバン・ルイズの母の死亡事故を未然に防ぎ、ダーク・ロマントの未来の妻に相応しいよう、愛情深く、懐深く彼に接した。

しかし不安は拭いきれない。攻略対象である3人は、ゲームとは違う穏やかな過去になっても、ヒロインであるアゼリアがどうなっているのかは分からない。

できるだけ近づきたくなくて避けてきたが、ロニアに促され学園に行った時、ヒロインであるアゼリアちゃんを見た。可愛くて、難しい本を読んでいて、ヒロインに相応しい、そんな印象を受けた。

ロニアか、セバンか、ダークが彼女と結ばれる未来がすぐに思い浮かぶ。彼女は、魅力的だ。3人ともすぐに夢中になってしまうだろう。

でも、でもでも、アゼリアちゃんをいじめさえしなければ、私は死刑になることはない。もし、3人の誰かが結ばれても、それを祝う友人になれれば、死刑になることはない。……そう、思っていたけど。

上靴を履いた際の違和感。靴に入っている刃物。なんで?どうして?アゼリアちゃん、いじめてないのに。これが、物語の強制力?私、殺されちゃうのかな?

泣きそうになる気持ちが、苦しくなる胸が、恐怖に支配される思考が、アゼリアちゃんを恐怖の対象として見るようになってしまった。

ロニアも、セバンも、ダークも、そんな私の様子を見て察したのだろう。守ろうと、私を庇ってくれるその様子に、申し訳ないと思いながらもどこか安心している自分もいた。

そんな日々を送っている中、違和感に気がついた。最近、ロニアが体調を崩して休むことが増えた。セバン先生が、実験用の薬品を直接持ってくることが多くなった。ダークから文房具や着るものをプレゼントされる頻度が増えた。

何か可笑しい。私は、ただただ平和で、みんな幸せで、死なない、そんな日々を送りたいだけ。だからここまで頑張ってきた。

なのに、妙な違和感が。不安な気持ちが。拭いきれない。その理由は?本当の原因は?

そう、ぐるぐると不安な気持ちに支配されながら、女子寮の廊下を歩いていると、とある人に、「まって」と呼び止められた。

すぐに分かった。鈴のような声なのに、凛としていて、真っ直ぐなその声の正体。この物語のヒロインである、アゼリア・サトリーだ。

私は振り向きもせずに駆け出した。 そんな私の様子を見て、後ろからまた息を吸う音が聞こえる。どうしよう。無視されていじめられたって言われるかな?でも、お話しても嫌味を言われたって言われるかもしれない。やだ、やだやだ死にたくない。死にたくないよ。そう目をぎゅっとつむりながら、彼女からの声を待つ。彼女から発せられたのは、思いもよらぬ言葉だった。

「私も、転生者なの!」

その言葉に驚き、足を止めた。そろそろと後ろを振り向き、彼女を見る。目が、合う。

彼女は私の様子を見て、「やっぱり」とどこか納得したような言葉を発した。そして、泣きそうになっているであろう私を見て、宥めるように優しく、微笑んだ。

「協力、しませんか?」

その言葉は、天からの救いの言葉にも聞こえた。

 

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