ダーク・ロマントが煽ってくる
このロマント国の第一王子であるダーク・ロマントは、完璧な人間だ。どんな課題も簡単にこなし、コミュニケーション能力も高く、外交も得意だ。彼を見る度、噂を聞く度、「この国は安泰だ」と誰もが喜ぶ。そんな期待を一身に受けて彼は平然と立っている。彼は生まれながらの天才だった。どうしてこんなものも分からないのか。そう思いながら日々生活している。天才の彼にとっては、つまらない、つまらない人生だ。そう、思っていた彼の人生に、1人だけ、読めない人物が現れた。それがヒロインだった。無邪気な彼女の朗らかさに、彼は癒され、時には笑い、ハラハラさせられた。何度言っても人のためにと無茶をする彼女が、心配だけど、かわいらしくも感じていた。そんな、ストーリーのはずだったのだけども。
「災難ですね。こんな所に閉じ込められるだなんて」
「そうだね……早く出たいものだ」
そうとんでもない魔法を次々と繰り返し扉に向けて出しながら言うダーク。
これは乙女ゲームのイベントの1つである体育館倉庫閉じ込められ事件だ。私たち2人が日直が被り、体育館倉庫の片付けをする際に強制的にこのようなイベントが起きる。なぁに、焦ることはない。一定の時間が経てば解除される。そんな魔法で閉じ込められているだけだ。さっき解析したから分かる。時間としては1時間ぐらいだろうか。……それにしてもダークめちゃくちゃな魔法出すな。余程私との2人きりが嫌なのだろうか。それはそれで悲しい。くそぉ、取り敢えず、ゲームの台詞を言ってみるか。丁度、ダークがひと休みと言わんばかりに座り込んだ。めちゃくちゃ遠い場所に場所に座っているのは、見なかったことにしよう。
「……大丈夫ですよ。きっとすぐに助けが来ます」
「……」
「少し、お喋りでもしましょう?最近、とても綺麗なお花を見たんです。青い、7枚の花弁のお花で……」
「…………へぇ……随分と、珍しい花を知ってるね」
流石シナリオ。反応は違うものの少なくとも答えてくれた。
「……青い7枚の花弁の花。その特徴を持っているのは『フリメリィ』だね。北の方にしか咲かない、珍しい花だ。この国では咲かないはずだけど……最近、見たんだ?」
花にも詳しいとかこの王子マジチートかよ。というか、なんで私いまこんな怪訝な顔で見られてるの?シナリオに沿った台詞言っただけなのに。
「あ、え、ええっと……図鑑で、見たんです。綺麗だなぁって、思って」
「……ああ、図鑑ね?なんだ、まるで実際に見たことがあるような口振りだったから」
そう、ダークは私をじっと見つめながらニコリと笑う。笑顔ではあるものの、彼が私を怪しんでいるのはヒシヒシと伝わった。
…………ああ、もうやだ気まずい。もう私も魔法をぶっ放して1秒でも早くここから出ようかな。なんて、そんなことを思っていた時だった。
「君は、光の魔法使いというものを知っているかい?」
その問い掛けに動揺しないふりをするのに、私は精一杯だった。
「……もちろん知っています。100年に一度現れる魔王を倒せる唯一の存在、ですよね?昔絵本で読んだことがあります」
その言葉にダークは「へぇ」と納得したように呟く。
「君は演技力も高いようだ。尊敬するよ」
「……何を言っているんですか。演技なんてしてません」
バレてた。くそぉ、演技なんてやってことないからわかんないよ。こちらとは前世から一般市民でやらせてもらってるんだ。そう歯を食いしばる私を他所にダークは続ける。
「光の魔法使いは生まれながらに魔力量が高く、回復魔法を得意としているが、どんな魔法でも卒無くこなせ、更には他分野でも高い成績を納める、能力が高い人らひい…………まるで君みたいだね?」
ぶっ込んできました!こいつ!ぶっ込んできましたよ!?!?なーーーんでそんな急に確信つくんですかね??ネタバレしないと映画見れないタイプの人ですか?わかるまでのドキドキ感を味わうのに疲れた老人ですか!?それにそれにさ!!
「そんなに褒めてくださるなんて嬉しいです……でも殿下、光の魔法使いかどうかを問うのは禁句。この国で行ってはいけないことですよ?この国の第一王子であるあなたが知らないはずないと思うんですけど?」
そうだ。そうなのだ。光の魔法使いは希少性が高いから狙われることが多い。その為、この国では光の魔法使いを守る為に数十年前光の魔法使いを特定するような言動をしてはならないという決まりができた。そろそろ光の魔法使いが生まれてくる年代だし、光の魔法使いを守る為にも仕方のないルールだと思うが、光の魔法使いである私はこのルールにとても助けられている。
だから!!私は!!口答えをするぞ!!そう気合を入れてルールを知ってるかどうか問いかけたのだが、ダークには全く効いている様子はない。寧ろ何か楽しそうだ。
「ははっ、ごめんごめん。やっぱり君は優秀だ。安心したよ。」
その笑顔は無駄に綺麗でかっこいい。くそ。前世であなたの無駄に綺麗なスチルを目に焼き付けていなければ殺られていた。目が。暫く笑った後、ダークはその綺麗な笑顔のまま、私をじっと見据える。
「……魔王を討伐に失敗すると、光の魔法使いが犠牲になり、100年の眠りに落ちるのは、知ってる?」
その言葉に、その探るような目線に、私はへらっと笑って返した。
「はい、絵本に書いてましたから」
私の言葉にダークは暫く黙った後、「そう、絵本ね」とだけ返した。丁度その時扉が開いたようだ。いつの間にか時間が経っていたようだ。はーっ!!ようやくこの尋問のような時間から解放される!!嬉しくてスキップしそうになる私にダークは言った。
「100年って部分はどの出版の絵本に書いてないから、注意した方がいいよ?」
…………え…………は??……驚きながらも昔読んだ絵本の記憶を思い出す。……え!嘘だ!私が読んだ絵本には間違いなく…………あーー!私が慌ててる顔を見て何確信したような顔したーー!くそ!!絶対あいつ絶対私が光の魔法使いなのわかったじゃん!!くそ!!もうやなんだけどあの腹黒王子!!もーーー!!こうなったらそのすんばらしい優秀な脳みそで100年の眠りの回避方法教えてくれないかなー!?!?教えてくんないんだろうなコノヤロー!!!
そう、口に出したら極刑になるであろう王族への悪口を心で叫びながら、私は疲労困憊した心と身体を引きずって、自分の寮部屋に向かうのであった。
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ダーク・ロマントは、アゼリアの気配が消えたあと、「はあ」と大きなため息をついた。
やはり彼女は光の魔法使いだ。100年に一度、1人だけあらわれるというその存在は、調査によって見つけられるものでもなく、その為自分の父である国王も知らない。でも、そろそろ魔王の復活が近い為、国は必死になって光の魔法使いを探している。いざとなれば光の魔法使いひとりの犠牲で、国が100年間は安泰になるのだ。探さない方がおかしい。
……アゼリアは優秀だ。光の魔法使いの危険性も理解している。自衛だってできるだろう。
それなのに、こんなにも心がざわめくのは、昔会った女の子に、アゼリアがよく似ていたからだ。
出来ることを何度も繰り返す退屈な日々に、いくら技を磨いても全て国の為に使われる未来が確定されている、自由が全く無い王族というしがらみに、息苦しくなり、面倒くさくなり、少し気分転換をと下町に出た時に出会った女の子。
無表情に、無秩序に、ただただ膨大な魔法を放ち、魔獣を次々と倒していくその姿が、「兄のためなの」と愛おしそうに、でも苦しそうに話すその表情が、貴重な薬を簡単そうに作り上げながらも「また駄目かもな」と瞳を揺らすその目が、頭に残って離れなかった。
彼女の笑顔が見たくて、王族しか持てない貴重な薬の本を渡したりした。今思うと、初恋だったのかもしれない。彼女の笑顔は可愛らしいと思うのに、きっと心から笑ってはいないんだなと思わせるその読めなさが、妙に心に引っかかっていた。
彼女は何をして欲しいのか、聞いたことがある。その時彼女は少し考えたあと、何かを思い出しながら、瞳を少し伏せ、言う。
「この国の治安を、もう少しよくしてほしいなぁ」
その言葉に僕は喜んだ。それならできる。はじめて、王族であることに喜びを感じた瞬間でもあった。そこから僕は頑張った。日々の課題から、外交だって行い、この国の治安改善に努めた。国の衛生管理や、法改正だって手を抜かなかった。そんなことをしている間に「優秀だ」「この国は安泰だ」と言われるようになった。でも、そんなことどうでもいい。
彼女が、どこかで、幸せに笑ってくれれば。
彼女とは忙しい日々を送っている間に、会えなくなってしまった。彼女も住処を変えたようで、従者に確認に行かせてもそのような子はいないと言われるばかり。
また会いたい気持ちと、君には自由であってほしい気持ち、兄の回復を願う気持ち。
様々な感情が僕に生まれていた。王族という自分の生まれながらの特性を、ほんの少し好きになれたきっかけである彼女は、僕にとって特別だが、彼女とどうにかなろうという気持ちはない。
それこそ、王族のしがらみに彼女が苦しんでしまうと思ったからだ。僕には、相応しい婚約者候補もいる。アマリリスは優しく、可愛らしく、お茶目な面もあり、僕を完璧な存在として見るのではなく、どうにか甘やかそうとする懐の深さもある。アマリリスといると心が休まる。相性がいいとは、こういうことなのだろうと思う。
そうだ。だから、大丈夫。僕は僕のまま、王族という存在で、遠くで、あの子の幸せを影ながら支えられれば、それで。そう、思っていたのだが。
「アゼリアが……」
…………光の魔法使いなら、話は変わってくる。あの子がアゼリアである確証はない。ないが。
『はい、絵本に書いてましたから』
昔あの子にあげた、王族しか読めない絵本の中に、100年の眠りの記載が入っていた光の魔法使いの絵本もあった。
……この件については、少し、考えなくてはならない。そう思いながら、動揺を見せないよう、笑顔の仮面を自分に取り付けた。




