表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

セバン・ルイズが怒っている

セバン・ルイズは、由緒正しき公爵家に生まれている。頭も良くて、時期ルイズ家の当主として期待されていたが、彼は元々の性格から社交的なことが苦手だった。そのことを父からはひどく叱られてしたが、母は優しく慰めてくれていた。母はセバンの作る魔法工具を褒め、セバンはそれが嬉しくて、楽しくて、どんどん知識を深めていった。でも、そんな時だ。セバンの作った魔法電気工具が暴走し、セバンの母が大きな怪我をした。母は寝たきりになってしまい、セバンは心を塞いでしまった。母を治すために、禁術書も読むようになり、性格も暗くなっていった。……というような話なのだが、ルイズ公爵夫人が寝たきりになったという話は聞かない。寧ろ、社交界で楽しげに話していたという噂がある。……アマリリスちゃんが転生者であることに関係あるのだろうか?まあともあれ、被害が未然に防がれているのはとても良いことだ。……ただ、そんなセバン先生のお母さんを見事な回復魔法で治すというヒロインのイベントはなくなった。…………いいのだ。誰も傷つかないのが1番なのだから…………私の100年の眠りも回避お願いしますアマリリスさまーーー!!

なんて現実逃避をしながら、今日もとぼとぼと図書館へ向かう。100年の眠りの回避方法と、攻略対象を落とせるような、そんな魔法ありませんか!?くそ!この禁術読み解くのめっちゃ難しいんだけど!!何この意味不明な単語分かんない!オッケーグーグル!ヘイシリー!!くそぉ、返答無しです!!

そう諦めながら辞書を引こうとした途端、上から声が降ってきた。

「……それは魔獣の心臓を使うって意味。……で、君はその禁術を、なにに使うの?」

「せ、セバン先生!?」

なぜ!?透明化魔法を使っていたのに!?そう驚きながらも逃げようとする私の手を掴むセバン先生。

「透明化は、これで無効にしました。……生徒指導室に行きましょうか」

めちゃくちゃ作るのが難しい魔法薬を見せつけられ、私はあっさりと生徒指導室に行くことが決まった。まずい。このままなんかの罪を着せられたら、私は間違いなく殺される。ロニアに。

なんと言い訳をしようか頭を悩ませながら、生徒指導室の椅子に腰掛ける。


セバン先生は私の前に座り、深刻な表情で口を開いた。

「……君が禁術書を読んでいるのは、以前から知っています。……なぜ、そんなものを?」

「それは……」

言えるわけがない。100年の眠りを避けるためだなんて!!100年の眠りを避けるための禁術書を読む為に、色々な魔法を習得していこうとした結果、どんどん禁術書を読み漁ることになってしまったんて!しまいには前世のクソ上司を呪いたくて呪いの書まで見てしまったなんて!!……言えない。言ったら絶対変なやつだと思われる。いや、現段階でもうヤバいやつ認定はされてるだろうから諦めてもいいんじゃない?ヤバいやつと変なやつ、どっちがマシなのか真剣に脳内会議を繰り広げていると、セバン先生が、口を開いた。

「……アマリリスを、傷つけるつもり?」

「!?違います!!」

あまりにもの見当違いだった為即座に否定すると、セバン先生は少し驚いたように目を見開いた。

「……じゃあ、なぜ?」

……どうしよう。誤解は解けたが、尋問されている現状は変わらない。兎に角話題を変えようと、私はセバン先生に言葉をかけた。

「せ、先生こそ、なぜあの透明化を無効にする魔法薬を持っているんですか?あれ、作るの難しいですよね。それこそ禁術書を読まないといけないじゃないですか。」

私の問いに、セバン先生の顔が青くなる。

「そ、それは……その……」

セバン先生が禁術書を読むようになったのは、お母さんが自分のせいで大きな怪我をしてしまったから。でも、社交界でのルイズ家公爵夫人の噂からはそのような様子は聞いていない。じゃあなぜ禁術書を?

「……先生、何を、調べているんですか?」

私がそう問いかけると、セバン先生は分かりやすく焦った。

「そ、それはっ……それは……」

徐々に小さくなる声。こりゃチャンスだと私は「言いたくないんですか?じゃあお互い様ですよ!人間秘密の1つや2つあるものです。じゃ!私は行きますね〜!」とまくし立て出口の扉を開けようとする……が、ドアノブをひねろうとしたその手は、防がれてしまう。

「…………あなたの、読む書物には……共通点があります……」

セバン先生は緊張している様子だ。人との関わりが苦手な性格だし、本当はこうやって、人を説得したり、お説教するのは避けたいのだろう。そんな彼がここまで頑張れるなんて。アマリリスちゃんは凄いなと妙に感心してしまう。セバン先生は、冷や汗をかきながらも、息を吸い、吐いて、一呼吸おいたあと、私に言う。

「1つは人に害を与える書物……これは見る頻度が少なく、あなたがそこまで重要視していないことがわかります。そして、もうひとつ。こっちは、君がよく見ている頻度が高い、君が一番気になっていること……」

セバン先生は私をじっと見つめる。その瞳は、先ほど持っていた疑念を持った目とは、また違っていた。

「君がよく見ているのは、昏睡状態の人に対する回復方法に関係する書物ですね?…………アゼリアさん……なにか、悩みがあるなら……」

そこまで言われて私は思わずセバン先生の手を振り払った。彼の言葉が嫌だったのではない。自分が100年の眠りに落ちるかもしれないのを隠すためでもない。もっと奥の、自分でも思い出したくもない、でも忘れてはいけない、そんな記憶が燻ぶられたから。

「……アゼリア、さん?」

驚くセバン先生に私は「ごめんなさい」と謝罪しそのまま立ち去った。

何とか離れることができた。休もうと壁にもたれかかった瞬間、吐き気を催し、思わず蹲る。苦しくて、辛くて、目を瞑る。ああ、嫌だ。思い出してしまう。苦しくて、報われない、無力感ばかりが私を襲う、あの、地獄のような記憶を……。





 


『ロマンス学園』と学園の名前がそのままゲーム名になっているシンプルな乙女ゲーム。そのヒロインであるアゼリア・サトリーの過去は、幸せとは言い難いものだった。

彼女は幼い頃両親を失い、孤児院で暮らしていた。幸いだったのは、両親が亡くなったのは彼女がまだ物心つく前であったため彼女の傷は浅かったことと、その孤児院にいる友人やシスターに善人が多かったことだ。

両親がいないという心の中にある大きな穴を、友人やシスターのあたたかな優しさで埋められてた頃、事件が起きた。

孤児院に、人攫いが来たのだ。アゼリアが幼少の頃は、奴隷として人を売ることがまだ法的に禁止されてなかった。次々と攫われる友人達。最後に残ったのは、当時最年少であった私と、そんな私を庇っていた当時最年長であり皆のお兄ちゃん的存在であったアキラ・ブラウン。皆から、アキにぃと呼ばれていた赤茶の髪の毛を持った彼は「隠し通路がある」と私をこっそり逃がそうとしてくれた。しかし、その通路に行く前に人攫い達に見つかってしまう。私を捕まえ「こりゃ高く売れるなぁ……さて、きれいな体か、確かめなきゃな……」と、その場で服を脱がそうとしてきた男に嫌悪感を抱き、その男の手を思いっきり噛みちぎってしまった。

「……っ!?……クソ!!」

頭に血が上ったのだろう。そいつは、商品であるはずの私に向かい、銃を向けてきた。……ここで死ぬならいい。気持ち悪い人達に、気持ち悪いことをされて死ぬぐらいなら、ここで死んだほうが100倍増しだ。とまで思った。しかし、その願いは、叶わなかった。発砲音がしても、銃を向けられた私は無傷。それもそのはず、銃を向けられた私の前に立っていたのは、アキにぃだった。

「……な、なんで!?」

撃たれた後、私になだれ込むように倒れるアキにぃ。疑問を問いかける私に、アキにぃは、言った。

「…………食堂……床下、収納……角に取手……そこだ……」

彼は……最後まで、いや、最期まで……私を心配していた。隠し通路の場所を、伝えようとしてくれた。

アキラの体の力が抜け、命が消えゆくのがわかった瞬間、思い出した。最悪の、タイミングだ。

「…………何が前世だ……なにが、乙女ゲームだ…………なんも役に立たないっ!!」

大事な人を、大事な居場所を奪われてから貰う記憶なんて、魔力なんて、意味がない。意味がないけど。

「……はっ……あ…………はあ、はあ……!」

額の汗を拭う。取り戻した前世の記憶と前世の自分がゲームにより上げたであろう高い魔力や習得した魔法が今の私に付与されたお陰で、目の前にいた最期まで私を庇ってくれたアキにぃの死だけは回避できた。昏睡状態で、とても危険な状況だけど。

「……絶対…………助けるからね……アキにぃ………」

そう、血塗れの協会で彼を抱きしめる。赤い血は人攫いのもの。気持ち悪く、吐き気のするような匂いだった。






もうやだもう無理。最悪な景色を思い出してしまったし、アキにぃも助けなきゃだし、100年の眠りも避けなきゃだし、何故かアマリリスちゃんに恐れられている現状の打破をしないと攻略対象からの敵認定解除は難しそうだし。もうやだよーー!!!無理だよーー!!難易度高いんだけどこれ!!確かにロマンス学園はクリアするのに難易度高い乙女ゲームだったけどもさ!!もうクリアするレベルまでのステータスになっているはずの能力を付与されている私がここまで苦労しなきゃいけないのなんなの!?徹夜してまでクリアに向けて頑張っていた前世の私泣いちゃうよ!?今世の私も泣いちゃうし前世の私も泣かせるし!!何この乙女ゲーム!!女の子2回も泣かせるなんてさいてーーー!!!本当に乙女ゲームなのかよくそ!!クソゲーだよもうこりゃ!!乙女を泣かせる乙女ゲームなんて初めて聞いたよこの野郎!!

そんな文句を何とか心のなかに留めながら、取り敢えず喫緊の目標であるアマリリスちゃんへの誤解を解くのと、緊急性が高いアキにぃの昏睡状態からの回復に向けて、今日も私は隠れて今度はセバン先生にバレないように透明化魔法薬を防げる防御魔法を掛けながら、禁書を覗き込むのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ