第14話 文化祭(3)
文化祭が終わり、後夜祭が始まった。売り上げの結果発表は明日行われるという。集客の様子を見る限り、私たちのクラスが一番売り上げが高いとは思うのだけども……。やっぱりちょっと、不安だなぁ。
そう思いながらキャンプファイヤーをしている火をぼんやりと眺めていると、
「アゼリア氏、疲れた?」
「……セバン先生」
セバン先生が隣に座ってきた。私の顔を覗き込み、「禁書で徹夜した時ぐらい顔色悪いね」と笑った。
「執事メイド喫茶、よかったよ。売り上げも良かったし、クラス全員での旅行券、貰えるかもね」
「……そうかなぁ……うん、そう、だよね……」
そう、どんどん語尾が小さくなる私にセバン先生は何を思ったのか、優しく、声をかけてきた。
「……不安?」
その、まるで、言っていいよ?とでもいうような、促すような言葉。
魔王の封印はできるかな?ちゃんと盾は貰えるかな?100年の眠りは避けられるかな?アキにぃは、ちゃんと目覚めるかな?国は、平和で、誰も犠牲にならないかな?……私、死にたくないよ。
そんなことを思って、ずっとずっと苦しくて、ずっとずっと張り詰めていた、私の、緊張の糸が、ふっと切れた気がした。
「…………うん……っ………ふ、不安……かも……」
涙を堪えるので精一杯で、堪えきれない涙を隠すので精一杯で、体育座りのまま、顔を自分の膝に埋めたまま、そう言った。
ああ、泣いているの、バレてるだろうな。やだな、恥ずかしい。早く、泣き止まないと。早く泣き止んで、「なんてね」とか言って、誤魔化さないと。早く、早く……。
「アゼリア氏」
セバン先生は、俯いているままの私の頭を、撫でた。まるで、そのままでいいよと、言ってくれてるかのように。
「……不安の原因、全部言って?……一緒に、解決策考えるからさ。僕、一応、こんなんだけど、先生だよ?すごく頼りになると思わない?」
……ああ、これは……なんともまあ、甘い誘いだ。すごく、すごく惹かれてしまう。今までの頑張りを、慰めてくれるような、もう頑張らなくてもいいと、言ってくれているような。
「……せ……せんせ」
「……ん?……どうしたの、アゼリア氏」
私はセバン先生を見て、ぐっと息を飲み込み、そして、言った。
「……もうちょっと、頑張る……から…………応援してくれる?」
私のその言葉に、セバン先生は何故か、ちょっと悔しそうに唇を噛み締め……一度俯いたあと、ふっと、顔を上げる。いつもの、優しい顔で。
「……わかった。……慰めてほしくなったら、言ってね?…………わんカニのドラマCD、特別に貸してあげる」
「……え!あの特典で世界に10個しかない幻の!?どこで手に入れたの!?」
「いやー、僕、先生なんで?なんでも知ってんのよ」
「先生素敵!それならそんな素敵な先生、来週の小テストの答え、教えて!」
「……教えてもいいがアゼリア氏は強制0点にするよ?」
「えー!!それじゃ意味ないじゃん!」
「ヒヒッ、じゃあ大人しく勉学に励むことだね学生ちゃん」
「くそ!ズルいぞ大人!ズルいぞ先生!!」
「ずるくて結構ーー!結局なーんも教えてくれないアゼリア氏には、僕だって教えないんだからねー!」
「くそ!仕返しがなんてガキなんだ!!」
そんな私の言葉にも「ガキで結構ー」とケラケラ笑うセバン先生。そんな彼の軽口に、少しだけ救われている私がいた。
結果、文化祭の出し物の売り上げは予想通り、私たちのクラスが優勝になった。クラス全員分の旅行券に意気揚々としているみんなをよそに私は、盾の飾りを見て、ほっと胸をなで下ろした。盾の飾りは誰も欲しがることはないし、皆が功労者だと認める私が、自分の部屋に盾を置くことを、止める者は誰もいなかった。よかった。これで安全な魔王封印に少し近づいた。
そう、安心したのがいけなかったのか、クラス全員の旅行が頭からすっぽりと抜けてしまっていたのがいけなかったのか、私は旅行前日、熱を出して動けなくなってしまっていた。
くそ、ほっとして熱が出るとか、どこのヒロインだよ。あ、私ヒロインだった。でも世のヒロインは普通攻略対象との旅行行ってから熱出すのでは?好感度上げ上げイベントを放棄して何故私は今ベッドに?…………あーー!クソ頭痛い!!!そう、熱により全く言うことを聞かない上に不快な感覚を私に主張してくる身体に、怒りをぶつけながら、薬を飲もうと立ち上がろうとして失敗し、間抜けに転ぶ。うえーん、惨めだよぉ。しんどいよぉ。そう、怒りから悲しみに感情が変わり始めた頃、ドアからコンコンとノック音がした。ん?幻聴かな?と思いながらも一応「どうぞ」と声を絞り出すと、きぃっと扉が開き、そこには
「……っ!?な、何してるんですか!?」
何故か、驚きながら果物やらタオルやら色々持っているロニアがいた。




