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第13話 文化祭(2)

遂に文化祭がはじまり、執事メイド喫茶が始動した。……流石乙女ゲームで正しい選択肢として用意されているものだ。とてつもない大盛況。アマリリスちゃんの可愛らしい接客も、ロニアの丁寧な接客も、ダークの高貴さが感じられる接客も、見ててめちゃくちゃ癒される。

そして、私の萌え萌えキュンサービスは、概ね好評だ。しかし、お客様としてやってきた攻略対象である、ロニアやダークから好感度が上がっているような様子はない。セバン先生だけは、私の洗礼された萌え萌えキュンに対する「オケ、合格〜」と言ってくれたが。いや、でもあれ好感度が上がったと言うより、からかいにきたような感じにも見えたが……。やめよう、考えるのは。今は目の前の労働に積極的にならねば!!優勝は!!私たちの手に!!と、元日本人らしい勤勉さを発揮していると、肩をポンと叩かれた。そこにいたのは、ダーク。

「休憩がてら、僕と宣伝まわりに行ってきてだってさ」

……ちょうどお腹が空いていたし、休憩はしたかったけど、まさかこんな目立つ奴と休憩することになるとは。そう私は、ゆっくりのんびり休憩することを諦め、いかにお腹を満たすことができるか、文化祭の出し物パンフレットを開いた。



「んー!うまっ!!ダーク殿下、これおいひいですよ」

「……食べるか喋るか、どっちかにしたら?」

そう、お腹を膨らますためにたこ焼きを頬張る私と、それを見ながら看板を掲げるダーク。

「……あ!あれ、ダーク殿下が好きそうじゃないですか!?」

そうクレープを指さすが、ダークは首を横に振る。

「僕はもう食べたからね。君が食べなよ」

その言葉に「そうですか?」と疑問を投げかけながらも、私はデザート用のクレープを注文する。ふふっ、やっぱり定番のチョコバナナだよね~!そう商品を受け取り、そしてついでに、ダークが持ってた看板も受け取る。

「……君は食事をするんじゃないの?食べない僕が持つのが、普通だと思うけど?」

という問い掛けに私は「そうなんですよね〜」と言いながら、クレープを1つダークに渡した。

「……なので、ダーク殿下もクレープ食べませんか?幸いクレープは片手で食べられるんで、私、看板持ちながら自分のクレープ食べれますし……それに……」

私はなかなかクレープを受け取ろうとしないダークの口元にクレープを突っ込んだ。

「……嘘つきですね。ご飯、まだ食べてないでしょ?」

「…………バレた?」

ダークはそう、誤魔化すように笑った。



「じゃあお言葉に甘えて」と言いながらクレープを頬張るダーク。食事を兼ねてなので、しょっぱめのクレープにしたのが良かったのか、あっという間に食べ終えていた。

私が「次はデザートですね!これ、美味しいですよ!」とフルーツ飴を渡すと「君は随分と屋台の食事に詳しいね」とダークは笑いながらフルーツ飴を受け取った。

「ダーク殿下は、屋台飯とか食べたことなさそうですね」

とダークに言う。すると、ダークは気まずそうにしながら答えた。

「……あるよ、昔は暇があれば下町に顔を出すようにしてたからね」

その言葉に驚いて目を見開く。これは新情報だ。乙女ゲームにも書いてなかった気がする。

「……そうなんですね。下町に、興味があったんですか?」

そう、なんてことないように聞く。すると、ダークは顔を見上げ、じっと、私を見た後、さみしげに微笑んだ。

「……会いたい…………人がいたんだ」

その言葉に、ダークの表情に、声色に、私は少し考えた後、あっと閃いた。

「ダーク殿下の初恋は、下町にいるお姉さんなんですね!?ふふ、意外です!」

その言葉を聞いてから、ダークは……敢えてだろう。不快だと言わんばかりの顔を私に向けた。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――



『下町のお姉さん』

その言葉は間違ってはいないので否定はできなくとも、彼女の思っているようなことでもないため、取り敢えず不快だと言わんばかりの表情を彼女に向けた。すると彼女は「ヒェッ」と分かりやすくたじろぎ、そして、誤魔化すようにそっぽを向きながら話し始めた。

「あー……でも、えっとー……ほら!……殿下が来れるほど、下町の治安良くなったんですよねー!すごいですよねあれ!」

と、話し始める。彼女はそのまま昔を思い出すかのように目を瞑る。

「昔は、子供一人で歩くのは考えられないほど治安が悪かったもので……今は孤児院の子もお使いに行けるほど治安いいんですよ!きっと、誰かが助言してくれたんですかね?いつかお礼がしたいなーって、シスターと話してたんです」

と、僕に対して笑顔を向けてきた。その言葉に、彼女の嬉しそうな表情に、頬が緩みそうになるのを、目頭が熱くなるのを、必死で抑える。

「……君は……」

「……?……はい」 

「…………君は……嬉しい?」

僕の声は震えていなかっただろうか。何でもないように、言えたであろうか。そのことを確認はできなかったものの、彼女は、不思議そうな、でも、どこか嬉しそうな笑顔を向けてくれた。

「?……そりゃ、嬉しいですよ!ありがたいです」

その言葉に、笑顔に……胸がすっと、軽くなるのを感じた。

「……そ、よかった」

そんな僕の言葉に、彼女は何を思ったのか分からなかったが、僕を見て、まるで、安心して?と言わんばかりの笑顔を向ける。

「……大丈夫です!初恋のお姉さんのことは、アマリリスちゃんには内緒にしておきますから!」

と、的外れなことを言う彼女の言葉だったが、確かになと思い直せた。そうだ。僕は第1王子で、この国の時期国王で、アマリリスはそんな僕の婚約者候補で……そして、君は…………そんな僕から遠いところに行き、当たり前の幸せを享受するべき、そんな存在だ。

「それは……ありがたいね」

アマリリスとも、僕とも……そして、魔王の封印からも、君は遠い、遠い存在であってくれ。そう願いながら、僕は彼女の言葉に頷いた。

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