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第12話 文化祭(1)

執事メイド喫茶の素晴らしさを布教しつつ、貴族たるもの使用人の気持ちを知っておいて損はないという話をしまくった結果、出し物は無事、執事メイド喫茶に決まった。

衣装はアマリリスちゃんのお家の使用人の服を拝借することになった。アマリリスちゃんが「実はちょっとデザインに自信があるの。小さな頃、お父様に使用人の服デザイン変更お願いしたから」と恥ずかしそうに教えてくれた。可愛い。それにわかる。転生者たるもの、貴族の家に転生したなら、使用人という存在に、その制服に、ワクワクしちゃうよね。拘っちゃう気持ち、わかる。

そして実際、アマリリスちゃんが持ってきてくれた制服は、すごく可愛いしかっこいい。上品なのに装飾品がおしゃれでアマリリスちゃんのセンスの良さが伺える。

お陰で貴族のお嬢さんお坊ちゃん達も、使用人の服を着ることにそこまで拒否感を示さなかった。寧ろみんなのテンションとやる気が上がっている。ありがてぇ。

そんなことを考えながら、喫茶ということで、食事や飲み物のメニューを決めつつ、文化祭当日に向けて着々と準備を進めていく。



…………今日は大変だった。オムライスを提案したまではいいものの、どう、「萌え萌えキュンサービス」をどう頷いてもらうかが大変だった。あのサービスは、ゲームで攻略対象の好感度を簡単に上げることができるイベントなので絶対取り入れたかった。……まあ、今の攻略対象達である、ロニア、セバン先生、ダークの状況は乙女ゲームの時と変わってるし、効果があるかは分からないけど、最善は尽くした方がいいだろう。

そう、オムライスの試作品を作りながら思考に耽っていた時、ガラッと教室の扉が開く音がした。そっちの方を見ると、セバン先生が眉をしかめながら声をかけてきた。

「……もう、外暗いよ?」

その言葉にバッと窓の外を見た。わあ!本当だびっくり!今何時?……8時!?!?

「ご、ごめんなさい!すぐ片付け……」

と、片付けようとした私の手を、セバン先生は止めた。私を見ながら、ニヤッと笑う。

「叱るの、免除してあげる。その代わり……」

そう、私の作りかけのオムライスを指さした。

「……僕、お腹すいたんだよねー」

…………か、畏まりましたセバン様!!私は作りかけのオムライス完成に向けて、全力を注ぐことにした。


完成したオムライスをコトッと、セバン先生の前に置く。セバン先生の希望の元、使用人の制服を着て。本番さながらのシチュエーションで。まるでリハーサルだ。

「お待たせしました。こちら、オムライスです。」

「……ねぇ、アゼリア氏?あれは?」

「……?」

あれ、とは?と、はてなマークを浮かべている私に、セバン先生は言う。

「萌え萌えキュンサービスってやつ。……あれ、わんカニのトイプーちゃんみたいな台詞だよねー。アゼリア氏が一生懸命推してるのに、僕も手助けしたんだからサービス受ける権力、あると思うんですけど〜」

その言葉にギクッとしてしまう。そうなのだ。危うく不採用になる所に、セバン先生が「面白いけどね」と一言言ってくれて、場の雰囲気が変わったのは事実だ。……くっ。そりゃ、言うつもりだったさ!言うつもりだったけど……それは、本番まで開き直る心の準備をする予定で……今は、今は……。

「ほらほらアゼリア氏、言ってくんないとオムライス冷めるんですけど??」

くそ、コイツ楽しそうだな!!わかるぞ!?オタクはメイド喫茶好きだもんな!?私だって好きだ!可愛い女の子に萌え萌えキュンされたい!!でも、でも……私が言うのは、今言うのは……ちょっと違うというか……大分恥ずかしいというか!?!?

言えない私を面白がって見てくるセバン先生。くそ!ムカつくなコイツ!陰キャオタクが調子乗ると本当ムカつく!……くそ!こうなったらどうせ言えないだろうと油断している内に、私の渾身の萌え萌えキュンを、披露してやる!!

「…………アゼリア氏?」

黙り込んだ私を見て不安に思ったのだろう。セバン先生が若干申し訳なさそうに私に声をかけてくる。きっとこの後に来る言葉に「ごめん冗談」「サーセン」と言ってくれるだろう。セバン先生はなんだかんだ引き際を分かってるし優しいから。でも……でもでも!私は言う!言ってやる!!

そう、決心して私は顔を上げ、そして……

「…………も……」 

「……も?」

「……萌え萌え……キュン!!」

そう、半場ヤケクソで言ってやった。ちゃんとポーズ付きだ。完璧だろう。…………まあ、本番までにこの羞恥心による赤い顔と震えちゃってる手と、お客様に合わせることのできない目をなんとかしないといけないけど……。そう、萌え萌えキュン披露後、なんにも言わないセバン先生の方を、チラッと見た。

セバン先生は、手で顔を覆い隠していた。「エー」「これはズルいっすわー」とぶつぶつ言った後、暫く黙った後に顔を上げ、私の方を見た。その顔が、ほんの少し赤く染まっているように見えたのは、気のせいだろうか。

「……他の人にやる時、照れながら言うのは、駄目。ちゃんと修行してきて」

と、私のサイドの髪を、サラッとかきあげた。そして、私を見て、「ヒヒッ、耳まで真っ赤」と、笑った。




片付けを終了させ、女子寮に戻ろうとした時、ロニアが息を切らしてやってきた。

「姉様から連絡が来て……はあっ……何してるんですかあなたは」

ひ、ひぇ、そういえば忘れていたけど、女子寮には確か門限あったんじゃなかったけ……ぎゃっ!もうとっくに越してんだけど!!

そんな私の心の叫びが分かったのか、ロニアは呆れながらも言う。

「寮母さんは、姉様が何とか誤魔化してくれてます。隠しルートから入らないといけないので……私が、彼女を送ります」

と、ロニアは何故か、私と一緒にいるセバン先生に向かって言う。セバン先生は、ロニアを見て「ハイハイ」と頷いた。

「ロニア氏なら安心……ではないけど、ま、今回は譲りますわ。……じゃ、アゼリア氏、気をつけて」

と、何故か忠告をしてセバン先生は手をひらりとふって去った。気をつける?何にしたいして?……あ、寮母さんか!と納得しながらロニアにちょこちょこついていく。

「ロニア、迎え来てくれてありがとう!」

そうお礼を言うと、ロニアは私の方をチラリと見る。

「……その格好……やっぱり、文化祭の準備してたんですね?言ってくださればよかったのに」

と、顔を顰めている。片付けに夢中で、使用人の制服を着替える時間がなかった為、私は使用人の格好で呑気に帰路へついていた。ま、こんな夜更けに女子の制服着て歩くより、ロニアの隣で使用人の服で歩く方が、変な人に狙われにくいかもしれないしかえって目立たないかもしれない。そんなことを考えながらロニアに言う。

「いやー、ここまで遅くなる予定ではなかったからねー。でもね!大分準備進んだんだよ!これで明日からちょっと楽になるよー」

そうガッツポーズをしながら言うと、ロニアはふっと笑った。

「……それはそれは、随分と仕事ができる使用人ですね」

その言葉に私は「ありがとうございますご主人様!」と冗談目に言った。アマリリスちゃんの使用人の制服ということは、アマリリスちゃんの義弟であるロニアの使用人の制服とも言える。こんな素敵な制服を着れて、ダラー家の使用人たちは幸せだろうなと想像しながらロニアとの主人と使用人ごっこのやり取りをしばらく楽しんだ後、ロニアはふと、私をじっと見て、言った。

「……本当に、私の所の使用人になりますか?」

「……?」

冗談なのか、本気なのか、ロニアの表情を読み取ろうとしている間に、ロニアは続けた。

「その時は、あなたは私の専属にします。そしたら……貴方は私の命令を、聞かなきゃいけないですね」

そう私を見据えるロニアの表情は、どこか恍惚としていて

「私の部屋から出てはいけないと、私の世話だけして、私のことを見送り、出迎え、寝食を共にしなさいと言えば……あなたはそうせざる得ない」

ロニアはそう言い、私の顎に手を添え、強制的に顔を上げさせる。

「どうします?……一生、苦労させませんよ?」

そう、無駄にいい顔を近づけてくる。ひ、ひえ、これが私のご主人様!?そんなの……そんなの……

「顔見てるだけで1日溶けちゃう……仕事になんない……」

と、顔を覆った。ちょうどそのころ、寮に到着したので、「もうちょいいい顔に対する耐性つけたら採用試験を受けさせてもらいます」と丁寧にお辞儀をして去った。だから、ロニアが小さな声で「……危なかった」と呟いたのを、私は聞くことができなかった。


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