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ヒロインの苦悩

ヒロインとは、可愛くあらなくてはならない。

風に柔らかく靡く度に、ふわりと甘い香りがするサラサラストレートな髪の毛は、毎朝ヘアアイロンとヘアオイルで丁寧に丁寧に作り上げた作品である。

まるで落ちてしまいそうなほどのまん丸お目々と小さな鼻、零れそうなまつ毛は、毎日の顔のマッサージに美容液を駆使し、研究に研究を重ねた最高傑作の作品である。

見ているだけでも柔らかさを感じられるのに、華奢さを感じさせられる、庇護欲と官能さを感じられるこの身体は、毎日の決められた食生活と運動にストレッチを欠かさず取り入れたことによる努力の産物である。


ヒロインとは、可愛くあれなければならない。

可愛くあれば好意を持たれ、優しくされ、愛される。そう、信じてきた。信じてきて、頑張ってきたのだが。



「み、みなさん!どうしてここに!?」

そう戸惑いがちに話しかけるのは、本来なら悪役令嬢としてこの世界に存在しているアマリリス・ダラー。綺麗にアイロンでカールされているであろうくるくるとした艶のある黒髪と、ルビーのような赤い目をした女の子。戸惑っているような、驚いているような、でもどこかホッとしているような、そんな表情をひている。

「姉様は危なっかしいですから。弟である私がここにいるのは当たり前ですよ。……なので、他の方は自由に行動しても大丈夫ですよ?」

そうアマリリスに寄り添うのは、アマリリスの義弟であるロニア・ダラーだ。冷たく、氷のような瞳を持つ彼は、その瞳の通り冷静で、人に対して冷たい性格をしており、感情が動かない、ロボットのような男の子。そうなってしまったのは小さい頃のトラウマが原因なのだが……今目の前にいる彼からは、どこか人間味を感じる。

「あ、アマリリスさんは確かに危なっかしいですので、見守りは必要です……でも、あなた達は生徒です。彼女は教師である僕が見ておきますので、入学式を楽しんでください」

そう、オドオドして猫背になりながらも、高い背で皆を見下ろす彼は、セバン・ルイズ。学園の教師で、魔法電気工学科を専攻している。魔法に対する知識が豊富で、魔法電気工学以外にも、実は呪いや禁術など、闇の魔術にも興味があり、こっそり研究をしている魔法バカだ。由緒正しき公爵家なのだが、元々の性格と過去に起こしてしまった事件により、すごく暗い性格になり、人目に出ることが殆どなくなってしまったのだが、今の彼からは人前に出ていても、必要以上に怯えるような様子はない。しかし、そんなセバン先生も、目の前にいる彼が前に出てきた瞬間、「ヒィッ」と声を上げ、アマリリスの後ろに下がった。

「忙しい先生にそんなことさせるなんて心苦しいですよ。彼女はこの婚約者であり、この国の第一王子である私が責任を持って見守りますのでご安心ください」

そう綺麗な所作で出てきたのは、ダーク・ロマント。本人も言っていたが、彼はこの国の第一王子だ。とても優秀で、国政にも詳しく、コミュニケーション能力も高い。ただ、優秀過ぎて世界をつまらなく感じている節があり、無意識人を見下している腹黒だ。でも、今目の前にいる彼からは、どこか余裕がない、必死さも感じられる様子がある。


私が転生した乙女ゲームであるこのロマンス学園の攻略対象であるこの3人は、私が前世で得た知識である3人のキャラクター性と合っているところもあれば、どこか様子が変な所もある。その原因は明らかだ。なぜなら、彼女が、1番私の知っている知識とかけ離れているキャラクター性をしていたからだ。

「ロニア、ちょっと近いわよ!セバン先生、そんなに怯えなくて大丈夫ですよ、ほら、よしよし。ダーク殿下、婚約者ではなく、婚約者゛候補゛ですわよ!!誤解を生むような発言は控えてください!!」

そう攻略対象である皆に囲まれながら、口を膨らまして可愛らしく怒るアマリリス。本来彼女は、癇癪持ちでこの3人からは特に悪い印象を持たれており、愛されるヒロインに嫉妬して嫌がらせをする典型的な悪役令嬢の筈だった。

ただ、目の前にいる彼女は、3人に嫌われているどころか、好かれているように見える。怒ってはいるものの、「仕方ないですわね」と優しく笑う彼女からは、癇癪持ちである印象はないに等しい。

なんなら私は見ている。彼女が入学式早々、下駄箱が汚されて困っている所を。そんな下駄箱を綺麗にするロニアに、生徒たちを睨みつけるセバン先生に、颯爽と綺麗な新品の上靴を持ってくるダーク。

綺麗な顔を3人方に優しくされているからだろう。ダークから貰った綺麗な上靴を履いているアマリリスは、学園の女子生徒からは冷ややかな目を向けられている。

恐らく彼女は嫉妬の対象として嫌がらせを受けている。でも、その原因である3人は、そんな彼女を守るために離れるわけにはいかなくなってしまう。まあ、ダークの婚約者候補になった時点で、嫉妬の対象にはなってしまうだろうし、今の彼女は癇癪持ちでも我儘でもない、優しく可愛らしい女の子だ。嫌がらせをする対象としては充分だろう。

だからこの3人は、本来のヒロインとの出会いイベントが起きる中庭ではなく、真っ先にアマリリスの元へ向かったのだろう。

そして、そんな3人の様子に、疑問を抱きつつもどこかホッとしている様子のアマリリス。

考えるに彼女はこの乙女ゲームを知っている前世を持っている転生者だ。そして、もしかしてだけど……この乙女ゲームのラストエンディングを知らないのかもしれない。このロマンス学園の乙女ゲームは、クリアまで凄く時間がかかり難しいと有名だ。そして、ラストのエンディングを知らないと得られない知識がある。

そして私はその知識を知っている。だからこそ、こんなにも死に物狂いで可愛くあろうとしてあるのだ。

だけど、その努力は無駄になるかもしれない。…………いや、そんなことはない。少なくともやらないよりはマシなはずだ。

そう言い聞かせて、偶然を装い皆がいる講堂に足を踏み入れる。私を足音を聞いてか、皆はバッと私のほうを見た。

私を見るなり顔が青くなるアマリリスと、セバン先生。庇うように前に出るロニア。不敵に微笑むダーク。

……あれ?なんでこんなに怯えられている?何でこんなに敵意を向けられている?

どうにか好印象を貰えないかと優しく微笑むが、セバン先生は更に「ヒィ」と怯え、アマリリスはロニアにぎゅっと捕まる。なぜだ?そう疑問を持っていると、ダークは表情はそのままに、「これはこれは」と言葉を発した。

「この私やロニアもいる中、入学式の学年代表として挨拶をしたアゼリア・サトリーさん。どうしてここに?」

確かに張り切りすぎて、めちゃくちゃ点数良かったのは認めるけど、ダークもロニアもそんなこと気にするような性格ではなかった気がするが……。そう頭を悩ませていると、ロニアがアマリリスを庇うように前に出ながら言う。

「貴方が姉様を執拗に見ているのは知っています。そして貴方を見ると姉様はとても怯えた顔をする。姉様は否定していますが、今朝の下駄箱も、朝1番に学校にいた貴方も容疑者として上がっています。なので……姉様に、あまり近づかないでください。貴方も、無駄に疑われるのは嫌でしょう?……まあ、無実ならですが」

アマリリスちゃんが悪役令嬢っぽくなくてじっと見ていたのがバレてしまった!そして、悪役令嬢のアマリリスちゃんが私を見て怯えるのを知ってショックな自分もいる!まあ、ヒロインに関わると悪役令嬢ってすぐ死亡フラグ立つから仕方のない気もするけど!!そして全くもって無実の罪を着せられている気がする!!なんでや!!

「……あ、あなたが試験合格後、入学式前に学校に訪れることができる期間の際によく禁術書を見ているのを、知ってます。人に対する呪いの書を、読んでいるのも……。あまり……感心しません」

ヒロインの特性を知るためには禁術書が必要だったんです!!人に対する呪いの書は前世の上司を呪えないかとちょっと覗いてしまいましたすみません!!!……うう、ちょっとした好奇心でなんかセバン先生にもめちゃくちゃ怯えられてしまっている。しんどい。

気持ちら沈んでいるが、状況は分かった。つまり私は日頃の行いと、アマリリスちゃんの様子により、めちゃくちゃ3人に嫌われているということだね!?…………マジかよ!!!

「……まあ、随分と皆さま私に詳しいんですね。嬉しいです」

そう、取り敢えずポジティブな返答をしようとそう言ったが、この発言により3人の表情は益々曇る。悲しい。なんとも冷え冷えとした空気に何かを思ったのだろう。アマリリスちゃんが言葉を発した。

「み、皆さま、そろそろ授業が始まりますわ!入学早々授業に遅れるわけにはいきません。早く行きましょう?」

そう明るく笑う彼女に、3人の表情は緩まる。そのままいそいそと移動する皆は、当たり前のように私を置いていく。そんな様子に疑問の表情を浮かべるのは、アマリリスちゃんだけで……。



皆においていかれ一人ぼっちに講堂で佇んでいる私は窓を見上げた。私の気持ちとは裏腹に、空は綺麗で木々は風に優しく揺れ、小鳥はチュンチュンと楽しそうにさえずっている。

大丈夫、大丈夫だ。エンディングまでまだ時間はある。諦めてはいけない。頑張らなくてはいけない。だって私は、好かれなきゃいけない、愛されなきゃいけない。そうでないと……

「……100年眠ったまま死んでしまうのは避けたいなぁ」

そんな私の呟きは、誰にも聞かれることはなく、溜息に混じって消えていった。


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