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得体の知れない場所

そこが全てなのかはまだわからないが、少なくとも『吉田龍平』が今いる場所は特定はできた。

中の様子が見られないのは仕方ないが、そこで何が行われているのかはこれからどうしたらいいのかを考える時臣だった。

 バスの降車場がよく見える駅前のカフェに陣取り、今時はこういうカッフェ~ではタバコが吸えなくて、仕方なくパフェなんかをつつきながらバスの降車場を見張る。

ー誰か呼ぼうかな、暇だしなぁースマホを眺めながらぼんやりそんなことを考えていると、いきなり目の前に男が座ってきた。

「あん?」

 そのままの体勢でスマホから目を向けると

「よう、何してんだこんなとこで」

 飛田であった。何気に久しぶりな飛田は右の頬に文字通り「それもん」風な傷が増えていた。

「お前こそ何してる。まあいいところに来た暇つぶしに話し相手になってくれ」

「バカ言え、俺は仕事中だ。前通りかかったら中年の探偵がパフェを前にしてぼんやりしてるのが見えたから揶揄(からか)いに来ただけだよ」

 癖でタバコを咥えて火を…と思ったところで時臣にー禁煙だぞーと言われ渋々箱に戻す。

「本当に何してんだ?」

 やってきた店員さんにコーヒーを注文して、時臣の前で溶けかかっているパフェのイチゴを摘んで食べた。

「俺も仕事中だ。対象者があそこのバス停に降り立つのを待ってる」

 顎で示されて見てみると、確かにバスの降車場が見える。

ーなるほどーと呟いて、今度は縁にかかったオレンジを取り上げて、

「それは時間が分かってるのか?」

 指先で皮を剥いて、ジュルッと吸い込んでその皮はまたパフェの縁に置いた。

「おい、やめろそういうの。てか何食ってんだよ」

 コーヒーではすぐに終わってしまうからと、わざわざ苦手な甘いものをゆっくり食べているんだと説明し、オレンジ食いやがって!と長いパフェスプーンで一口。

「って事は、その対象者が来る時間は決まってないってことか。暇なんだな探偵は」

 やってきたコーヒーを啜って、飛田はーいいなあーと毒付くが、そう言えばと顔を上げる。

「お前大変だったんだってな。在宅事件っつーんだっけ。何した」

 随分端折ってくれるなぁ、とじっと飛田を見つめ

在宅事件(それ)になった経緯は知ってるのか?」

 そう聞かざるを得ない。

「ん?少年への殺人容疑だろ?」

 またざっくりと言ってくれる…いや容疑は間違ってはないのだが、そうではなくて…と言い返したくもなるが、もうめんどくさい。

「いや知ってる、それこそ災難だったな」

 くっくっと口の中で笑って、飛田はすまんと片手拝みをしてまたタバコに手を伸ばしては引っ込める。

「その事で揶揄(からか)われたくねえんだよ、クソが」

「イテッ」

 テーブルの下で飛田の脛を蹴り上げて、時臣は後ろに寄りかかった。

「微妙にトラウマになりかけてんだよ、2度と揶揄うな」

 バスの降車場にバスが入り、降りてくる人を見ながら言う。

「まあなあ、目の前で飛ばれたらな」

 少しは同情している風に言ってくる飛田を目だけで見て

「お前らの世界じゃそんなん日常茶飯事だろ。慣れてんじゃねえの?」

 そう言われて飛田もーへっーと笑って背もたれに寄りかかった。

「いくらなんでも日常茶飯事ってほどはないぞ。まあ一般社会よりは回数が多いだろうけどなぁ。春樹ん時も言ったけど俺はそういうの向いてねえんだって」

 去年の夏に甥の悠馬を預かった時、春樹という時臣にゾッコンなヤク中が薬の横流しをして飛田の組から粛清にあっている。〔『おじさんとの夏休み』参照〕

 その時にそういう『専門の業者』に春樹の身柄を任せたと言った飛田の顔つきは悲痛なものだった。

 向いてないという飛田の言葉にその時時臣は敢えて応えなかったが、それも印象深く覚えてはいた。

「そういやそんなことも言ってたな。まあでも、()りに行くのと勝手に逝かれるのはまた違うだろ。あの子は俺に怯えて飛んだからな…そこに何があったのか全くわからなくて、今も釈然としねえ」

 目線はずっと外を見ていて、飛田から見ても確かにいつもの時臣ではなかった。

「まあ確かにそれはな。ほんと災難だな。じゃ、俺もなんか情報あったら流すわ」

「おー、頼むわ。助かる」

「5万でいいぜ」

「帰れ」

 飛田は笑って立ち上がり、

「まあ、お気張りやす」

 などと軽口を言って去っていった。

 すぐに請求の紙がないのに気づいたが、振り向いた時にはもう精算しており、時臣は舌を鳴らして後で倍にしてつっかえそうと、パフェを混ぜ返す。

 

 龍平が現れたのは時臣が駅で張ってから2時間半後だった。

 流石に元いたカフェにはいられず、近くのファミレスに移動して1時間半が経った頃である。

 駅に戻るまでにバスで大体25分、それから時臣の待機時間を計算すると龍平は実家に2時間弱いたことになる。今の時間は4時50分辺りだ。

「やっとお出ましかぁ。まあ泊まりじゃなかっただけラッキーか」

 やれやれと立ち上がって自動精算機で精算を済ませ、急いで駅へ向かった。

 今度は地下鉄ではなく山手線に乗り、新宿乗り換えで高円寺で降りる。

「高円寺が今いるところなんだな…」

 そこからは龍平は歩き始め、その後ろを10mほど離れて追った。

 駅から15分くらい歩いて、龍平は商店に囲まれた赤いれんが色の商用ビルへと入っていった。

 ここからは流石に中まで追うのは憚られ、取り敢えずの位置を確認できたことに満足するしかない。

 暫くしてから降りたであろう階数をエレベーターで確認をした。

 時間を確認したら17時31分だった。

 そのビルの一階はパソコン教室になっており、そこで上の事情を聞くのも露骨すぎだなと近隣の昔からありそうな喫茶店や、今どきあるんだなといった風情のたばこ屋、と言ったところであのビルの詳細を聞き出し、その日は事務所へと戻ることにする。

 話によるとあのビルは、もともと小さな会社などが数社入った商用ビル()だったが、それが抜けた後は結構得体の知れない…とはいえ地元の人にしてみればレベルだろうが、得体の知れないパソコン教室や、上の方では何だかわからないことをしているのが出たり入ったりしてるという、近隣ではあまり評判の良くないビルだった。 



「その得体の知れない所に若い子が集められて、一体何をしてるんでしょうね」

 唯希(いぶき)の言うことももっともだ。

「流石に中には入れなくてな、詳しいことは見えなかったんだが、エレベーターも4階で止まってたし、外から見ても使ってない部屋の窓は真っ暗だったけど4階と5階がブラインドになってて、窓の端から蛍光灯の光は見えてたから多分そこなんだとは思うんだ」

 自分のデスクへついてパソコンに今自分で言ったことを書き込みながら話す。

「それほど隠れてるって感じでもないんですね。もっとコソコソしている感じかと思ってたけど…まあ学校へ行かせてるくらいだから、あれかぁ」

 本当にそこに若い子を集めている人だか組織だかの意図が全く読めない。

「話を聞ける子がいればいいんだけどな…強引にとっ捕まえて口割らすか」

「それで取り逃したら、今度は道路に飛び込まれますよ」

 呆れた顔でそう言って、唯希も情報をパソコンに取り込む。

「しかしな、考えてみたら中条の顔を見て怯える子がいたとしたら、その子は俺には怯えないだろ…あ、伊藤瀬奈!あの子は今家に戻っているはずだ、中条に話を聞きにいって貰うってのはどうだ。それか、中条がとっ捕まえた子に俺が聞きに行くとか」

「なるほど、いいですね。それなら怖がらせずに話を聞き出せますし」

 パソコンに「?」マーク付きで今の案を書き足し、でも…と話しだす。

「私、子供たちがその高円寺のビルにいる間に親御さんの元にも戻らなかったって言うのも気になってて、伊藤瀬奈くんは家に戻って普通に暮らしているんでしょうかね」

 椅子を回して唯希に向き直り、

「何が言いたい?」

 問い詰める口調ではなく、先を促す感じで訊く。

「いえ、まだ私の勘程度なので確証…というかそういうのは全くなんですけど、どうにも今まで確保した子達、亡くなった猪野くんも含めて家に帰らなかったでしょう?親御さんを避けてた気もするんです。だから強制的に家に戻されても、元のように家族仲良くなれてるかなって」

 瀬奈を確保した時の病院では、時臣は顔を見せないようにまだ瀬奈が眠らされている状態で退出したから、母親と一緒にいるのをみてはいなかった。

 なので、親を避けていたかは確認をしていない。

 しかし唯希は、言葉には出さなかったが言外で言っている言葉がある。それは

「洗脳…とかそう言ったことってことか?」

 時臣はデスク前から立ち上がって、ダイニングテーブルへとやってきた。

「そこまでガチだとも思えないんですけど、何となくそれっぽいものが間に介在してるような感じ…しませんかね」

 ピンクのストライプがあしらわれたカップで、唯希はホットミルクを飲む。

 ダイニングの椅子に横向きに座っている時臣は足と腕を組んだ。

 確かにそれを考えると、今までの事が全て辻褄が合う。

 猪野充が自分を見て怯えて飛び降りたこと。捕まえた伊藤瀬奈がやはり自分にだけ怯えたこと、自分たちの依頼ではないところでも若者が何名か追ってきたものの前で事故になって亡くなったりしている事実。

「洗脳か、もしくはそれに準ずるもの…か」

 確かにそんな深刻な感じはしないが、でもそれに類する物はあるような気はする。

 でもそれを考えるだに疑問が一つ残る。

ー何のために?ー

 ということだ。

 まあそれを知るためにも取り敢えず伊藤瀬奈の家に連絡を入れ、まずは話を聞いてみることだ。


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