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被害者の記録(一部)

影響のない範囲とはいえ、悠馬にも事の端が及んでいることを知りそれを逆手に調査できないかを目論む。

 次の日、出勤してすぐに唯希が一枚の用紙をデスクに座る時臣の前に置いた。

「これは先日お渡ししたここ1ヶ月見当の自死及び事故の調査書ですが、それに各所轄の刑事さんへの聞き込みから得た介入した探偵および興信所の方々の名前と、亡くなったお子さんたちの葬儀が行われた葬儀社を調査して書き足したものです。なんか結構嫌な結果っていうか、傾向が見えてますよ」

「嫌な傾向?葬儀屋か?」

 用紙を見て時臣の顔が曇る。

「ええ、まあ母数が少ないのでその場所でしたらそこ行きがちなのはわかるんですけれど、この調べた7名のうち4名が【蓮清堂】しかも用賀支店です。ちょっと気持ち悪いですよね」

 蓮清堂と言えば、『あの』木下がいる会社だ。あの時は確かに用賀まで出向いたから、用賀支店だっただろう。

 微妙なラインがうっすらと見えてきた。

 ダイニングにノートパソコンを置いて、時臣は渡された紙のデータを引っ張る。




渋谷区  自死1名 事故2名(内1名死亡) 第三者介入 有

所轄:渋谷署

 ・自死:三宅 凪(みやけなぎ) 21歳⭐︎ 介入者 粟飯原邦宏(あいばらくにひろ)(AKエージェンシー)

葬儀社【セレモール谷川】

 ・事故死:森川 駿(もりかわしゅん) 20歳⭐︎ 介入者 嶋村隆(しまむらたかし)(興信所嶋村)

    葬儀社【マルカワ】

 ・事故入院中 詳細不明


世田谷区 自死0名 事故2名(内1名死亡) 第三者介入 有

所轄:世田谷警察署

 ・事故死:石川結翔(いしかわゆいと) 19歳⭐︎ 介入者 本庄護(ほんじょうまもる)(エージェント本庄)

  葬儀社【蓮清堂 用賀支店】

 ・事故入院中 詳細不明


板橋区  自死1名 自死未遂1名 事故1名 第三者介入 有

所轄:板橋警察署

 ・自死:館 由和(たちよしかず) 22歳⭐︎ 介入者 増田雄一郎(ますだゆういちろう)(エージェント増田)

  葬儀社【蓮清堂 用賀支店】

 ・自死未遂:若林 碧(わかばやしあおい) 20歳

   入院中 詳細不明


葛飾区  自死0名 自死未遂1名 事故2名(内1名死亡) 第三者介入 有

所轄:葛飾警察署

 ・自死未遂:御手洗蒼空(みたらいそら) 19歳

   入院中 詳細不明

 ・事故死:三沢陽太(みさわようた) 21歳⭐︎ 介入者 溝口宗吾(みぞぐちそうご) (探偵溝口)

  葬儀社【ウェルコ葛飾】

 


三鷹市  自死1名 第三者介入 有

所轄:三鷹警察署

 ・自死:猪野 充(いのみつる) 19歳⭐︎ 篠田時臣(篠田エージェンシー)

  葬儀社【蓮清堂 用賀支店】


国上市  自死1名 自死未遂1名 事故1名 第三者介入 有

所轄:国上警察署

 ・自死:半井優一(なからいゆういち) 19歳⭐︎ 湯沢総一郎(ゆざわそういちろう)(YSエージェンシー)  葬儀社【蓮清堂 用賀支店】

 ・自死未遂:河合圭介(かわいけいすけ) 22歳

 ・事故入院中 詳細不明


        

  自死者4名 事故死者3名  計 7名 〈但し自死及び事故は警察の見解より〉

            

葬儀社  蓮清堂  4件 セレモール谷川  1件  マルカワ  1件

     ウェルコ葛飾  1件



「この『蓮清堂』なんですけどね、ちょっと周辺探ってみましたら…あ、ネットでですけどね、そうしたら営業がエゲツなく激しいそうです。周辺の主な大きい病院にはほとんど詰めてるような感じでいましてですね、それかもう病院の総師長や事務長とほぼ癒着のところもあるようで、真っ先に連絡が行くようになってるところが多いようです。なので、一概に今回の件と絡められないんですけれど…色々匂いますよね…」

 時臣はもらった用紙を見つめて考える。

 営業が積極的なのは当たり前で、それは業務としてはいいんだろう。

 それによって顧客を増やすことは企業のやり口なのだしそれもいい。

 ただ気になるのが、猪野充の通夜(あの日)の木下の俺を見る目だ。

 明らかに面白がってる目だったし笑みだった。

 何より、篠田時臣(自分)だと言うこと判っている感じだったのが1番引っかかる。

「それとですね、介入者の各探偵や興信所の方々にはもう連絡して、今回の件を全て話し、今抱えている関係ありそうな依頼の扱いを慎重にすると約束していただきました。それと交換条件で、こちらが得た情報は全てそちらへと伝えるということになりましたので、お伝えしておきます」

「随分とデカくなってきたな。まあこれが各探偵業その他(関係者)に知れ渡れば、事故や自殺に見せかけた殺人も無くなるだろうからな」

 唯希は時臣が『殺人』と言ったことに少し驚いた。

 何かを確信したんだろうか。

「ボス…殺人と言ってしまうのは…」

「ああ、悪い。いやな、前に…猪野くんの通夜に行った時の話覚えてるか」

「賢そうな弔問客の…あ、それじゃなくある人を嫌な感じだと言っていたことですかね。ボスにしては珍しかったので覚えてます。葬儀場の方だったとかk…え?」

 時臣はデスクから立ち上がってウォーターサーバーへ向かい、カウンターのグラスに水を注いだ。

「あの時な、その葬儀場の奴…名前も覚えてる木下と言うんだが、入り口で弔問客に挨拶していたんだ。そいつな…俺が前を通った時笑ったんだよ。俺に向かって。でかいやつがいるなとたまたま見てただけだったんだが、前を通った時に不意に視線を感じて、見たら目が合ってな…絶対に笑ったんだ。それが今までずっと気になってた」

 唯希はパソコンを見て、猪野充の葬儀社を『蓮清堂』だと確認した。

「ボスそれは…」

「匂うだろ?追い詰めた相手が、追い詰められて亡くなった人物の通夜に来ているのを笑ってんだ。と思うとしっくり来ちまう。俺の中ではもう、半分くらい確定してる。しかしその間をつなぐものが全くわからん」

 グラスを持ったままデスクへ戻り、唯希から転送された手元の紙のパソコンデータを立ったまま開く。

「多分でしか無いのは判ってるが、木下が何かを知っているとは思う。この『殺人』が行われている背景に木下は絶対に居る」

 グラスをデスクに置いてパソコンチェアーに座るが、座るだけでじっと唯希からのデータを見つめている。

 唯希は黙って『蓮清堂』を取り敢えず検索してみた。


会社概要

  1975年創業 創業者 伊丹 巌

         現会長  伊丹源蔵


『都民の皆様の安らかな眠りのお手伝い』

 をキャッチフレーズに、遺族の方々のお気持ちに寄り添い故人様のより良い旅立ちをサポートいたします。

 


品川区五反田支店 

目黒区碑文谷支店  社長 伊丹秀一(48) 兼任


豊島区南大塚支店  社長 伊丹裕二(45)


世田谷区用賀支店  社長 伊丹賢也(30)




「パッとみた所、怪しいところは何もない普通の会社ですよね家族経営甚だしいですが」

 頬杖をついてみていた唯希は、スクロールしながら画面を見続ける。

「あ、でも用賀支店の社長えらく若いですねえ、私くらいですよ。いいですよねえ家族経営。30歳で社長かぁ」

「俺は30の頃はまだ傷の後遺症で悩んでたな」

「そう言えばもう大丈夫そうですね」

 27の頃ヤクザに刺されて以来5年程、予後も悪かった事も手伝って後遺症がずっと続いていたが、そう言えば最近は傷の痛みも感じない気がする。慣れたとは思いたくない。

「ああ、確かに。いつまでもシクシクシクシク痛んでたな」

 忌々しそうに右脇腹を擦ってー長かったなあーと言ったのは、傷に話しかけたのかそうでないのか。

「おはよう世界」

 いきなり悠馬が部屋から出てきた。

「あらおはよう。今日は休みなの?朝ごはん食べる?」

 パソコンを閉じてアイランドキッチンに立った唯希は、ついでに朝食を尋ねる。

「ボスは食べたんですか?」

「ん、コーンフレーク食った」

 デスクに向かって、何やら書き込んでいる時臣はそういうが、シンクに器などはないし水切りシートにも何もない。

「ボス~コーンフレークお菓子みたいに食べただけでしょう!牛乳くらい使ってくださいよ」

「飲んだぞ」

 ムキーッ!

「悠馬は?今起きたの?」

「ううん、寝てない。今日4限だけだから、今から寝るよ。夏と貴一とさ、YouTubeやろうって話になって、朝までネットで話してたんだよ~面白そうじゃない?」

 夏と貴一というのは、悠馬が大学に入ってから知り合った友達だ。もう何度もここへ来ているので、時臣も唯希も顔馴染みになっている。

「一攫千金なんて狙うんじゃないわよ~?お金持ちになるなんて一握りなんだからね」

 なんやかんや言いながら、唯希はバゲットを切ってトースターに放り込み、インスタントのコーンスープを二つのカップに入れて、悠馬にサーバーでお湯を入れるように指示。自身はフライパンでウインナーと目玉焼きを焼き始めていた。

「唯希さん手際いいねえ」

 お湯を入れながら悠馬が感心するように見つめる。

「何事も効率が大事なのよ。私は早く仕事に取り掛かりたいから、家事はさっさとやっちゃう派なの」

 カップにお湯を入れるだけなのに、のそのそしている悠馬を横目で見て言外に早くしろと急かしていた。

「はいボス、朝食です。ちゃんと食べてくださいね」

 はい~はい、と言いながらダイニングについた時臣は、マーガリンの塗られたバゲットをカリッと噛み、角を挟んで座っている悠馬に目を向けた。

「あれから変な勧誘はないか?」

 言ってる間に温めたミルクが出てきて、向こうではコーヒーを落としている香りがする。本当に手際がいい。

「あ~アイツね。昨日も誘われたよ。なんであんなにしつこいんだろう。いっぺん行ってみようかな。めんどくさいから」

 悠馬の言葉に二人は顔を見合わせ、それでも静かにいう。

「やめときなさい、そういうの碌な事ないわよ。壺買わされるわよ壺。何千万もするやつ」

 ええ~~と悠馬が唯希を見るが、時臣は何かを思いつき

「一度その子に会ってみたいんだがな」

 と、悠馬にとっては突拍子もないことを言い出した。

 唯希はなるほど…とミルクを温めた鍋を洗いながら思う。そうすれば依頼主がわかるか…も?

「ええ?学校来るの?おじさんが?」

 めっちゃ嫌な顔を悠馬はするが、

「俺くらいの学生だっているだろ。しかも保護者だって言えば平気だろうしな。実際保護者だし」

 そうだけど~と悠馬は渋るが

「いや実は、今の仕事にちょっと関係するかもしれないんだよ、その子がっていうかその子の立場がな」

「おじさんの仕事に絡んでるっていう訳?そいつが?」

 うんうん、と2枚目のバゲットを齧ってプチトマトを悠馬の皿にうつす。

「ボス?」

 はい…とトマトを戻して

「まあそれでしつこく言われなくなるならいいけどさ、俺が会わせるの?」

「いや、一緒に学校行って、そいつ見かけたら『あの子だよ』って教えてくれればあとはこっちでやるから。唯希が行けば男子大学生なんてイチコロだろ」 

「私の使い方間違えてます」

 とは思うがまんざらでもない。もう少し可愛い格好してくればよかったな~などと思いながら鼻歌混じりに鍋を洗う。

「でもな…どこにいるかわからないしな」

「まあ、今日会えなきゃ明日でもいいし、探偵は気だけは長いのよ」

「え。今日から行くの?」

「早いに越したことないんでな。4限っていうと大体3時頃か?12時に出ようか」

 さっさと予定を決めてしまって、悠馬はオロオロするばかりだ。

「寝てていいぞ車で送ってやるから」

 まあそれならいいか…とウインナーをひと齧り。食べたら速攻寝ることにした。


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