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刑事

「実はちょっと伺いたいことと、お知らせしたいことがありましてですね、連絡しようと思ってたので偶然でもお会いできてよかったですよ」

 先に来ていた焼き鳥を勧めて、結城はーなんだ?ーねぎまの鳥を口に入れた。

「お聞きしたいことっていうのは、俺が絡んだあの自殺事件の後に、似たような事件がありましたかってことなんです。捜査に関して言わないのは判ってるんですけど、ちょっと今気になる件を調べてまして、あったかどうか、それに俺みたいな人間が絡んでいたかどうかだけ教えてもらおうかなと思って」

 じゃあ一本、と言って鶏もも串を取って、やはり一つ口に入れた。

「うまっ」

「ここはうまいんだよな~塩加減もちょうど良くてな俺は好きなんだよここ」

「こういうとこ抱えるってのも男としてはステイタスって言うんですかねえ。焼き鳥屋は渋いっすよ」

 もも肉は柔らかく、本当に塩加減も絶妙で旨い。

「ああ、似たよう件な…ないことはないな。あの1週間ほど後にな、道路に飛び出した大学生がいてな、それもある人物を見て恐れるように逃げ出したところが道路だったって言うな。それは一命取り留めたが、特定の人間を見て怯えて逃げたってところはお前さんの時と似てるだろ」

 一本終わらせた串をテーブルの隅に置かれた円筒上の器に刺して、もう一本取り上げる。

 注文していた刺し盛りが届いて、結城は鶏の唐揚げとししゃもを頼んだ。

「鶏好きなんすか」

 時臣は思わず苦笑する。

「あ、いや。若いのは唐揚げ好きかなと思ってな。爺さん好みじゃ悪いかなと」

「若いって俺34すよ」

「俺よりは若い」

 まあそうっすけど…久しぶりに若いもん扱いされてちょっと照れてしまった。

「で、さっきの話はどうなんだ」

「いや、聞きたかったのがまさにそれでびっくりしてます。やっぱりまだあったんすねえ…そんなのが…キリがねえな」

 時臣の前に置かれた刺しちょこに醤油を注いでやりながら目だけで時臣を見た。

「それでお知らせしたいことってのはなんなんだ?」

「お知らせと言いますか…まあまだここだけの話にして欲しいんすけどね」

 と切り出し、時臣はテーブルに腕をついて軽く身を乗り出す。

「この間の俺の一件と、また似たような事故みたいな自殺…それもしかしたら繋がってるかもしれないって話です」

「繋がってる?」

「ええ、誰かが仕組んで自殺に追い込んでる可能性があるんです」

 結城は眉を寄せて、やはり同じようにテーブルに腕を付いてきた。

「追い込んでるってのは一体…」

「本当にここだけの話にしてくださいね。調査が終わったら各所にきちんと話しますんで」

「解った」

「先日ですね、俺のとこの依頼対象者を見つけた時やはり逃げ出そうとしましてね、その子はきっちり保護して、色々あって今は自宅へ戻りましたが…」

「待て待て、その別な子も自宅に居なかったってことか?確か猪野充もそうだったよな」

「そうなんです。さすがですね」

「ああ、ご両親が言っててな。それでお前の容疑も晴れるきっかけになったんだ」

「そうですか、ありがたい」 

 時臣はビールを一口口にした。

「それで、こう言った事故や自殺…実は都内で何ヶ所も起きてます。しかも俺ら探偵とか興信所がほぼほぼ絡んでね。で、その子達は全員その時に自宅以外のところに住んでいました」

「全員?」

 結城は流石に身を引いた。警察の隙を突かれたような事件だと思う。

 所轄同士は情報交換をよっぽどじゃないとしない。

「その…自宅以外のところと言うのは…」

「保護した子に聞いて見ると、塾…のようなそうじゃないような…と言うように要領を得ないんですが、ともかくそこに集められて個別にパソコンを支給されそこに学生が専攻している学部に対応した問題を解かせる、ということをしてるようなんです」

「健全に感じるが…」

「一見ね。でもその子達は何故か母親を嫌悪するように仕向けられ、そして親御さんが心配して俺ら探偵や興信所に捜索の依頼をしてくると、その依頼した探偵の顔すら恐るように仕向けてくるんですよ」

 訳がわからないような顔をして結城は時臣を見つめた。

「ね、わけわかんないですよね」

 そこまで話してやっとマグロを一切れ醤油へつける。

「仕向ける…?」

「マインドコントロールっぽいとしか言えませんが、そんなようなことをされてるんです彼らは」

「その塾みたいなところでか?」

「はい」

 口に入れたマグロはこんな話をしているからか、普段感じないほど血の味がした。

「どうにか、まだ塾みたいな(そこ)とこにいる学生と話ができましてね、その提供される問題というものを見せてもらえたんです。マインドコントロールされるとしたらそこしか思い当たらなかったのでね。それを専門家や医師に診てもらったところ、その問題が書かれた所自体に細工がしてありました」

 時臣はスマホを取り出し、写した画像を提示する。

 結城が見せられたのは画像をアップにして、問題の背景にルーペを当てて大きくした『こいつにころされる』と言う文字。

「これは…

 結城は顔を上げて時臣を見た。

「それがまず一つのキーワードで、もう一つはちょっとわかりにくいんですが…」

 と画面を変えて、先ほどの画面をかなり引いた画像。

「ここ、この当たり…にね目…なんですがわかりますか?」

 ペン型のライトを当ててやり結城に提示する。問題文の文字が黒いのでかなり集中しないと見えないが、ライトの角度によってはなんとなく黄色が密集している気がして、よくみれば目に見える。それを辿って逆側の目を探り…とやってると

「篠田さん…か?」

 時臣はーそうなんですよーとペン型ライトをしまい、スマホをとじた。

「この問題を出されていた子は、これを見せ続けられて俺のことを怖がってます。まあこの子はマインドコントロールの掛りが悪いタイプ…と言うか、かかるにも条件があってこの子には備わってなかったんですが無理矢理植え付けられて俺を怖がりました。意外と強くかけられたりもするんですよね」

「次は条件かよ…次々言われて頭がついていかねえよ」

「お待たせしました、唐揚げとししゃもです」

 すっかり忘れてた注文が来て、一瞬なりとも現実に戻った気がした結城は

「ちょっと一息つかせてくれ」

 結城は少し疲れたと言いつつビールを飲み干した。

 時臣はせっかく《《若い》》自分のために注文してくれた唐揚げを皿に取り、近くの店員に冷酒を注文する。

「やっぱり刺身とししゃもには冷酒で」

「いいセンスだ」

 一旦話を中断して、結城の家のことなどを聞いた。  

「へえ、結城さんとこは父子家庭なんすね」

「父子家庭とは言っても、息子が17の時にカミさん亡くなったんで子育ての苦労はなかったな。その下の娘も当時中3だったし。逆に面倒見てもらった感すらあるわ。

今はもう上の子は25で、下の子は23になった」

 笑いながらも手が離れた子供に若干の寂しさを漂わせながら、既に瓶半分ほど空けている冷酒を持って時臣に注いでやる。

「息子なんかな、もうすげえ料理作るぞ」

「しっかり育ててくれた奥さんに感謝ですね」

「俺は?」

「子育てしたんですか?俺は刑事の仕事知ってますよ?」

 ニヤニヤしてやると、ーやってねえなあーと笑って杯を空けた。

 そんな話をして数秒の沈黙の後、

「じゃあさっきの話の続きだ。頭の整理はできた」

 そんな話をしながらも、頭の隅で刑事の脳が色々考えていた。

「マインドコントロールを掛ける仕掛けは、その出された問題の背景に仕込まれてる、って話だったな」

 自分のタバコを取り出し加えると、時臣は火を差し出す。

「ヤクザの親分にでもなった気分だな」

 苦笑して火を借り、一息吸い上げた。

「そのマインドコントロールをかける条件なんですがね」

「うんうん」

「過去にトラウマ級の怖い事件に遭っている、と言うことなんじゃないかと推測しています」

「トラウマ級の事件?」

「ええ、今まで調べた中では、誘拐未遂、男性からの痴漢、父親からの暴力等がありました。全員調べたわけではないですが、専門家の話ではそこを突くとマインドコントロールかけやすいかもしれないという話も取ってます」

「なるほどなあ」

 結城は灰皿に円筒の灰を落としながらうなる。

「こうして聞いていると、随分周到な計画だな。その目的はどこに向かってるんだ?」

 そりゃあそうくるよな、と時臣も思うがそこが1番のネックで

「それがわかんないんすよ」

「そこまで調べてか?」

「いや、まあ推測はね…あるんですけど、なんだか荒唐無稽で…」

 タバコを灰皿に押し付けて結城はズイッと身を寄せてくる。

「そう言う『推測』や『無理じゃないか』ってところを潰してくんだろうよ」

 凄みの蓄えられた目でじっと見られて、流石に時臣も身を引いた。

 経験で積み上げた刑事の目である。

「一応…一応そこの調査もしてはいます。今日か明日には可能性くらいは立つと思うんすけどね」

「はっきり言え」

 また凄まれて苦笑するしかなくなった。

「はい、はっきり言います。葬儀屋です」

「葬儀屋?」

「ええ、これまでの事を調べれば調べるほど、得、というか利益を得られるのが葬儀屋しか思い浮かばなくてですね。まだ関連性も何もわかっちゃいないし、事故や自殺は場所問わずランダムです。特定の葬儀屋が儲かっている図式にはなり得ないもので」

「葬儀屋は調べてるのか」

「いま、うちの助手が今回調べて出てきた子達だけですが、葬儀をどこで行なったかを聞き込んでるはずなんでそれが出れば、何か見えてくるかとは思ってるところです。推測や荒唐無稽だと思った情報は以上です」

 前にのめっている結城の冷酒グラスをとって、そこに最後の冷酒を注ぎ入れる。そしてもう一本注文。

「まあ、やってるこたやってんだな」

「俺も仕事なんで…しかしこれは…あまり金にならないんすけどね」

 頭を掻いて違う意味で苦い顔をする。

「持ち出しが多すぎて、助手に睨まれてますよ」

 結城は一転同情の顔をして、注がれた冷酒をちびっと啜った。

「どこも大変だな」

「まま、そこは置いといてですね、今の情報はまだ誰にも言わんでください。出来るだけ自殺や事故は防いでゆきたいんで、その『塾』みたいなところに勘付かれるのはまだ早いんすよ」

「でも放っといたら、事故や自殺(そういうの)止まねえんじゃないのか」

20歳(はたち)前後の人探しを依頼されている探偵および興信所には深追いしないように言って回ってます。知り合いの知り合い経由でね」

 結城は思う。

 刑事という立場の自分は、動きたいときにあまり自由が効かない時がある。上の指示がどうの、単独行動がどうの、後輩への示しがどうのとこうるさく言われ、ぶっちゃければそれで犯人(ほし)を捕まえるのにえらく『時間の遠回り』をすることも稀ではない。

 探偵は自由だな。思った行動が瞬時に取れる。

 この件は聞く限り意外と大きくなって警察も動くことになるだろう。それまでこの男及び他の探偵や興信所に任せるしかないなと納得するしかなかった。

「篠田」

「はい」

 いつの間にか呼び捨てになっているが、それは気にならない。

「絶対調べ上げろよ。そして俺らの仕事にさせろ」

「勿論です。この犯人はどうあっても探し当てます」

 水色が綺麗な冷酒グラスを合わせて、二人は満たされた杯を飲み干した。


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