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自覚と違和感

賢也は賢也で、木下に対し訳のわからない違和感を感じ始めていた。

 その日賢也は、自宅ではなく実家の方へ向かった。

 母親の作るシチューを食べて、久しぶりに焼いたと言う手作りのパンを堪能し、ご機嫌でワインを傾ける。

「ご機嫌だな」

 父親で、蓮清堂会長である源蔵がやって来てテーブルについた。

「久しぶりに母さんの手料理食べたらね、気分良くなったよ。中村さんのお料理も美味しいんだけど、やっぱりどっか万人受けじゃん?」

 中村さんと言うのは、賢也のマンションに通っている家政婦さんだ。

 昼間のうちに掃除洗濯料理を済ませ、賢也が帰る頃には大抵いない。

「まあ、母親の料理に適うものはないからな。わしもやっと母さんの味になったよ。お前のおばあちゃんの味はなかなか消えんかった」

 そう言ってわははと笑う。

「父さんそれは母さんがかわいそうだよ。慣れるの遅過ぎ」

 ワインを注いでやって、末っ子ならではの言い返し。

「そうか?でも文句は言ったことないぞ?なあ、母さん」

「そうですね、でも残しましたけどね、最初の頃は」

 一緒にテーブルにつきパンをちぎって食べている母は、ツンと言った。

「ほら~」

 賢也が笑ってグラスを煽ると、罰が悪そうに源蔵もグラスを煽る。

「それで、どうしたんだ?急に来て」

 シチューを持って来てくれた住み込み家政婦の木村さんに礼を言って、源蔵はスプーンを入れながら賢也に目だけを向けた。

「ああ、うん…ちょっと父さんに見せて欲しいものがあってね。他の支店のここ1ヶ月くらいの契約書。あるんでしょ?」

 パンをちぎりながら源蔵は嬉しそうに破顔する。

「賢也…やる気を出してくれたのか??俺は嬉しいぞ」

 ほっとくと滝のような涙を流しそうだったので、

「そうじゃないんだけどね、気になることあってちょっと調べたいだけ」

「まあなんでもいい。会社のことを気にかけてくれるのは嬉しいぞ。いくらでも見せてやる」

 本来なら系列とはいえあまり他社の成績は見せないものだろうが、ここがこの親父の甘いところだ。そしてそれを見越して賢也はやってくる。

「兄さんたちの売り上げが気になるか?」

「そう言うんでもないんだよね。まあちょっと…」

 気を利かせて木村さんがチーズを持って来てくれて、それにお礼を言って胡桃入りのチーズを食べる。

「これ、俺好きなんだよ~木村さん覚えてたんだな」

 木村も長いこと勤めていて、末っ子が生まれた時には家族と共に喜んだ一人だ。 この人もまた賢也に甘い。

 賢也は甘やかされて育っていることを自覚していて、それをうまく使って生きている。

「じゃあ食べ終わったら見せるから、わしの部屋においで」

 久しぶりの末っ子に終始ニコニコしながら、源蔵はパンとシチューを口に運んでいた。


 大きなソファの応接セットに座り、賢也は源蔵が出してくれた各店の契約書をパソコンで眺めていた。

「ここ社長室と一緒じゃん」

 以前来た時と寸分も違わない室内は、家庭の書斎ではなく企業の社長室だ。  

「長年ああ言う部屋にいると、この方が落ち着くんだよ」

 隣のソファに座った源蔵は、一緒に契約書を眺めている。

「売り上げは、どこも結構一緒だが最近お前の所頑張ってるな」

 会長のパソコンデータには、各支店の売り上げが棒グラフで記されていて、どの支店がそれだけ売り上げているかが一目でわかるようになっていた。

「わかりやすいなこれ」

 賢也も感心するが、興味があるのはそこではない。

 各支店の契約書で、見ているのは亡くなった人の年齢だ。

 大体3区を跨いで支店が一個ある感じだから、賑やかなところや、裕福なところは売り上げが有利なのは確かだが、それを差し引いて用賀支店という割とこじんまりした自分の所が他と張り合えるほどの売り上げがあるのはびっくりだし、そして圧倒的に20(はたち)前後の式が多い。

 他の支店もちらほらいるが、いつもよりは若い子多いなくらいだろう。

 なんだろうこの違和感…大体なんで木下が裏でなんかしてると思うんだろう…疑問はそこへ立ち返る。

「ん~~~~~」

 ソファに寄りかかり、考えるがすぐに結果が出るものでもないだろう。

「今日はどうするんだ?泊まってくか?」

 もうワクワクして源蔵がそう尋ねると

「そうだな~久しぶりに来たし泊まってこうかな」

「じゃあ部屋を準備させよう!」

 すくっと立って、デスクに置かれたインターフォン電話をとり木村さんに賢也の部屋を準備するように告げる。

「じゃあとっておきの酒を出そう。飲むだろう?」

「サンキュー飲む飲む」

 パソコンを閉じて、ありがとね~と部屋を出る。

 リビングまで歩きながら

「まあ…じっくり行こうかな」

 と呟いて、リビングのドアを開けた。



 三鷹の駅前。(覚書 7月11日)

 少し歩いたところにある焼き鳥屋の前に雨の中、傘をさして時臣はいた。

 15分ほど前に、猪野充の件で世話になった一課の刑事が入って行ったのを確認して、中に入るタイミングを伺っているのである。

 その刑事に話をしにきたが、署に行こうとしたら丁度出てきたのでここまで追ってきた。

 聞き込みだったらすぐ出てくるだろうし、仕事帰りなら少し待って出てこなければ…と思って待っていたが15分も出てこなければ聞き込みでもなく、普通に飲みに来たんだろうなと傘を傘立てに刺して入り口を開けた。

「いらっしゃいませえええぃ」

 開店して30分ほどの割にはお客も多く、店員も元気がいい。

 店内を見回すと、二人が向かい合うには少し広いが4人は座れなそうな席に、三鷹署捜査一課の結城泰彦(ゆうきやすひこ)がいた。

 すでに中ジョッキは半分ほど空き、焼き鳥を持ってきた女性店員に指で1を示しているところを見ると、もう一杯注文したらしい。

 長居決定と見て時臣はその席、結城の前に腰を下ろした。

「先日はお世話になりました。奢らせてください」

 ニコニコ笑って座ってくる男を訝しげに見た結城は、それが半月ほど前に自殺した大学生の一件で在宅事件処分になっていた探偵だと認識した。

「おー、確か…」

「篠田です」

「そうだ、篠田さん。あの時は災難だったね」

 中ジョッキを持ってきたお姉さんに時臣はもう一杯ちょうだいと言ってタバコを取り出した。

「まあ、あの場面じゃ疑われても仕方ないっすよ。きちんと調べて貰えば潔白証明されますからね」

 咥えたタバコに火をつけて、後ろの棚にある灰皿を取り出した。

「あ、事後承諾ですがタバコいっすか」

「ああいいよ、俺も吸うし」

 よかった、と言って一本勧めると、片手拝みで一本を取り時臣は火を差し出す。

「で?今日はなに。俺を尾行して(尾けて)たのか?」

 煙を吐き出して、結城は口の端を上げた。

「いや、偶然ですよ。用があって三鷹きてたんすけど、駅に向かってたらお見かけしたんで。ここに入るのを見たらそれは追うでしょ。丁度飲みたかったし」

 ジョッキが届いてーじゃあ改めてーとジョッキを合わせ半分ほどを空ける。

「うまいなあ…このジメジメした時期にはこのスッキリ感堪らんですね」

 ジョッキを置いておしぼりで口元を拭った時臣は立て続けに一杯空けてしまった。

「おいおい、店員のお姉ちゃんに呆れられるぞ。この席だけ見てらんないって」

 結城はそう言って笑い、お姉さんを呼ぼうとしたら、お姉さんはすでに中ジョッキを持ってやって来ていた。

「できる姉ちゃんだね」

「この時期入って来たばかりの人は一杯すぐに空けるのはわかってますからね」

 そう言いながら空いたジョッキを下げて去っていく。

「どの世界にも有能な人材はいるっすね」

 時臣は新たにきたビールを今度は少しだけ飲んでジョッキをおいた。


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