第977話:ウ殿下を塔の村に
フイィィーンシュパパパッ。
「おっ、精霊使い君」
「おっはよー。あんたいつもここにいるねえ」
「休憩にちょうどいい場所なんだ」
「いつも休憩してるってことなんじゃない?」
大笑い。
リリーとウルピウス殿下を迎えに皇宮にやって来たのだ。
この土魔法使い近衛兵は給料分働いているのかなと、他人事ながら心配になってくるわ。
サボリ君と呼ぼうかしらん?
「今日はリリー連れて帰るんだ」
「ああ、聞いてる。ウルピウス殿下も同行するとか」
「そーなんだよ。物好きだよねえ。ドーラなんて帝都に比べりゃ何にもないのに」
「何もないってことはないだろう?」
「うーん、ドーラで身近なもので帝都で見かけないっていうと、やっぱ魔物とか武器とか冒険者とか、そーゆー殺伐としたものになっちゃう」
この前帝都メルエルを歩いてわかった。
ドーラはまだまだこれからの国だ。
「ドーラの生の生活というか、空気を感じたいんじゃないか? ウルピウス殿下も魔物は飼われてるやつしか見たことがないだろうから」
「そお? やっぱ見栄えのする魔物を見せてやるのがいいか」
「ドーラで見栄えのする魔物っていうと例えば何なんだい?」
「ドラゴンとか」
「えっ……」
絶句すんな。
ドラゴンを倒すアトラクションは評判いいわ。
「じゃねー」
「あっ、詰め所まで送らせてくれ」
「何なん。仕事やってるアピール?」
「大正解だ」
アハハと笑いながら近衛兵詰め所へ。
「こんにちはー」
「「ユーラシア!」」
「おおう、声が揃うねえ。さすが兄妹」
ウルピウス殿下とリリー、黒服が既に待ち構えていた。
「まだ九時前じゃん。よく起きられたねえ」
「母様は朝早いのだ」
「なるほど」
つまり皇妃様とリリーは同室で寝たのか。
黒服はそれを見越していたから九時でオーケー出したんだな?
できる従者だなあ。
「じゃ、行こうか。殿下、帰りは夜になるよ」
「待ってくれ」
ん? ウ殿下何?
「母上のことなど大変世話になっておるから、礼がしたいのだ。欲しいものはないか?」
「たまたまだったんだから別にいいのに。どーしてもくれたいならもちろんもらうけど」
笑い。
でも欲しいものって言われてもな?
一番欲しいのは人脈だけど、誰を紹介って具体的に考えると難しいし。
「あっ、木が欲しい!」
「「「木?」」」
意外だったか。
とゆーか木が欲しいだけじゃわからんだろうな。
説明する。
「ドーラは移民の国でしょ? 作物は帝国から移入してるものがたくさんあるんだけど、木を持ってくるのはなかなか大変みたいでさ。果物とかナッツの類がすごく少ないんだよ」
「我もそれは感じたな。かろうじて柑橘とクリ、クルミくらいしかないのではないか」
「ふうむ、聞かなければわからないものだな」
「帝国のいい品種があったら欲しいな」
「果物とナッツだな? 造作もない。ヴォルフ、三日後貴公らがドーラへ赴く際には持たせられるよう、手配しておけ」
「はっ!」
「やたっ! 嬉しいなあ。殿下ありがとう!」
「ハハッ、惚れてもよいのだぞ?」
「一旦保留かなー」
アハハと笑い合う。
やったぜ、ドーラのフルーツ不足が少し解消されるぞー!
リリーが疑問に思ったようだ。
「小兄様。やけにユーラシアと親しいではないか」
「うむ、三日前に婚姻を申し込んだのだ」
「「えっ?」」
あ、近衛兵諸君は聞いてるらしいな。
ビックリしないでやんの。
「小兄様。ユーラシアを自分の思うさまあしらえると考えるのは誤りだぞ? 究極の自由人だからの」
「そうです。危険物を扱うには資格が、猛獣を扱うには覚悟が必要です!」
「ひどいなー。ちょっとはあたしの方を心配しなよ」
黒服はあたしのことを危険物とか猛獣とかって思ってたのか。
「まあよいではないか。先の楽しみだ」
「ユーラシアは兄様をどう思っているのだ?」
「どうって、経験積んでいい男になったら惚れちゃうかもなーって」
「具体的にどれくらいだ?」
「えーと、プリンスよりいい男になったら」
「プリンス?」
あ、ウ殿下には通じないか。
「ルキウス兄様のことだ。ルキウス兄様はドーラへ来て一皮向け、大層頼もしい男になったのだぞ」
「風格があるよねえ」
「ふうむ? ルキウス兄上が誰にでも当たりが柔らかい、いい人だとは知っているが……」
ふんふん、ウ殿下はやっぱりプリンスルキウスとギスギスした関係ではないようだな。
好都合だ。
今日多分、移民を見に行く時に港で会うよ。
レベルアップ『威厳』効果に驚いてください。
「さ、ドーラへ行くよー」
転移の玉を起動しホームへ飛ぶ。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
塔の村へやって来た。
「兄様、ここが我の住む塔の村だぞ」
「ドーラのノーマル人居住域では最西端に当たる場所なんだ」
「冒険者でごった返す光景は、帝国本土では見られんな」
ドーラでも冒険者ばかり集まってる村はここだけだろう。
カトマスは冒険者よりも商人みたいな人が多いから。
「この塔は『永久鉱山』っていう、変わった特性があるんだよ」
「『永久鉱山』?」
「うむ、魔力の条件が特殊での。いくら素材を採取しようが魔物を狩ろうが、なくならないのだ」
「有用だな。採取して売るだけで産業が成り立つではないか」
「実際には魔物も湧いちゃう。狩り尽すこともできないから、そう簡単ではないんだ。危険は危険」
えーと輝く頭がないな?
「村長がいませんね?」
「殿下を紹介したかったんだけど」
デス爺どこかへ出かけてるのか。
まあしょうがない。
「ユーラシア、パワーカード屋に案内してくれ」
「あ、パワーカードはドーラ名物かもしれないね」
「我は自分のカードを買いたいだけだぞ」
まったくリリーはマイペースだな。
ウ殿下が聞いてくる。
「パワーカードとは何だ?」
「こういうものだよ」
『アンリミテッド』を起動して見せる。
「ああ、武器を装備していたのか。魔力を流し込んで具現化している?」
「おお、殿下やるね。見ただけでわかるんだ?」
「『光る石』のような理屈のものだな?」
「うん。何か帝国では一般人が武器持ってちゃいけないみたいだけどごめんよ。ドーラ人には馴染まない感覚なんだよね」
一応言い訳しといたわ。
どーもパワーカード持ってないのは落ち着かないから。
「どうでもよいことではないか。カード屋へ行こうぞ」
「こっちだよ」
入り組んだ路地を抜けてカード屋へ。




