第953話:事件は起きる
――――――――――一七四日目。
事件は起きる。
そして運命の歯車が回り始める。
◇
「じゃ、行ってくるね。あんまり遅くなんないつもりだけどわかんない。適当に過ごしてて」
「姐御、大丈夫でやすぜ」
「モーマンタイね」
「行ってらっしゃい」
うんうん。
最近、あたしの単独行動が多くなってるから、うちの子達の過ごし方も慣れたもんだ。
一九番目の転送魔法陣の上に立つ。
『カル帝国皇宮に転送いたします。よろしいですか?』
「うん、遊びに行くんだ。よろしくお願い」
フイィィーンシュパパパッ。
「やっぱこっちは寒いなあ」
「あっ、精霊使い君!」
「遊びに来たんだ。またお肉持ってきたから皆で食べようよ」
「それどころじゃないんだ!」
『土魔法』持ちの近衛兵だ。
慌ててるけどどーした?
「ははーん、さてはまたサボってたんだね? でもあたしはあんたの雇い主じゃないから平気だぞ? 雇い主にこっそり告げ口することはできるけど」
「違うんだ!」
あたしの軽いジョークにも顔色が変わらんな。
とゆーか最初から顔色が変わっとるな。
「何事?」
「精霊使いが来たらすぐ連れてこいって言われてるんだ!」
「いやだから何事?」
「皇妃様が倒れたんだ! どうやら呪いのようだと」
「マジか」
呪いで即あたし呼んでこいってことだと、この前来た時の呪術師の件と関わりがあると見てるのか。
どうやらリモネスさんの差し金らしいな。
「君、呪いを何とかできるのか?」
「あたし自身がどーにかできるわけじゃないけど、手段がないわけではないな。ちなみに皇妃様倒れて何日目?」
「三日目だ、うなされ続けていて、大変苦しそうだと聞いた」
「ヤバいじゃん!」
以前あたしがかけられたバアルの呪いは、発狂して三日間もがき苦しんで死ぬと言っていた。
同じ呪術かわからんけど、人を殺せるほどの呪いにそうバリエーションがあるとも思えん。
「すぐ来てくれ!」
「ちょっと待った! 世界一のヒーラー連れてくる!」
◇
「お待たせっ!」
「おお、精霊使い殿! こちらの部屋へ」
クララを連れてすぐ取って返した。
皇宮の中、深くにある豪華な部屋へ案内される。
侍女全員で押さえつけている、あれがカレンシー皇妃、リリーの母ちゃんか。
すごい唸り声出してる。
……何となくだが、あたしの食らった呪いと同じものと見た。
発狂するって洒落でも大げさでもないんだな。
「クララ、『キュア』お願い」
「えっ、『キュア』?」
侍医らしきおっちゃんがビックリしてるけど。
「治癒魔法なんて効くはずがないと言いたいんだろうけど、時間ないからあとにしてくれる?」
「キュア!」
……あたしが食らった呪いよりは弱いな。
『キュア』一発で影響はなくなった。
「皇妃様の力が抜けて、顔が穏やかに!」
「よ、よかった!」
侍医が聞いてくる。
「い、いかなる理由で治癒魔法が呪いに有効なのです?」
「うちのクララの『キュア』は、状態異常なら大体何にでも効くんだよ。ハイレベルだからか精霊だからかはわかんないけど」
「せ、精霊?」
帝国の人はあんまり精霊に馴染みがないみたいだな。
あれ? でもリリーは初めて会った時、一発で精霊って気付いたか。
「あばら骨が折れてるね。と、打撲が無数。治しとくよ。クララ」
「はい。ハイヒール!」
「うん、問題なし」
「……脈拍も落ち着いてきました。もう大丈夫です。危機は去った」
侍女達が抱き合って喜ぶ。
皇妃様寝てるから静かにね。
「侍医さん。これあげるから、皇妃様起きたら食べさせてあげてよ」
「これは? 大きな卵ですな」
「ドーラ名物ワイバーンの卵だよ。すっごくおいしいの」
「おお、最高の滋養効果があると聞きますな!」
滋養効果については知らんかったけど。
侍女頭らしき人が話しかけてくる。
「あ、あの。ありがとうございました。あなた様は?」
「あたしはドーラの精霊使いユーラシアだよ」
「ドーラ? とは海の向こうの?」
「そうそう。ごめんね、今急ぎだから、それ以上のことはリモネスのおっちゃんか近衛兵長さんに聞いて。ヴィルカモン!」
「今のは何ですか?」
「悪魔召喚の呪文だよ」
「「悪魔?」」
侍医と侍女頭が首を傾げてる内に幼女悪魔が現れる。
「御主人に呼ばれてヴィル登場ぬ! えっ? 負力が気持ち悪いぬ!」
「よーし、ヴィルいい子! でも寝てる人いるから静かにね」
「わかったぬ」
「侍医さんと侍女頭さん、ちょっと来てくれる?」
侍医と侍女頭、クララ、ヴィルを伴って部屋の外へ。
「精霊使い殿のおかげで、皇妃様は平静を取り戻しました。多少衰弱してはおられますが、静養すれば問題はないでしょう」
「そうか!」
喜ぶ部屋の外の面々。
リモネスさんと近衛兵と、宮廷魔道士っぽい老人と貴公子?
「宮廷魔道士長のドルゴスとリリー皇女のすぐ上の兄君、ウルピウス殿下ですぞ」
「おおう、皇子様だったのか。ユーラシアだよ、よろしく」
リリーの同母兄か。
潜入工作隊長メキスさんの話ではリリーの同母兄は二人いて、ともに優秀だって話だったな。
握手。
でも皆ヴィルの方に意識が行ってますね?
「この子はうちの悪魔だよ。好感情の好きないい悪魔だから心配はいらない」
「よろしくお願いしますぬ!」
近衛兵長さんが言う。
「して、悪魔は何のために?」
「犯人とっ捕まえよう」
「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」
ビックリすることはないんじゃないかな?
殿下が言う。
「可能ならそれに越したことはないが……」
「多分可能だよ。ヴィル、この呪いの負力、どっちから来てるかわかる?」
「わかるぬ。あっちだぬ!」
窓の外を指差す。
塔の上層階?
「うむ、間違いない」
ドルゴス魔道士長が頷く。
さすが宮廷魔道士長ともなるとわかるんだな。
「ヴィル、様子見てきてくれる?」
「わかったぬ!」
ヴィルの姿が掻き消えるとともに兄殿下が言う。
「犯人の身柄を押さえてしまえということだな? しかし難しくないか?」
「難しくはないと思うよ」
「決定的な証拠を隠されたりしたら罪に問えぬ」
「ふーん、ちゃんとした法律のある国は大変だね」
こんなこと言うとドーラにちゃんとした法律がないみたいだけど。
人を見りゃあっこいつ犯人だってピンと来るから、今までやったやってない系の事件で証拠がどうこうって気にしたことなかったわ。
『御主人、聞こえるかぬ?』
赤プレートに連絡が入る。




