第900話:赤の民は皆性急
「ふうん、ここがユーラシアの家か。カラーズの南に当たるんだろう?」
「灰の民の村から南に二〇分くらい歩いたところだね。もっと南へ行くと海岸になってるよ」
「いいところですね」
「……」
ハオラン何とか言えよ。
赤眼族の集落から帰宅後、レイカ、ジン、ハオランを連れてきた。
赤の民族長のカグツチさんに、遠く離れた塔の村で活躍している娘のレイカを会わせるためだ。
娘は立派に成長していますよ。
おっぱい周りがきつそうになってます。
「じゃ、行こうか」
灰の民の村へ出発。
「ここに魔境のクレソンを植えてるんだ。時々見てたら冬でも増えるって気付いたの」
灰の民の村へ行く途中、湧き水のところだ。
塔の村の冒険者であるレイカパーティーが興味のあるものじゃないかもしれないが。
いや、食べ物には興味あるかな?
「かなり青々してますね」
「でしょ? 結構バカにならないおいしさだよ。有用だからあちこちに植えてるんだ。塔の村の水場にも移植してあるから、初夏以降には食堂で出ると思うよ」
「サラダになるのか?」
「なるね。生でも炒め物でもスープでも、幅広く御賞味あれって感じ」
ジンとハオランが葉を摘まんで口にする。
「あ、微妙な辛みがあってイケますね」
「……」
ハオラン何とか言えよ。
さらに道なりに北へ。
灰の民の村に到着。
「こんにちはー、お土産だよ」
「ああ、いらっしゃい。いつもありがとうな」
「灰の民のサイナス族長ね。こっちからレイカ、ジン、ハオランだよ」
握手は友愛の印、なんてね。
「さあ、行こうか」
「あっ、サイナスさんも行くの?」
「ショップまでだよ。売り上げを確認しに」
緩衝地帯へ。
「本当だ。こんなに賑わっているのだな」
「……」
レイカが感嘆の声を漏らす。
レイカがカラーズを去ったのは掃討戦の直後、また緩衝地帯を使って各色の村が物を融通し合ったりしていなかった時期だった。
緩衝地帯なんて、草ボーボーで何もなかったわ。
そしてハオランも黄の民の村にいた頃の記憶があるようだ。
緩衝地帯の交易の賑わいには驚いているようだが、特に何も言わない。
無口に磨きがかかってない?
「レイカの知ってる昔とは全然違うでしょ? 少なくとも商売に関しては、各村に垣根はなくなったよ」
「昔から父さんも、村の発展のためにどうにか交易したいと言っていたんだ。喜んでいると思う」
「赤の民の商売は順調だよ。でもあんたの父ちゃんはグイグイ行っちゃう人だから、ブレーキかけるの大変だったんだぞ?」
「ハハハ、すまなかったな」
「じゃあ、オレはここまでで」
「サイナスさん、じゃーねー」
チラチラと他のショップも見ながら赤の民の村へゴー。
他色の民もそれぞれ特徴的なもの売ってるよ。
特にジンは興味あるみたいだね。
カグツチさんに挨拶をすませたら戻ってこようか。
炎をモチーフとした門が見えてくる。
「なるほど、赤の民っぽいですね」
「赤の民は鍛冶や陶器など、火を使う細工が得意だからな」
「灰の民以外、どこの村も門が格好いいんだよね」
「……」
「ハオランは無口だなー」
「個性の内だ」
「時々息してるか不安になるよ」
アハハと笑いながら進む。
あっ、しめた!
「ああ、ビルカじゃないか」
「あっ、レイカさん! お久しぶりです」
「ビルカも結構なレベルでしょ? ビルカは『鑑定』の固有能力持ちで、今は輸送隊員の一人としても活躍してもらってるんだ」
ジンとハオランが頷く。
「レイカさんは西の方で冒険者をしていると噂に聞きましたが」
「うむ」
「何でレイカの発言はぶつ切りなんだよ。西域の街道の果てに塔の村ってとこがあってさ。塔のダンジョンは素材回収してきたり、魔物肉を取ってきたりすることで、冒険者として身を立てやすい場所なんだ。こっちの二人の子はレイカとパーティー組んでるんだよ」
「そうでしたか。どちらかがレイカさんのお婿さんになるんですか?」
「おお、意外とビルカはズバッと来るなあ」
嫌いじゃないよ、ラブい詮索はニヤニヤ。
レイカパーティーの面々が苦笑してるじゃないか。
ただここのパーティーには、意外なほどラブい気配がないんだよな?
ジンもハオランもムチムチばいんばいんは好みじゃないのかしらん?
「ところでビルカ、一つ頼みがあるんだ」
「何でしょう?」
「帝国行かない?」
「は?」
あまりにもいきなりだったか。
面食らっちゃうかもね。
今のはあたしも意表を突く効果を優先し過ぎてしまった。
「あたしのクエストで、カル帝国の皇宮に行けるようになったんだ」
「えっ? 皇宮って皇帝陛下とかがお住まいになっている宮殿のことですよね?」
「そうそう、でっかい宮殿。皇帝陛下には会ったことないけど」
「面白そうですねっ!」
乗ってきたぞ?
「向こうで近衛兵長さんと仲良くなってさ。でも帝国ってあんまり固有能力が重視されてないらしいんだ。鑑定士も貴族くらいしか見ないから、料金がバカ高いんだって。兵隊さんが自分の能力把握してないって、ちょっと問題あるでしょ? だからビルカに見て欲しいの」
「あ、そういう件でしたか。もちろん構いませんよ」
「やたっ! 鑑定士ビルカ世界を股にかけて活躍するの巻だ!」
「あはは!」
「いつなら大丈夫かな?」
「輸送隊のお仕事がない日ならいつでも。早い方がいいですね」
赤の民は皆性急なのかな?
おっとりタイプだと思ってたビルカがこうだもんな。
「明日どうだろう?」
「全然問題ないです」
「じゃ、明日の朝九時頃、転移石碑の近くにいてよ。迎えに行くから」
「わかりました。帝国に行けるなんて、とても楽しみです」
「じゃねー」
よーし、バッチリビルカの約束も取りつけることができたし。
赤の民族長宅へゴー。
「ここが私の家だ」
「大きいお宅ですね」
「……」
何かハオランの無言って風情があるなあ。
一種の芸に思えてきたわ。
「ただいま」
カグツチ族長が出迎えてくれる。
「レイカか。お帰り。精霊使い殿、連れてきていただいてすまなかったな。で、そちらの二人が?」
「私のパーティーのメンバー、ジンとハオランだ。ともに塔を探索している」
「ふむ、レイカとともに人生を歩むのはどちらだ?」
「おお、カグツチさんもやるなあ」
笑い。
じゃあ久しぶりの親娘二人でごゆっくり。
あたし達は退散して、緩衝地帯に行ってまーす。
あとで迎えに来るからね。




