第898話:さすがあたしの弟分
「サイナスさん、こんばんはー」
就寝前に毎晩恒例のヴィル通信だ。
今日は昼イシュトバーンさん家でごちそーになって、夜は塔の村でたらふくワイバーンの卵だった。
イコール眠い。
『ああ、こんばんは』
「眠いなー」
『知ってる』
読まれてたぞ?
『君が眠いのはいつもだろう?』
「今日は昼も夜もごちそーだったんだよ。高い精神的満足度と胃袋的満足度は美少女を安らかな眠りに誘うとゆーか」
『君満足してない時なんかないじゃないか』
「あれ? サイナスさん頭いい」
だからあたしは夜いつも眠いのか。
謎の一端が解明された気分。
『ユーラシアの話は毎晩楽しみなんだ』
「そーだったかー。じゃ、睡魔に負ける前に何とか」
『ん? 睡魔は敵なのかい?』
「睡眠は味方だけどね」
『ちょっと何言ってるかわからない』
寝る前の軽いジョークだよ。
『トラブルに誘われるんだろう? 新人冒険者のトラブルがっていう引きが昨日あったけど』
「トラブルの引きってゆー理解だったのか。いや、トラブルってほどでもなかったんだけど、ペペさん関係だったんだ」
『ペペさんというと、ドーラ有数の大魔道士の?』
「そうそう。例の超すごいお茶を淹れるための水魔法を作ってくれって頼んであったんだけどさ。でき上がった水魔法に帝国から大量に注文が入ったんだよ」
『ほう? ドーラにとっては外貨獲得のチャンスじゃないか。茶以外の用途でということなんだろう?』
「うん。辺境開拓や軍務、航海に必須、旱魃にも有効だろうって、プリンスルキウスが貿易商に話したら、我も我もってことみたい」
『皇子商売上手だな。貿易商には評価が高い?』
「みたいだね」
帝国本土でプリンスの活躍は知られてなくても、商人さん達には支持されてるということか。
それとも行政府の方で、全面協力の姿勢を見せてるからかな?
何でもいいからドーラの品を買ってください。
「注文がたくさん入ったのはありがたいことなんだけれども、スキルスクロールの生産量の方に問題が」
『生産量?』
「ペペさん一人だと月一〇〇本も作れないってことなんだ」
『ああ、スキルスクロールは通常多くの需要があるものではないからな』
「今までは需要がなかったかもしれんけど、現にたくさん引き合いが来てるじゃん。今後は誰もが使えるような日常魔法を色々作ってもらって輸出したいんだよね」
『要するに、新人がペペさんを手伝うというクエストか』
正解です。
「でもペペさんの才能は、クリエイティブな方向で使ってもらわなきゃ世界の損失じゃん? 単純作業で潰れるのはムダなんだよ。新人が一ヶ月も拘束されちゃうってのもつまらんけど」
『ユーラシアの言いたいことはわかるが、解決策がないだろう? 誰もスキルスクロールの大量生産のノウハウなんか持ってないんだから』
「外注に出したんだ」
『外注? どこへ?』
「『アトラスの冒険者』を運営してる異世界へ」
しばしの沈黙。
眠くなっちゃうんだけど。
『……異世界とこっちの世界の関係って、微妙な問題なんだろう?』
「微妙だね。でも向こうだって注文受けて儲かるじゃん。向こうの世界はこっちの世界との間に壁作っときたい建て前のようではあるよ? でもあたしにはそんなの関係ないし、間に入ってくれてる係員も仲介手数料でボーナスだーって喜んでるし、別にいいんじゃないかな」
『君のラッシュは相手が誰であろうと関係ないんだな?』
「知ったこっちゃないねえ。異世界の文化が進んでることは確かだけど、ペペさんの作った水魔法は向こうでも欲しいみたいだよ。取り引きはできると思う」
文化の進んだ異世界でも、スキルの実用化ってかなり大変なことなんだという気がする。
仲良くすればウィンウィンだぞ?
「で、水魔法外注はひとまず置いといて。スキルスクロールの大量生産ってできないのかなーと思ったんだ。いつまでも異世界に下請けに出すくらいなら、こっちの世界で全部やりたいじゃん?」
いつ異世界がこっちとの取り引きを問題視して、注文を受けてくれなくなるかもわからんしな。
プリンスが万単位って言ってたから、帝国からの注文は長きに渡ってありそうだし、ドーラで内製できるのがベストだ。
『考えたことなかったな』
「スクロールに用いる紙が特殊らしいんだ。でもそこが解決できれば、スキルの術式書き込みは印刷でも良さそうだし、魔道士が関わるのは最後に封じるところだけでいいみたい」
封じるところも、ペペさんほどの魔道士が必要とはとても思えない。
いくらでも人員の調達は可能だろう。
『となるとネックは紙か』
「うん」
『質が問題なのだろう。理屈からすると、魔力緩衝量が多い紙が必要とされる気がするな。折れた世界樹を使えれば……』
「なるほどっ!」
ペペさんが魔境に住んでるのは、世界樹が簡単に手に入るからという側面があるのかもしれないな。
『デスさんやアレクに相談してみるといい』
「アレクも詳しいのかな?」
『もちろんスキルスクロールを作った経験はないだろうけど、基礎理論はデスさんより詳しいかもしれないよ』
「マジか。さすがあたしの弟分だけのことはあるな」
クララよ、頷くのか笑うのかどっちかにしなさい。
それにしてもアレクはすげーな。
ぜひ、こき使わないと。
「塔の村へも行ってきたんだ」
『『光る石』スタンドの件でか?』
「うん、あとレイカとカグツチさんの件で。明日会わせることになったから、レイカのパーティー三人連れてカラーズへ行くね」
『ん? パーティー皆で来るのかい?』
「一人は元々黄の民なんだ。もう一人はヘリオスさんの息子なの」
『ヘリオスって紙商の? そんな繋がりがあるのか』
「ヘリオスさんの息子さんとは、ヨハンさんやヘリオスさんより前に知り合ってたんだよ。実家がレイノスで商売やってることは聞いてたから、役に立ってくれるといいなーとは思ってたの」
『伏線の張り方がえぐい』
伏線ゆーな。
たまたまだとゆーのに。
「カラーズでは他にも用があるんだ。醤油買ったり、赤の民ビルカとアポ取ったり」
『ハハハ、忙しいな』
ビルカは輸送隊で出てなければだが。
「じゃ、サイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『了解だぬ!』
明日は塔の村か。
いや、その前に……。




