第896話:塔最上階の悪魔
フイィィーンシュパパパッ。
うちの子達とともに塔の村にやって来た。
「ちょっと時間が早かったかな?」
「早過ぎはしないでやすぜ。食堂で席取っておきやしょう」
「取っておくんだぬ!」
「そーだね」
塔の村も冒険者が徐々に多くなっている。
初級者の訓練の場としてちょうどいい、とりあえず食いっぱぐれることがないというのが広まってきたのかもしれないな。
ただ冒険者としての修行という意味では、ダンジョンだけとゆーのも片手落ちな気がする。
フィールドとは注意することが違うから。
でもレベル上げや素材回収で経済を回す面では非常に重要なのだ。
食堂へ入る。
「ユーラシア!」
「エルはもう戻ってたのか。話があるんだけど待っててくれる? ワイバーンの卵持ってきたの」
卵を食堂のマスターに渡したあと、エルのパーティーの前に碑文の写しの翻訳を出す。
「これってエルの世界の文字なんでしょ?」
「……ああ、見たことはある。古い時代の飾り文字のようだ。ボクじゃ読めないが」
「この写しと翻訳はコケシにあげるよ。研究に役立てて」
「ありがとうございます!」
「あれ? 他人を陥れるとき以外でコケシが喜ぶなんて珍しいな」
「そんなことはありませんよ」
あるわ。
詰草の精霊コケシは古い文字の研究が好きで、クララによるとその知識はデス爺以上だという。
「たまに見かける文字なんです」
「へー、どこで?」
「この塔周辺でですよ」
塔のダンジョンは『永久鉱山』だもんな。
エルの世界の探検隊だか調査隊だかが調べてったなんてことは、十分にあり得ることだった。
「最も大きい断片でも単語数語が書かれているんだろうな、くらいのものしかなくて。とっかかりがないので解読できなかったんです。個々の単語の意味がいくつか見当つくくらいで。エル様の世界の文字とは知りませんでした」
「コケシの純粋な笑顔って初めて見た気がする。あんたはもっと邪悪でいいのに」
「何てこと言うんですか!」
アハハと笑い合う。
「ところでどうしてこれがボクの世界の文字だとわかったんだい?」
「話せば長くなるんだけどさ」
内緒話モード発動。
奇妙なクエストの碑文、碧長石と赤眼族の繋がり、危険を意味するマークで鎌をかけたこと。
「なるほど、赤眼族というのは? 今の話に無関係な気がするんだが」
「ドーラの先住亜人の一つです」
「と、されているんだけど、どうやらエルの世界からの移住者みたいなんだよね」
「「えっ?」」
エルとコケシが驚く。
「……気付いていたから鎌をかけたってことなのか」
「まあ」
『アトラスの冒険者』の存在意義に関する仮説には触れなくていいだろ。
クララが言う。
「クエストで見つけた、同じ文字の書かれた石があるの。コケシなら読めるかと思ったのだけれど」
「私のハートに刺さりますね。資料が増えましたので、ある程度の意味は取れるようになると思います。いずれクエストで見つけたという石も見せてもらいたいですが」
「じゃ、いつかコケシに見てもらおう。今度案内するよ」
「本当ですか!」
コケシは喜んでるけど、エル、チャグ、ちょんまげのハートには刺さってないようですね。
まあ急ぎではないし、コケシの解読研究の結果次第だから先の話になるか。
内緒話モード解除。
「今日は謎文字の目的でこちらへ来たのかい?」
「目的の一つではあるね。第一の目的はエルの顔が見たかったからだぞ?」
もーすぐ泣きそうになるんだから。
エルはおセンチだなあ。
「リリーやレイカにも言っとかなきゃいけないことがあるんだよ。そろそろ塔から戻ってくる時間かな?」
「あ、来たぞ?」
「ナイスタイミング! 卵焼きも来たっ!」
◇
「ワイバーンの卵は最高だな!」
「我もそう思う」
「そう思うぬ!」
レイカとリリーが御機嫌、ついでにヴィルも御機嫌だ。
よしよし、いい子。
「こっちの塔、地下があるんだって? この前聞いたよ」
あれ、何なの?
どよーんとなるような話題なの?
レイカが言う。
「最上階が解放されれば、な」
「難しい条件なんだ?」
「悪魔が陣取ってる」
また悪魔?
最近悪魔と縁があるな。
悪魔のことは悪魔に聞けがセオリーだろう。
「じゃーん、大悪魔登場!」
ナップザックからバアルの籠を取り出す。
「吾がバアルである! 鮮明に記憶せよ!」
皆の顔がさらに微妙になる。
何なんだよ、バアル面白い子だぞ?
「塔のてっぺんにいるのはザガムムだぬよ?」
「偵察のヒカリとスネルもそう言っていた」
「ザガムムか。魔王配下の高位魔族である」
「魔王配下の子か。何でここの塔にいるのかな?」
魔王が『永久鉱山』に目をつけたのか?
もう一つピンと来ない理由だけれども。
「どんな子?」
「ひどいやつぬよ?」
「うむ、残忍で強欲、ある意味悪魔らしい悪魔と言えるである」
ふーん。
「可愛い子?」
「ウシだぬ」
「ウシである」
「ウシかー」
エルが怒ってるのか笑ってるのかわからないような表情で言う。
「何なんだ、君達の会話は」
「悪魔ってヴィルだけが特別可愛いのかなと思ってたんだよ。そしたらバアルも可愛いじゃん? 強大な魔力をコンパクトな身体に凝縮することができてこそ、最高位の魔族の証って言ってたんだ」
「……つまり?」
「ザガムムという悪魔だってコンパクトってことだよ。会ってみたいじゃん? キャラ立ってる子だったら、とっ捕まえて飼ってもいいし」
「相変わらずユーラシアの考え方はおかしい」
「『おかしい』のとこ、『素敵だ』とか『気品がある』とかに置き換えてくれない?」
「吾が主は大概おかしいのである」
「素敵だぬ!」
大笑い。
リリーが聞く。
「ザガムムという悪魔は強いのかの?」
「まあまあだぬ。でも御主人の敵ではないぬ」
「レベル的にはさようであるな。しかし高位魔族は例外なく複数の固有能力持ちである。ザガムムが『闇魔法』以外にどんな能力を持っているかは、おそらく本人と魔王以外に知る者はおらぬ。油断は禁物である」
参考になる意見だなあ。
皆が大きく頷いてら。
ヴィルがまあまあっていうからには、最低レベル五〇くらいはありそう。
塔の村の冒険者が相手するにはちとキツい。
「高位魔族って皆複数の固有能力持ちなのか。ますます面白いなあ。バアルの固有能力って『闇魔法』と『抑圧者』と各種耐性?」
「そうである」
バアルが強いわけだ。




