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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第894話:異世界について軽く話しておく

「ごちそーさまっ! もー入んない!」

「私も入んない!」

「私も入んないですっ!」

「入んないないないぬ!」


 アハハと笑い合う、イシュトバーンさん家での食事の後。

 ペペさんが入んないって言うともう絶対入らないな。

 お腹ぽんぽんでひっくり返ってるもん。

 そしてヴィルが面白い。

 ぎゅっとしたろ。


「あんたの交渉はえらく早くまとまるのな」

「相手もまとめた方が得な交渉だからだよ」

「助かったヨゥ」


 無論チュートリアルルームでの水魔法『アクアクリエイト』のスキルスクロール外注の交渉のことだ。

 帝国からの注文を全部こなして、ペペさん及びジーク君とレノアの手を煩わせないようにできたから、まず成功と言っていい。


「いいんだよ。もう新しい『地図の石板』来てた?」

「ああ。『ドリフターズギルド』のやつだヨゥ」

「よーし、計算通りだな。ギルドへ行ったら、ポロックさんの説明をよく聞いてね。夕方以降にギルドの食堂へ行くと、大体マウさんっていう最年長の上級冒険者がいるよ。その人に指導してもらいなさい。もうマウさんにはあんた達のこと話してあるからね」

「わかったヨゥ。ありがとヨゥ」

「いつ頃ドラゴン倒せるようになりますかねっ?」

「急ぎ過ぎだろ。ジーク君、レノアの管理はよほど気をつけてないと自滅するぞ?」

「合点承知だヨゥ」


 教育係のマウ爺が手綱引くだろうけどな。

 マウ爺に任せておけばまず大丈夫だろ。

 言うこと聞かなきゃっていう貫禄があるし。


「レノアはドラゴンが好きだなあ。ペペさんに吹き飛ばすところを見せてもらえばいいじゃん」

「よろしくお願いできますかっ?」

「いいわよ。でも今はお腹が重くて起き上がれないから、明日でいい?」

「すげーペペさんらしいセリフだった」


 笑い。


「イシュトバーンさん、今日静かだったじゃん」

「どこに口を挟む余地があったんだよ。まあこれで帝国もあの水魔法を欲しいだけ輸入できる、ドーラの儲けも最大限になる、か」

「最大限ではないなー。不満があるよ」

「ドーラの生産力にか」

「うん。スキルスクロールを作る仕事を、あっちの世界に持っていかれちゃってるじゃん。ドーラでできるようにしなきゃダメだなー」


 仕方なかったと言え、儲けの大きい部分を外注せざるを得なかった。

 異世界がいつまで外注を受けてくれるかわからんということもある。

 労働力はあるのだ。

 ドーラで大量生産できんものか。


 ペペさんが言う。


「紙が特殊なのよ。空のスクロールがあるなら、あとは術式を書き込んで封じるだけなの」

「そーなん? 術式も合ってさえいればペペさんじゃなくてもいいんでしょ? じゃあ紙を外注に出して術式を正確に書ける人雇えば、ペペさんがやること確認して封じるだけじゃん」

「あっ、そうね!」

「ってゆーか術式書かれた金属版があれば刷るだけでいいから、術式書き込む手間もいらないな」


 どうしてバエちゃんの世界でスキルスクロールを量産できるのかって考えてくと、簡略化できる過程があるからに決まってる。

 だって向こうの世界にだって、ペペさんほど高レベルの魔道士がいるはずはないから。

 こっちの世界でも量産できるように考えよう。

 どんな紙ならスクロールに向いてるのか、デス爺かペペさんに聞きながら検討すりゃいいな。


「ドーラには足んないものがたくさんあるなー」

「わからないことがあるヨゥ。チュートリアルルームはドーラじゃないのかヨゥ?」


 ジーク君は気付いたか。

 スキルスクロールの大量生産なんて、帝国でもできないことだろうからな。

 そもそも今回の水魔法便利だから普及させようみたいな動機がなければ、必要性を感じられない。


「これ内緒だぞ? 『アトラスの冒険者』はこっちの世界の事業じゃないの」

「こっちの世界とはどういうことですかねっ?」

「ドーラやカル帝国のある世界とは亜空間で隔たれた、別の実空間にある世界ってこと」

「「えっ?」」


 驚くジーク君とレノア。

 ペペさんは気付いてたっぽいな。


「……進んだ技術過ぎておかしいとは思ってたヨゥ」

「私はドラゴンをポコポコ倒せちゃう国だから、あり得ることなのかと思ってましたっ」


 ペペさんが聞いてくる。


「異世界ということは秘密じゃないの? ユーラシアちゃんもチュートリアルルームの人も、今日当たり前みたいに交渉してたけど?」

「秘密らしいけど、法律で縛られてるわけじゃないみたいだよ。あ、ギルドの正職員は守秘義務があるから、異世界については教えてくれない。以前シスターに聞かれた時、『アトラスの冒険者』のテクノロジーは色々おかしいから皆怪しんでるに決まってるだろ。でも便利だからこっちの人間は特に文句ないぞ、みたいに言いくるめたった」

「ハハッ、つまりなあなあでうやむやにしてるんだな?」

「そゆこと。今日はこっちの世界の便利な水魔法を、向こうの世界に提供してあげられたから良かった。つまんない交流制限は撤廃されればいいと思うよ」


 あったかパワーカードも売れるかもしれないな。

 生産力が足りないけど。


「まあ『アトラスの冒険者』の正体は胡散臭いんだけどさ。過去一〇〇年以上にわたってうまく機能してて不満はないから、この件について詮索するのはやめてね」

「わかったわ」「わかったヨゥ」「わかりましたっ!」


 イシュトバーンさんが聞いてくる。


「あんたがシスターから受け取ってた、碑文の翻訳ってのは何だ?」

「向こうの世界の調査隊かなんかがドーラに残した、大きな石碑があるんだ。これ写しと翻訳なんだけど」


 皆に見せる。


「何々? これが『後方の崖、崩落の危険あり』の意味か」

「ミミズが直角にのたくったような字ですねっ!」

「ミミズは直角にのたくるのかなあ? この文字を読みたいってのはあたしの気まぐれみたいなもんなんだけどさ。三角っぽいマークあるじゃん? これは危険って意味だよ。もし見つけたら近寄らない方がいい」

「ほお?」

「覚えておくヨゥ」


 異世界の古い修飾文字については、危険のマークさえ知ってりゃいいと思う。

 注意喚起もできたし。


「あたし達は帰るね」

「イシュトバーンさん。私起き上がれないから、もう少し横になってていい?」

「ハハッ、ゆっくりしてってくれ」

「ゆっくりしていくんだぬ!」


 アハハと笑いながら、転移の玉を起動し帰宅する。

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