第893話:外注の交渉
フイィィーンシュパパパッ。
チュートリアルルームから戻ってギルドにやって来た。
「やあ、チャーミングなユーラシアさんと、イシュトバーンさん、と?」
「新人冒険者のジーク君と、そのパーティーメンバーのレノアだよ。こちらギルド総合受付のポロックさん」
「初めましてっ!」
「よろしくだヨゥ」
「よろしく。もうギルドへの転送魔法陣が出たのかい?」
残念ながらあと少しなのだ。
「いや、違うの。今三つ目のクエストで、ペペさん関係の特殊なやつなんだ。普通に完了すると皆が損しちゃう案件だから、慈悲溢れるあたしがちょっとお手伝い」
「ハハッ、どうぞギルドへ」
ギルド内部に足を踏み入れる。
「ほへーっ」
「これがギルドかヨゥ」
「ごめん。今日急ぎだから、詳しいことは明日ポロックさんに聞いて。ペペさんクエストが終わると、多分新しい『地図の石板』からギルドへ来られるようになるよ。さっきのポロックさんのところで身分照会があって正式な『アトラスの冒険者』として登録され、ギルドカードがもらえるからね」
「まだ正式な『アトラスの冒険者』じゃないのかヨゥ?」
「あたしも最初知らなかったんだけど、自分でギルドに来るまでは見習いみたいだよ?」
「ほへーっ」
依頼受付所、おっぱいさんのところへ。
「御主人!」
「よーし、いい子だね」
ヴィルが飛びついてくる。
「可愛いっ!」
「これは何だヨゥ?」
「初めてだったっけ? うちの子だよ。悪魔のヴィル」
「「悪魔?」」
首をかしげる二人。
「悪魔ぬよ? 御主人、この二人は誰かぬ?」
「新人冒険者のジーク君とレノアだよ」
「よろしくお願いしますぬ!」
「よろしくだヨゥ」
「よろしくっ!」
「ヴィルは時々ギルドにいるんだ。見かけたら可愛がってやってね」
いい子だってことは雰囲気で察したろ。
「サクラさん、相談があるんだ」
「すごいヨゥ!」
「すごいんだぬ!」
「サクラさんがすごいのはわかる。でもあんたらそういうことはデカい声でゆーな。すごくないレノアがいじけるぞ?」
「師匠もいじけてはどうですかねっ!」
大笑い。
「サクラさん、久しぶりに会えて嬉しいぜ」
「こちらこそ」
おっぱいさんが頭を下げる。
揺れる。
イシュトバーンさんとジーク君が喜んでるけど、胸部に拘ってると話が進まないよ。
「ペペさんに『アクアクリエイト』のスキルスクロール一〇〇〇本って注文入ったでしょ?」
「やはりその件ですか」
「うん。ペペさん独力だと月に一〇〇本も作れないらしいんだよ。クエストのジーク君達の助力があっても二〇〇本が限度、これだと商売の機会損失が大きくなっちゃうんだ。だから外注してはどうかって」
「外注?」
聞き返してくるけど、意外そうでもないおっぱいさん。
さてはあたしが手伝うことをある程度予測して、ジーク君にクエスト振ったのか?
おっぱいさんは有能だなあ。
あたしは損が嫌いなので、この手の案件は黙っていられないのだ。
「外注する場合、ギルドの取り分はスクロール一本当たり五〇ゴールドになるけど、どーかな?」
「要するに二〇〇ゴールド×二〇〇本と五〇ゴールド×一〇〇〇本の比較ということですね? ペペさんが納得されるのであれば、ギルドとしてはどちらでも構いません」
「やたっ! じゃ、そのセンで確認してくるね。条件変わっちゃうようならまた相談しに来るよ」
「はい。了解です」
「了解だぬ!」
「おい、もうサクラさんとお別れなのかよ。切ないぜ」
「今生の別れみたいにゆーな」
「残念だヨゥ」
「あんたのクエストだからな?」
まったく男どもは何を言ってるのだ。
転移の玉を起動し帰宅する。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
再びイシュトバーンさん、ジーク君とレノアを連れ、チュートリアルルームへ。
あっ、ヴィルも来た。
「あっ、シスター! こんにちは」
「ユーラシアさん、イシュトバーンさん、こんにちは」
スキル関係の担当者ってシスター・テレサだったのか。
以前もプチ系の魔法のスクロール化相談したら、すぐ答え返ってきたもんな。
魔法に強いのかもしれない。
ペペさんが言う。
「ユーラシアちゃん、こっちはさっきの条件で作ってくれるって」
「ギルドにもオーケーもらってきたよ」
「では一ヶ月後までに『アクアクリエイト』のスキルスクロール一〇〇〇本を、一本当たり八〇〇ゴールド、チュートリアルルーム係員であるイシンバエワの取り分五〇ゴールドを合わせて八五〇ゴールドで、ドリフターズギルドに納品する、でいいですか」
「うん。ペペさんもいいかな?」
「もちろんよ」
よーし、交渉成立だ。
これでおそらくジーク君もクエスト完了になるはず。
「でも可能なら二〇〇本ずつ段階的に納品してくれた方がいいな。スクロールっていっぺんに完成しちゃうもんなの?」
「そんなことありませんよ。では二〇〇本ずつでき上がり次第ギルドに納めますね」
生産か流通にトラブルがあっても、少しずつ納品してくれりゃ被害は少ないだろ。
「ユーラシアさん、相談なのですか……」
「何だろ?」
「大変有用なスキルで、こちらでも需要がありそうなのです。ぜひとも販売させていただきたいのですが……」
「ペペさん、一本売れたら一〇〇ゴールドもらえる条件なら構わないよねえ?」
「全然構わないわ!」
「じゃ、一本当たり一〇〇ゴールドの権利料で。そっちの小売価格をいくらにしようが、シスターがどんだけ仲介手数料取ろうが、べつに構わないからね」
「やった! で、では契約書にサインお願いいたします」
シスターも張り切って売ってくれるだろ。
ペペさんも儲かるし、ウィンウィンだね。
「ところでシスター。スキルスクロールの生産余力ってどれくらいある? 来月もっと作ってくれって注文出すかもしれないけど」
「一〇万本くらいまでなら特に問題ないですよ」
「マジか」
すごいな異世界。
これで解決やん。
「あと、碑文の翻訳できましたよ」
「ありがとう! シスターの絵一〇枚出来てるよ。遅れちゃったから料金はサービスしとくね」
「ありがとうございます!」
「すごい絵だヨゥ!」
「すごいんだぬ!」
ジーク君とヴィルのそれ、面白いな。
「用は片付いた! お腹減ったぞー」
イシュトバーンさん家に集合だ。
イシュトバーンさんとペペさんはジーク君に任せ、あたしは転移の玉を起動し帰宅する。




