第892話:スキルスクロールの大量注文
ペペさんが落ち着いてきたところで、まずペペさんに紹介してクエストの事情を話す。
「こちらはジーク君とレノアね。今月の新人『アトラスの冒険者』で、『魔境の家』っていうクエストが出たんだよ。どうせペペさん家だろうなーと思ってついて来たんだ」
「本当にありがとう!」
「困ってるのは一目でわかるけど、何事なん?」
さあ、解答はいかに?
「スキルスクロールの注文が大量に入って、とてもこなせないの!」
「あっ、あの『アクアクリエイト』のやつ?」
「そお!」
行政府からの注文だな。
万単位でとかいう話だった。
ヤベー、あたしにも関係あることじゃないか。
「お試しで一〇〇〇本だって」
「スキルスクロールを作るのって時間かかるんだ?」
「一人だと月に一〇〇本も作れないの。一応、可能な限りでいいって言われたけど」
スキルスクロールの生産のことなんか考えたことないから、量産がどうかは知らなかったわ。
イシュトバーンさんがこそっと言う。
「一人で月に一〇〇本のスキルスクロールって、かなり早いと思うぜ」
「じゃあ一〇〇〇本の生産ってメッチャ大変なんじゃん」
「スクロールのことは置いておくとしてもよ。あまり面白くねえ案件だな」
「あたしもペペさんのことだから、途轍もなく味のある事件を起こしてるのかと思ったわ。肩透かしを食らったようだよ。ってのはペペさんに失礼だから心に秘めておくけど」
「全部聞こえてるヨゥ!」
アハハ、失礼はどうでもいいとして。
「どうやらペペさんのスキルスクロール生産をアシストしろってクエストみたいだね。ジーク君とレノアが手伝うことでどうにかなるのかな?」
「あっ、助かる助かる! 二人分の手があれば、来月の納期までに二〇〇本は作れる!」
ふーん、つまり製作に魔道が関わらない過程もあるんだろうな。
ペペさんは喜んでるけど……。
「要するにジーク君とレノアが一ヶ月アルバイトするクエストか」
「つまらんな」
「ひっじょーにつまらないね」
「何がですかっ?」
「何がって、ペペさんは作業に忙殺されて、アーティスティックな活動ができなくなっちゃう。あんた達だってクエストクリアまでに一ヶ月潰れちゃうでしょ? 一〇〇〇本の注文請けたにも拘らず二〇〇本しか納められないんじゃ、儲けは五分の一だ。ドーラのスキルスクロール生産力だって、帝国に見透かされちゃうじゃないか。どこにも褒められるべきポイントがない」
「ほお、スキルスクロール生産力を見透かされるってのは気付かなかったぜ。じゃあ逆に生産力があり過ぎると、帝国に警戒されるってのもあり得るな」
「あっ、それもそーだ。イシュトバーンさん、ありがとう!」
実に面白くない。
どーすべ?
「ペペさんはスクロール作るのに誇り持ってたりする? 自分の手で仕上げなきゃすまない拘りとかある?」
「ないわよそんなの。ただの作業だし」
「利益の配分はどうなってるの? いくらでギルドに納めてる?」
「八〇〇ゴールドで納めてるの。大体私の儲けは一本当たり二〇〇ゴールドくらい」
小売価格一〇〇〇ゴールドだから、ギルドの利益も一本当たり二〇〇ゴールドということか。
うん、想像の範囲内だな。
「おい、何か思いついたのかよ?」
「外注したらどうかと思って」
「外注?」
「請けてくれるかはわかんないけど」
イシュトバーンさんがニヤニヤし出した。
魔道の過程が関わるスキルスクロールを作れるのなんて、ドーラで数人しかいない。
大量生産できる可能性があるとしたら一ヶ所しかないのだ。
「ペペさん、『アクアクリエイト』のスクロールの生産を委託する気ない? 一本売れたら一〇〇ゴールド入る条件で」
逆に言えば『アクアクリエイト』の製法が漏れるということだ。
オリジナルスキルに執着があるだろうか?
「ええと、その場合私のすることは何かしら?」
「『アクアクリエイト』のケイオスワード文様を教えることと、生産委託の契約を結ぶことだけだね。作業は全部先方にお任せ」
「あっ、お任せでいい! 何もしなくてお金もらえるのはすごくいい!」
執着などなかったでござる。
「よし、ジーク君、チュートリアルルームで落ち合おう」
「わかったヨゥ!」
転移の玉を起動、イシュトバーンさんとペペさんを連れて帰宅する。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
チュートリアルルームに到着。
「ユーちゃん、いらっしゃい。そちらは?」
「ギルドでいつも寝てるペペさん。『魔境の家』の住人ね」
「初めまして」
「こちらこそよろしく」
シュパパパッ。
ジーク君とレノアも来た。
「でね、ペペさんが大量のスキルスクロールの注文を請けたんだけど、とても一人じゃこなせないから、ジーク君とレノアに手伝いをってクエストだったんだ」
「ふうん? でもユーちゃんがここへ来たということは、裏技を思いついたってことなんでしょう?」
「まあ。そっちで作ってもらえないかってことなんだけど」
「えっ?」
うむ、今まで生産の依頼がこっちの世界から出たことはないだろう。
何故なら異世界だってことすら秘密なんだから。
「バエちゃんはスキルスクロールを売るといくらもらえるの?」
「スキルによって違うけど、販売価格の一~二割よ。価格の安いものは二割で、高いものは一割」
やはり一〇〇〇ゴールドのスクロールは八〇〇ゴールドで卸してるわけか。
好都合だ。
「ものは相談なんだけど、小売値一本一〇〇〇ゴールドのスクロール一〇〇〇本をそっちで作ってこっちに売ってくれってことなんだ。ただしバエちゃんの取り分は一本当たり五〇ゴールド」
「えっ? でも何もしなくて……」
「五万ゴールドもらえちゃうって寸法だよ」
「いや~ん、ボーナス!」
高速クネクネ炸裂、イシュトバーンさん大喜び!
「バエちゃんにも異存はないんだね?」
「ないない!」
「要するに一本あたり八〇〇ゴールドで製造、仲介者のバエちゃんとギルドの取り分がそれぞれ五〇ゴールド、考案者ペペさんに一〇〇ゴールドって配分にしたいんだ。でも本当に八〇〇ゴールドで作れるかわかんないから、今すぐそっちから担当者呼んでよ。ペペさん置いてくから、技術的なこと話し合って」
「わかったわ!」
「あたし達はこのセンでギルドと交渉してくるね」
転移の玉を起動、イシュトバーンさんとジーク君レノアを連れて帰宅。




