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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第889話:ごまんとある長所の一つ

「サイナスさん、こんばんはー」


 夕食後に毎晩恒例のヴィル通信だ。


『ああ、こんばんは。どうだった?』

「バッチリだよ。ちゃんとグリフォンにもエサあげてきた」

『何の話だ。ってグリフォンにエサ?』


 アハハ、煙に巻いたった。

 無論サイナスさんが知りたいのは、帝国のクエストの首尾についてだろう。

 あたしももったいつけて話したいから。


「プリンスルキウスが手紙書いてくれた近衛兵長さんと、あたし達が山ごもりしてた時に知り合ったリモネスさんと会えたんだ。取っ掛かりができたからもう平気」

『そのリモネスというのは?』

「皇帝陛下の相談役なんだって。『サトリ』っていう、こっちの考えてることがわかっちゃうヤバい固有能力持ち」

『ユーラシアの正体を知ってる人じゃないか』

「何だよ正体って。あたしは化けの皮なんか被ってないんだぞ?」


 それともあたしが美少女精霊使いの皮を被った女神ないし聖女ってことをかな?

 バレちゃったかー。


『いや、君が空飛ぶ軍艦を落としたドーラ人だってことだよ』

「ああ、もちろんリモネスさんは知ってるけどいいんだ。貸しを押しつけてあるから」

『貸しとは?』

「リモネスのおっちゃんは聖火教徒なの。あたしが山ごもりしてたのは聖火教徒の集落でさ。実際は違うんだけど、帝国に反抗してると思われてたんだよ。住民全部ドーラに逃がしてるし、ヴィルをこれ見よがしに使って聖火教徒じゃないよって偽装してるし、魔法で住居跡吹っ飛ばして聖火教徒の痕跡も消してるから」

『ちょっと言いたいことがわからない』

「聖火教徒が反乱ってことになると、帝国の他の聖火教徒達の肩身が狭くなるじゃん?」

『なるほど、聖火教徒じゃないと見せかけたのか。芸が細かいな』

「芸だって」

『変なところで喜ぶなよ』


 新しい芸風の開拓も今後のあたしの課題だと思うからね。


『リモネスというのは、貸し借りが嫌いな生真面目な人なのか?』

「うーん、ちょっと一言で表現しづらいけれども」


 リモネスさんなりの正義や倫理規範があって、自分に忠実なんだろう。

 おそらく法律や聖火教の教えよりも。


「多分あたしに考え方が近いんじゃないかな」

『え? とんでもない人だな?』

「何てことをゆーんだ」


 まったくあたしをどんな目で見てるんだ。

 リモネスさんの行動はあたしよりも受動的だと思うけど。


「バアルがドーラ独立戦争に関わってたことを初めて聞いたのが、リモネスのおっちゃんからなんだ」

『山ごもりしてた時だな?』

「うん。リモネスのおっちゃんも今政権の中枢にいる第二皇子には批判的っぽいから、いずれ共闘できるかもしれない」

『要するに巻き込むんだろう? 君のやり方は知ってる』

「いいじゃん。向こうにも損な話じゃないんだから」

『今日の新クエストは、帝国進出の第一歩としては上出来ということだな?』

「ザッツライトだね。上出来だと考えると気分がいいなあ」


 不審者と決めつけられ、逃げ帰る展開だってあり得たのだ。

 不審者なのは言うまでもなかったしなあ。

 望外の成功ではある。


「ただ面白くないこともわかったんだよ。プリンスルキウスが大使としてドーラに来てること、ほとんど知られてないみたいなの」

『どういうことだ?』

「手紙渡した近衛兵長さんも知らなかったくらいなんだ。知ってるのは政治家と人事に関わる役人、一部の貿易商くらいなんじゃないかな」

『なるほど、ドーラに島流しにして政治から遠ざけるだけじゃなく、人民の耳にも入らなくしてしまえという策略か』

「そゆことみたい。敵もなかなかやるねえ」


 まさか知らせないなんて戦略があるとは思わなかった。

 次期皇帝争いにしても政治実績にしても、人気投票的な側面があるということなのだろう。

 舞台に上がれなければ勝負にすらならない。


『困るな』

「いや、困りゃしないよ。プリンスにはドーラが全面協力だからね。それにあたしが自由に帝都に行けるようになったことだし」

『ふむ? 御説拝聴しようじゃないか』

「こっちからの輸出品にプリンスが大いに関わってることを、帝国国民に大々的に知らせてやればいいよ。今後はあたしも宣伝に参加できるから」

『商品がヒットすればするほど皇子の名が売れるという構造を、当初考えてた以上に大げさにやろうということだな?』

「プリンスも広報活動に身が入るだろうし、ドーラも万々歳だよ」


 輸出品の品揃えを急がねばならないが。


『ルキウス皇子が政治に関われないのは痛いだろう?』

「政治に関われないのはドーラに来た時からだし。逆に今の政権が何かやらかしても無傷でいられるってことを、プラスに考えようよ」

『何かやらかすことをプラスに考えるって……また君何かやってるのか?』

「人聞きが悪いなー。嫌らしい策謀はパラキアスさんの領分だぞ?」


 またとは何だ。

 今日ようやく帝国の首都メルエルに拠りどころを確保したばっかりなのに、何ができるってゆーんだ。

 大体品行方正で公明正大で容姿端麗なあたしは、汚い策謀には縁がないわ。


「次に向こう行く時は、ビルカ連れていこうかと思ってるんだ」

『『鑑定』持ちの赤の民の輸送隊員だな?』

「そうそう。帝国ではあまり固有能力を調べる習慣がないみたいなんだよね」

『ドーラでも固有能力調べるのがメジャーなわけじゃないが』

「でも近衛兵長さんともあろうものが、自分に固有能力あるのに把握してないっておかしいでしょ」

『ほう? 随分突っ込んだ話までしてきてるんだな』

「その辺は何とでも」

『ユーラシアの一番の武器は話術だよなあ』

「そんなのはごまんとある長所の一つに過ぎないとゆーのに」

『これさえなければなあ』


 アハハと笑い合う。

 帝国人の有力者とはどんどん親しくなっておかねばな。


『また明日も帝国へ行くのかい?』

「いや、新人の冒険者がトラブってるみたいなんだよね」

『トラブルに引き寄せられるなあ』

「アハハ。あたしに御指名入ったから様子見に行かないと。可愛い後輩だしね」

『ユーラシアの一番の武器は行動力なのかなあ?』

「そんなのはごまんとある長所の一つに過ぎないとゆーのに」


 再びの笑い。


「じゃ、サイナスさん、おやすみなさい」

『ああ、おやすみ』

「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」

『はいだぬ!』


 明日は朝からチュートリアルルーム。

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