第888話:『魔境の家』
「やあ、ユーラシアさん。今日もチャーミングだね」
「こんにちはー、ポロックさん」
アルアさんのところで素材を売ってからギルドに来た。
ひょっとしてアトムだけ連れてギルドに来るのって初めてかな?
ちなみに交換ポイントは二一五六となっている。
結構溜まってるけど使う機会がないな。
でもそれでいいのだ。
あたしのポイントが余っているとゆーことは、アルアさんが得してるわけだから。
ギルド内部、依頼受付所へ。
あ、ヴィルがいた。
「御主人!」
「よしよし、いい子だね」
飛びついてくるヴィル。
おっぱいさんに遊んでもらっていたか。
「こんにちはー」
「ユーラシアさん、こんにちは。こちらの用件から先でよろしいでしょうか?」
「えっ、何だろ?」
もらった『カル帝国皇宮』のクエストが一応の完了を見たから報告しようと思ったのに、いきなりだ。
おっぱいさんがこう切り出すからには、重要なことに違いないが?
でもおっぱいさんは焦った顔を見せない人だなあ。
雰囲気まで含めて美人だ。
「つい先ほどチュートリアルルームから連絡がありまして、新人のクエストに緊急事態発生とのことです。連絡がついたら、明日の朝に来てくれと」
「緊急事態? なのに行くのは明日でいいんだ?」
「という連絡内容ですね。それ以上の情報はありません」
「ふーん?」
新人というならジーク君とレノアのコンビだろう。
明日でいいなら、どうやら危険が迫っているという差し迫った事態ではない。
で、緊急? わけがわからんな。
とりあえずあたしに様子を聞きに来いってことかな?
「ジーク君のクエストの進捗はどうなのかな?」
「順調ですね。本日二つ目のクエストを完了しまして、新しい『地図の石板』を発行しております」
……流れからすると、緊急事態は新しいクエストに関することっぽい。
トラブルじゃないから、緊急事態にも拘わらず明日でいいんじゃないかな。
でもクエストを振ったおっぱいさんが落ち着き払っているから……。
「サクラさん、ジーク君に何かユニークなクエスト回したでしょ?」
「わかりますか?」
弾けるように笑うおっぱいさん。
こういう表情初めてだな。
すごく可愛らしくて魅力的だ。
おっぱいさんには守秘義務がある。
他人のクエストの内容を言える立場じゃないから、チュートリアルルーム行ってくるか。
「放っていてもよさそーだけど、あたしの嗅覚がエンターテインメントを嗅ぎつけたよ。あとでまず話だけ聞いてくる」
「よろしくお願いします」
緊急事態は置いといてと。
「例の『カル帝国皇宮』のクエストは完了したんだ」
「おめでとうございます」
「クエストとして完了しただけで、発展性があるからこれからも機会見つけてどんどん行くつもり」
二度頷く頷くおっぱいさん。
揺れる。
やっぱり皇宮クエストをあたしに回せば存分に玩具するだろう、と予想してたみたいだな。
実にありがたい。
「帝国に伝手ができたから面白くなったよ。どんどん貸しを押しつけていけば、商売でもプリンスルキウスの件でもやりたい放題だな」
「頼もしいですね」
ハハッ、おっぱいさんに頼られちゃうぞ?
「進捗があったら話しに来るね」
「楽しみにしてますよ」
「バイバイぬ!」
おっぱいさんと別れる。
買い取り屋さんで不要なアイテムを売却して帰宅した。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「あっ、ユーちゃんいらっしゃい」
チュートリアルルームにヴィルとやって来た。
うん、ちょっとバエちゃん慌ててるね。
「こんにちはぬ!」
「いつも冷静なやり手係員のバエちゃんがどーした」
「えっ? 冷静なやり手係員?」
クネクネすんな。
ただのジョークだとゆーのに。
「何か緊急の用だとかって聞いたから、急ぎはせ参じて候」
「ジークハルトさんの三つ目のクエストが魔境関係なの!」
「えっ?」
あたしの畏まった口調はスルーなのな?
やり手係員のところだけ確実に拾うのはさすがにバエちゃんだ。
「いや魔境が本当なら泡食って当然だけれども」
「でしょう? いつも冷静なやり手係員の私もビックリしちゃって」
「押すなあ。でもまだ三つ目のクエストなのに魔境ってどーゆーこと?」
「レノアさんがドラゴンを倒すって息巻いちゃって。ジークハルトさんが何とかストップかけて、チュートリアルルームに事情を聞きに来たの」
「様子が目に見えるようだ。レノアはやる気あるな。でもまだちょっとドラゴンは早いよ」
ハハッ、ジーク君必死みたい?
うちのパーティーがドラゴン倒したのは、確か冒険者になってちょうど五〇日目だった。
懐かしい。
「いやでも『アトラスの冒険者』って、レベルに見合ったクエストしか寄こさないんでしょ? どういうことなの?」
おっぱいさんが間違えるはずはない。
あたしにジーク君を手伝えってことなのだろうか?
どういう目的で?
「確かに『魔境の家』というクエスト名で……」
「家?」
ははあ、さてはペペさん家か。
「魔境に住んでる人がいるんだよ。その人が困ってるってことだと思う」
「何だ、驚いちゃったわ。じゃあ危険はないのね?」
「どーかなー?」
ペペさんとレノア、トラブルメーカーが二人なのに抑え役がジーク君一人だぞ?
面白くなっちゃいそうなんだけど?
「楽しめそうな状況だから、あたしも行くよ。明日の朝、ここへ来ればいいんだね?」
「あっ、お願いするね!」
「ヴィル、ペペさん家知ってるよね。様子見てきてくれる?」
「あの家、結界が張ってあるぬ。中の様子はわからないぬよ?」
「おっと、そーだった」
となると出たとこ勝負になっちゃうな。
「ジーク君は偉いな。困った状況でちゃんとチュートリアルルームに連絡しに来るとは」
「レノアさんが駆け出そうとするから、余計慎重になるんでしょうね」
「あたしだと、とりあえず行って様子見てから考えるもんな……ヤバい、レノアに思考が近いのか? 自重しないと」
バエちゃんが笑う。
「あはははは! ユーちゃんが自重するなんて似合わないわよ。相手を自重させるのがユーちゃんの進む道でしょう?」
「そういえばそうだった」
「そういえばそうだぬ!」
アハハと笑い合う。
「じゃ、明日ね」
「ええ、待ってるわ」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動し帰宅する。
相手はどうやらペペさんだぞ?
あたしが手伝えという、おっぱいさんの意図を感じる。




