第885話:あたしの魔物退治の話
「ああ、おいしかった。満足! ごちそうさまっ!」
いやあ、詰め所に戻ってきてたっぷり昼食をいただいてしまった。
さすがに皇宮に勤める兵士さん御用達の御飯だ。
美味いし量が多い。
素敵な職場だなー。
「帝国の料理は米が普通に出てくるんだねえ。米はドーラではあんまり普及してない食材なんだ」
「おや、そうですか? イネは温暖な気候には向いている作物でしょう」
「うーん、栽培には水が大量に必要らしいじゃん? ドーラは割と乾燥気味の気候だから。でも去年、水が豊富な広い平地を魔物を退治して確保したんだ。今年はイネを試験的に栽培しようってことになってるの」
「ほう、やはりドーラは伸び代が大きいですなあ」
そーだ、ドーラには伸び代がある。
今は人口の少ない、影響力もない国だけど、未来があるのだ。
リモネスさんが感心する中、近衛兵長さんが言う。
「精霊使い殿。先ほど泣言地蔵を倒した件ですが」
「あっ、あれはね……」
一般的に人形系の魔物は倒すのが困難な魔物だ。
防御力無視系の攻撃でしかダメージが入らないから。
『アンリミテッド』のパワーカードを見せる。
「さっきの『ウォームプレート』と同じ原理でブレードを具現化する、武器用のパワーカードだよ。これは衝波属性付きの特注品なんだ」
「なるほど。衝波属性なので人形系が一撃で……」
「パワーカードは、ドーラでは一般的なものなのですかな?」
「一般的とは言えないかな。一〇〇年くらい前にドワーフが開発したって話なんだ。実体を持たない精霊が使える事実上唯一の武器で、うちのパーティーでは他に選択肢がなかったから使ってたんだよ。あたし達が使い始めた頃は、他に現役の使用者はいなかった。今は良さが伝わって、使用者もちょっと増えてるけど」
『遊歩』や『ウォームプレート』のように、戦闘に関係のないパワーカードもある。
そーゆーのは一般に普及する可能性があるんだよな。
もっと職人が増えればいいと思う。
「……人形系を簡単に倒せるなら、我が軍でも採用を検討すべきだろうか?」
「いや、兵士さんは見かけ強そうなことも大事じゃん? パワーカード装備者は一見手ぶらだから、結構侮られるんだよ。素人さんに絡まれたりすることもある」
「ふむ」
「人形系を簡単に倒せるってのは誤解があるな。さっきのカードは『逆鱗』『巨人樫の幹』『ベヘモス香』みたいなレア素材をふんだんに使用してるの」
「『逆鱗』? つ、つまりドラゴンを倒せるくらいでないと、あのカードを使用する資格がないと?」
「資格がないとは言わないけど、費用対効果ってもんがあるでしょ。基本、人形系レアなんてあんまり遭わないしすぐ逃げちゃうし。魔物の少ない帝国で人形系が民の脅威になるとは思えないな」
兵士は国民を守るのがお仕事だろ。
利潤追求ビジネスの冒険者とは違う。
また冒険者は個人事業主だから、あたしみたいに積極的に人形系を倒して儲けるぞーっていう選択がありだけど、足並み揃えなきゃいけない兵士はその点でも異なる。
考えてみりゃ同じ戦闘職でも、兵士と冒険者は全然毛色が違うもんだ。
「ふむ……」
「ユーラシア殿は、人形系レア魔物はどんなものでも倒せるのですかな?」
「うちのパーティーで出遭って倒せなかった人形系はいないな。ウィッカーマンまでは一撃で倒せる。でもそれ以上だと運が必要かも」
近衛兵長さんが驚く。
「ウィッカーマン? あれは理論上倒せないと習ったが……」
近衛兵長さんはウィッカーマンを知ってるのか。
帝国の騎士や近衛兵は、魔物の講義でも受けるのかな?
ヒットポイントがイビルドラゴン並みにあって、四人までのパーティーで一ターン内にヒットポイントを削りきらないと逃げちゃうという、かなり厄介なやつではある。
「あたしは『雑魚は往ね』ってスキル使えるんだ」
「聞いたことがある。術者よりレベルの低い敵を一掃できるレアスキルとか」
「そうそう。あたしのレベル一〇〇超えてるから、人形系含めて大体の魔物に効くの」
「レベル一〇〇を超えている?」
驚き過ぎだってばよ。
リモネスさんが落ち着いた声で言う。
「ユーラシア殿は『限突一五〇』の固有能力が発現していますな。つまりレベル上限が一五〇ということです」
「ば、バカな……」
「最近調べてないから正確なところはわかんないけど、あたしの今のレベルは一一〇くらいのはずなんだ」
「ええ? 無体にもほどがある」
「よく言われる。デタラメだのメチャクチャだの美少女だのって」
「ハハハ、完成された個性ですな」
「完成された個性ときたか。おっちゃんわかってるなー」
リモネスさんと笑い合っていたら、近衛兵長さんが真面目な顔で言う。
「いや、ルキウス殿下の手紙の内容に誇張のないことがよくわかった」
「ん? ひょっとしてプリンス、あたしに対して失礼なこと書いてない? もしそうなら、とっちめてやらないと」
「御勘弁くだされ!」
アワアワしとるわ。
近衛兵長さん誠実な人だと思うけど、割と面白いな。
「ウィッカーマン以上の人形系魔物というのは?」
リモネスさんは話題の転換が上手だな。
「ウィッカーマンに似てるけど三倍くらいのヒットポイントがある、図鑑に載ってない赤い人形系がいるんだ。たまたま岩に囲まれたところで戦闘になってさ。逃げるのを封じることができたから勝てたけど、ラッキーがないと倒せないな。ドーラの独立に際して献上した聖地母神株っていう魔宝玉は、その赤い人形系魔物のドロップだよ」
「ははあ、名は討伐者のユーラシア殿にちなんでつけられたのですな?」
「そうそう。美少女地母神株と迷って、語呂がいい方にしたって聞いた」
アハハと笑い合う。
近衛兵長さんが聞いてくる。
「あの『リフレッシュ』という回復魔法ですが」
「レベルアップに伴って自然に覚えたんだ。レベル十二くらいの時だったな。あれドーラでは習得条件がわかってないんだよね。帝国では何て言われてるんだろ?」
「固有能力持ちでない者が習得した例はありません。それから確かな記録では、女性が覚えるケースが圧倒的に多いのですよ。一部で『聖女のスキル』と言われております」
「聖女のスキルかー。あたしにピッタリだった」
笑い。
スキルハッカーソル君が覚えたけど、ピッタリじゃなかった。




