第882話:ファーストコンタクトに成功!
――――――――――一六五日目。
「壮観だねえ」
我が家の東の区画にズラッと並んだ一八個の転送魔法陣を見る。
あたし達の冒険者としての歴史(約五ヶ月半)がここにあるのだ。
今日はカル帝国皇宮へ初めて行く。
「ボス……」
「ん? ダンテ緊張してる? 実はあたしもなんだよ」
「姐御が? ウソでやしょう?」
「ウソじゃなくて、ただの冗談だとゆーのに」
アハハ、ちょっと緊張がほぐれたかな?
皇宮なんてどー考えても人が多そう。
人嫌いの精霊達にはキツい環境に違いない。
山の反乱の報告書を読み込んでる兵士は皇宮にはいないだろう。
亜人と精霊は結びつかないとは思うけど、バレる危険もないではない。
あたしが一人で行く手もあるんだが、向こうさんを納得させるのが難しいんだよな。
『精霊使い』としての押し出しが必要な場面なのだ。
「今日は様子見だよ。想定外の場所に転送されるなら、すぐ戻って作戦練り直すからね」
「「「了解!」」」
何の情報もない今は作戦と言ってもな?
美少女精霊使いが遊びに来たぞーってフレンドリーに接して、なるたけ地位の高い人と知り合いになるのを目的とする。
近衛兵長のヴォルフとかいう人、プリンスが紹介してくれたくらいだから、きっと信用できる人物に違いない。
成果を欲張らず、ヴォルフさんと会うことを目標にすりゃいいか。
「さて、行こうか」
九つ目の転送魔法陣。
かつて『カル帝国・山の集落』行きだったものが、現在は『カル帝国皇宮』に置き換わっている。
魔法陣の上に乗り、立ち上る光に身を任せる。
フイィィーンシュパパパッ。
「えーと、ここは?」
ラッキー!
門の近くだ。
木と植え込みの陰で他人からは見えまい。見咎められると都合がよくないが、こっちから話しかければ主導権を握れる。
……門番? 警備兵? を獲物にしよう。
「おっはよー」
門に立ってた二人がビクッとする。
まあ敷地内から得体の知れない四人が出てくれば当然か。
「な、何だ君は!」
「美少女精霊使いだよ。うちの子達は精霊」
「せ、精霊?」
呆気にとられる門番兵。
よーし、ペース掴んだぞ!
声を落として話しかける。
「……密書を預かってきてる。ヴォルフ近衛兵長という人に渡してくれないかな?」
「密書? し、しかし君の身元が……」
とっとと用をすませて欲しいなー。
ここ陽が当たんなくて寒いんだけど。
宮殿にしては小さい門だから裏門かな?
「怪しい四人組が現れました。密書を持ってると言ってます。もうあんた達じゃ処理できない案件だってことは気付いてるでしょ? 上の人に丸投げするんだよ。あんた達がこの手紙を握り潰せば責任問題になっちゃうけど、上の人に渡せばそうじゃない。やること決まってるじゃん」
「う、うむ」
門番の一人が手紙を持ってすっ飛んでいく。
◇
「近衛兵長がお会いになるそう……何やってるんだ?」
門番の一人が戻ってくる頃には、もう一人とすっかり仲良くなっていた。
気軽に話せる人を増やしておかねばな。
「『アトラスの冒険者』か。面白いなあ」
「出入りを許してもらえればまた来るからね。じゃ、案内してくれる?」
「あ、ああ」
こっちの門番はまだまだだなー。
この段階なら少々目立っても、あたし達の力を見せといた方がいいか。
クララに目配せする。
「フライ!」
「飛行魔法か!」
「面白いでしょ。どっち行けばいいかな?」
「壁沿いにぐるっと回った正門側に詰め所がある」
「やっぱこっち裏門だったのか。急ぐよ」
「ひょえええええ!」
びゅーんと飛んで正門へ。
いや、今日は大したスピード出てないよ?
◇
「こんにちはー」
「こちらへ」
詰め所へ通されると、軽鎧に身を包んだ威圧感のある大男が迎えてくれる。
クマ男バルバロスさんをこざっぱりとしたような感じだな。
「小官がカル帝国皇宮近衛兵長ヴォルフである」
「あたしがドーラの精霊使いユーラシアだよ。よろしく」
握手。
難しい顔してますね?
まー面倒な案件が飛び込んできたわけだから、わからんでもないけど。
近衛兵長としての判断が試される。
「先ほどの手紙、拝見した。ルキウス殿下からのものであることに関して、疑う余地はなさそうだ」
「うん。本人から直接手渡されたんだよ」
「内容についてだが、どこまで本当なんだ?」
と、言われても内容は知らんし。
「えーと、あたしは手紙を読んでないから内容はわかんないんだよね。どこかに信じにくい点があるのかな? あたしの知ってる限りで補足説明するけど」
「うむ、まずこの点。ルキウス殿下は今、ドーラにいらっしゃるのか?」
「えっ?」
そこから?
詰め所にいた全員が知らなかったらしい。
「ドーラが独立してから、当時のドーラ総督が大使に横滑りしたんだよ。でもすぐに任期切れで、第二代の在ドーラ大使としてプリンスルキウスが来たの」
「ふむ、最近お見掛けしないとは思っていたが」
「これ別に秘密じゃないんだよね?」
「公的な人事が秘密などということはあり得ない。しかし少なくとも正式な辞令として発表されはしなかったし、新聞報道もなかったな」
「マジか。ドーラの扱い小さいなー」
ということはプリンスがドーラにいることを知ってるのは、政治家と貿易商、一部貴族とそれに繋がる者達だけってことか。
軍人役人一般市民には知られていない?
じゃあプリンスがドーラで活躍しても、ごく限られた人にしか知られないわけか。
近衛兵長さんが続ける。
「他にもちょっと信じ難いことが書き連ねられている。ほぼ身一つでドーラに放り出されたの、精霊使いに世話になってレベルを五〇まで上げてもらったの」
「本当だよ? 疑うなら、リモネスのおっちゃんを呼ぶといいよ」
「リモネス殿を?」
リモネスさんは『サトリ』の固有能力持ちで、他人の考えてることがわかるそーな。
陛下の相談役らしいんで、皇宮からなら連絡取れるだろ。
「あたし達は得体が知れない。手紙が本物だってことまではわかる。でもどこまで信用していいかわからないってことなんでしょ? リモネスのおっちゃんの出番だなー」
「確かに……しかし『真実を見抜く帝国の目』を、怪しき高レベル者に会わせるのは危険だ」
「あのおっちゃんが、危険なところにのこのこ現れるわけないじゃん。試しに『精霊連れの美少女戦士が会いたがってる』って伝えてよ。飛んでくるから」




