第878話:土地を販売しよう
「とてもおいしいです、これ!」
「はい。肉とは違った、軽い食感が新鮮です」
ヒルデちゃんとディオ君が口々に言う。
魚の切り身を焼いて塩振っただけなんだが、十分にうまーい!
皆でワイワイしながら食べるのはおいしいね。
ヴィルも大分移民に顔が売れたようだ。
楽しそうにしてるわ。
サブローさんが言う。
「ドーラはあまり魚食わねえんだったか?」
「食べないな。海の一族と揉めたくないってのがあったからね」
ドーラは温暖で気候が安定してるので、海が近い平地では滅多なことで飢えない、ってのも大きな理由なんだろうが。
「いや、帝国だって新鮮な魚は港町じゃねえと食えねえぞ?」
「獲れたてを食べられるって最高だよねえ」
「加工や保存も考えなきゃいけねえな。余ったやつは干しとくか」
一夜干しはあたしも好き。
獲れたてより美味いくらい。
ただ思ったより持たないんだよなー。
魚の加工の知識持ってる人が欲しいわ。
「カラーズでも少しずつ魚食を進めようよ。お魚を移民から買ってあげれば、移民にもおゼゼが回るからさ」
オイゲンさん、サイナスさん、ディオ君が頷く。
切り身にしてくれれば、カラーズでも徐々に売れると思うよ。
サブローさんが言う。
「次の移民はいつ頃来るんだい?」
「えーと、帝国を出るのが八日後の予定って言ってたから、ここに来るのは半月後くらいになるかな」
「出国税はどうなった?」
「友好国法っていう法律が施行されて、ドーラへの出国税は撤廃だって。ごく安い一律の出国料のみで渡航できるようになったそーな」
「ほーん」
雰囲気が微妙になった。
理由はわかるが。
サイナスさんが言う。
「……悪いことではない。歓迎すべきことではあるが、最初の移民と次以降の移民で格差が出てしまうな」
「それなー。何とかなんない?」
次に来る移民は目一杯財産を抱えてくるだろう。
ほぼ裸みたいな状態で放り出された最初の移民とは、かなり所持金に差が生まれることは明白で、一種の差別に繋がるのではないか。
かといって制度的に最初の移民を優遇すると、それ自体が格差を助長しかねない。
「難しいですね」
「第二回以降の移民には、土地を販売してはどうだろうか?」
オイゲンさんが言う。
何ですと?
「この地は『大掃除』計画で魔物を掃討し、精霊使い殿個人の資金により開墾が行われている地です。莫大な金がかかっている。一部を移民にも負担してもらおうということですな」
「なるほどっ!」
既に来ている初回の移民の土地代は免除する。
第二回の移民から徴収した土地代を、開発料なり何なりの名目で初回の移民に融通する。
第三回以降の移民から徴収した代金は、開拓資金に当てるなり移民コミュニティの運営資金に当ててもらえばいい。
「素晴らしいアイデアです!」
「それでいきましょう!」
ディオ君とサイナスさんが同意する。
「おっちゃんもいいかな?」
「ありがてえ、が」
サブローさんが口ごもる。
「嬢ちゃんはいいのかい? 金出しただけで得がねえじゃねえか」
「あたしは構わないぞ? いずれ移民の皆さんに協力して欲しいことができたら、手伝ってもらえれば」
「ユーラシアがお返しに何を要求するのか怖いな」
サイナスさんはいらんこと言うなあ。
笑うな、べつに怖くないわ。
「すまねえな。おいら達は身勝手でドーラに転がり込んだみたいなもんだ。なのにとんだ世話かけちまって」
「よろしいのですぞ。困ったときはお互い様」
「ドーラのスピリッツだね。代わりに移民の皆が儲けたら、こっちからも商品買ってよ」
「買うんだぬ!」
大笑い。
いいぞヴィル。
「じゃ、各村の族長達とサブローのおっちゃんで細かいところ詰めておいてよ。あたしは聖火教の本部礼拝堂へ行って、こっちはこういう移民の待遇にするってアバウトなところ伝えておくから」
正直聖火教は最初の移民をお布施で救って、二回目以降の移民を通常に遇するでもイケるのかもしれない。
聖火教は別個のコミュニティとは言え、あっちとこっちで扱いが全然違うと、移民の間で不満が広がるかもしれないしな。
こっちに合わせてもらお。
不意にラルフ君が言う。
「ところで移民の皆さんの識字率はいかがなものなのですか?」
「識字率? 商人は読み書きできるんだろうが、移民はほとんど農民だぜ。どうだろう、字を読めるのなんざ、一〇人に一人もいないんじゃねえかな。どうしてだ?」
「いや、ドーラも識字率低くてさ。読み書きできないのにお金持ちになろうなんて、ほぼムリじゃん? だから識字率上げようとしてるの」
「簡単に上げられるのか? どうやって?」
ナップザックから札取りゲームを出す。
「こういうゲーム作ったんだ」
「ほーん? あ、なるほど! 絵と字を対応させてるのか。うまいこと考えたな」
感心するサブローさん。
サブローさんは読める人なんだな。
「これはおっちゃんにあげるね。読み書き覚えたい人がいたら、遊ばせてあげて」
「どこで買えるんだ、これ?」
「ごめん、今品切れなんだ。でもカラーズのショップで数日後には再発売するよ。ドーラ政府からはでき上がり次第輸出するから、どんどん作れって言われてるの」
「輸出か。大したもんだな、こりゃ」
「ドーラはビンボーだからさ。どんどん輸出したいんだよね」
「砂糖作れよ砂糖。本土では温けえドーラなら、サトウキビの栽培が捗るだろうって言われてたぜ?」
「やっぱ砂糖かー」
ラルフ君も頷く。
ヨハンさんが砂糖栽培を推してたらしいからな。
アルハーン平原は正直砂糖まで手が回んない。
ザバンの近郊で作ってもらって、カスを紙にするのがベストだが。
「難しくはねえんだろ?」
「ないけど、ここで作るのは遠慮してもらいたいな。ドーラで人が一杯住めそうな平地って、ここしかないんだ。もっと腹に溜まるもの作って欲しい。サトウキビ作るなら西でだなー」
族長達が頷く。
やはり共通認識か。
「ドーラは大量栽培のノウハウがなさそうなんだよなー。輸出するならコストかけずにどーんと栽培したいじゃん?」
「ほーん。ドーラはドーラで考えなきゃいけないんだな」
「可憐な乙女が夜な夜な頭を悩ませてるよ」
「緑の民の嬢ちゃんがか?」
「そっちじゃねー!」
アハハと笑い合う。
でもヒルデちゃんは確かに可憐だね。
さて、お腹も膨れたし、行くとするか。




