第877話:イベント地引網
――――――――――一六四日目。
「アリスー、おっはよー!」
「あら、おはようございます」
「狩りですのね?」
「狩りなんだよ。今日のあたしはハンターなのだ。違った、今日『も』だったわ」
アハハと笑い合う。
本の世界へコブタマンを狩りにやって来た。
今日は地引網なので、一応魚があんまり獲れなかった時のためにお肉をキープしておこうとゆー作戦なのだ。
ドーラのヒロインたるあたしの思いやりってやつだよ。
クララの『フライ』で開拓地まで運ぶつもりだ。
二〇トンくらいあれば、イベントとして十分か。
マスターの金髪人形アリスと話をしていく。
「次の移民って、いつ来るか知らない?」
「八日後にタムポートから出航予定ね」
「ふむふむ、八日後か」
前回からほぼ一ヶ月、予定通りだな。
出向から四、五日でレイノスに到着すると見ていいだろう。
「この前来た第一回の移民はさー。出国税の関係とかで、持ち物取り上げられて来ちゃったんだよ。ひどいでしょ? 今度はトラブルみたいなことないかなあ?」
「大丈夫よ。友好国法が施行されてドーラへの出国税は撤廃、ごく安い一律の出国料のみで渡航できるようになったわ」
「とゆーことは、帝国からドーラへの旅行も簡単になる?」
「そうなりますわね」
じゃあ旅行客を呼び込むことを本格的に考えていいかもな。
幸い友好独立で、ドーラ人には反帝国感情がない。
でも幸いじゃないことに先立つものもない。
ゆっくり構想していきゃいいか。
もう一つ聞いておく。
「今帝国で、プリンスルキウスの評判って、どんなもんかな?」
「大使としてドーラに来た時はほとんど注目されていなかったわ。でも現在は政治的センスが議員達に、輸出品を発掘する眼力が貿易商達の間で評価されつつあります」
「ドーラではプリンスを応援したいんだよ。結構なことだね」
いい感じの評価になってるのか。
大体狙い通りだな。
ドーラ独立についての詳細を周知させよという、プリンスからの上申書が効いてるのかもしれない。
「ありがとう、アリス。お肉狩ってくる!」
◇
ストック用のお肉を確保してから、クララの高速『フライ』で掃討戦跡地の開拓地域へ飛ぶ。
この前移民肉祭りやった時と同じ場所でいいだろ。
お、緑髪が目立つあれは?
「オイゲンさん!」
「やあ、精霊使い殿」
緑の民族長のオイゲンさんだ。
「皆はもう、地引網の方へ行っておりますぞ」
「とゆーか、オイゲンさんは行かないの?」
ドーラ人にとっては物珍しいイベントだと思うんだが。
「ハハハ、皆が出払うわけにもまいりませんでな。わしは留守番です。ラルフ君とヒルデは見物しておりますぞ」
「ラルフ君も来てるのか」
デートを存分に楽しんでくださいニヤニヤ。
オイゲンさんがコブタマンの山に目を留める。
「それは……」
「お肉だよ」
断言したった。
オイゲンさんが何か言いだす前にクララお願い。
瞬く間にお肉になるコブタマンに、目を丸くするオイゲンさん。
オイゲンさんはクララの神技は初見だったか。
「いや、これは素晴らしい業前ですな」
「すごいでしょ? 見物料が取れるかなーっと思ってるんだけどね」
あ、漁の方へ行ってない移民達が集まってきた。
「姉ちゃん、この肉は何だい?」
「今日さ、魚獲りしてるでしょ? でもあんまり獲れなかったらつまらんじゃん? だから念のためお肉も持ってきたんだよ」
「持ってきたんだぬ!」
「「「「おー!」」」」
ハハッ、盛り上がる盛り上がる。
お肉はあるだけでテンションが上がる魔法の食材だな。
「骨は今日使わないんだ。でも煮るとおいしいスープになるから、持っていってね。今来てない人にも分けてあげて」
「おう、ありがとう!」
オイゲンさんが言う。
「ということなら、今日の肉は保存に回して、古い肉を引っ張り出してきた方がよさそうですな」
「それもそーだ。おーい、皆手伝って! お肉は保存用の箱、骨は分配、その他はゴミ捨て穴だよ。獲れた魚の量で足んない分は古いお肉出してパーティーだっ!」
「「「「おー!」」」」
でもクララの解体スピードおかしくね?
皆で運んでるのに、お肉・骨・ゴミの積み上がって行く方が速いんだけど。
「精霊様の底力ってすげー」
二〇体くらいあったはずのコブタマンがもうあらへん。
どないなっとんねん。
慣れてるあたし達でも啞然だからなー。
見たことない人はそりゃ驚くわ。
「はーい、見世物だけど見世物じゃないよ! 運ぶの優先して!」
「「「「おー!」」」」
よし、お肉は確保だ。
最低限パーティーの体裁は整うわ。
漁の方はどうなってるかな?
「クララ、御苦労様。相変わらずの神技でした」
「えへへー」
「浜へ行ってみようか」
「はい」
どうだ?
おおう、皆して網を引っ張ってる。
あれ、サイナスさんもディオ君もいるじゃん。
「ユー様は参加しないんですか?」
「いいよ、思いっきり引っ張り過ぎて網が破れちゃってもいけない」
「あはは」
精霊は力仕事苦手だしな。
もうすぐ終わりだし、見るだけにしとこうか。
「こんにちはー。どう?」
「おお、ユーラシアか! 大漁だぞ!」
珍しくサイナスさん興奮してるけど、大漁ってほどでもないんじゃないかな?
いい感情に満ちているのか、ヴィルがふよふよ飛び回り、サブローさんも喜んでいる。
「ここは魚影が濃いな。今日は試しに三時間くらい網落としておいてから引いたんだけどよ、まあまあの獲れ高だ」
「やっぱ今まで漁なんてしたことないから、魚も油断してるのかなー」
お肉はいらなかったか。
まーいーや、お肉があって文句言う人なんかいないだろうし。
「本来はちゃんと潮の満ち干き計算してやるもんなんでしょ?」
「まあな。だが、負荷がかかり過ぎても網が傷んじまうからよ」
なるほど。
道具が揃ってない今、修理もままならないのか。
そこまで考えてなかったわ。
これくらいの適当な量でいいみたい。
「今来てる移民の人達の中に、漁に詳しい人はいるのかな?」
「いないな。募集要項に、穀物の種多く持ち込める人優先ってあったから、ほとんど農業関係だぜ? その種も出国時に取り上げられちまったが」
「すげえ迷惑だなあ」
「昼飯にしようぜ」
漁業関係の人も来て欲しいけど、ドーラじゃあんまり活躍させてあげられないか。
いや、レイノスから沖合で漁って手も養殖って手もあるな。




