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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第876話:これ以上は有料

「サイナスさん、こんばんはー」


 夕食後に毎晩恒例のヴィル通信だ。


『ああ、こんばんは……何かあったかい?』

「あったあった。サイナスさん何でわかるの?」

『声にツヤがあるような気がしたから』

「そーだったかー。肌にツヤはいつもあるんだけどな」

『通信では肌までわからんけれども』


 アハハと笑い合う。


「ついに来たんだよ、『カル帝国皇宮』のクエスト。おめでとうあたし!」

『ほう?』


 家に帰ったらうちの子達が教えてくれた。

 九番目の、元々『カル帝国・山の集落』行きの転送魔法陣だったもの。

 おそらく転送先のビーコンを最強魔法で壊してしまった関係で使えなくなっていたのだが、鈍く赤い輝きを取り戻し、『カル帝国皇宮』に転送先が変わったことを確認したそーな。

 クララは心配そうだし、アトムはテンション上がってるし、ダンテは一見冷静。

 反応が三者三様で面白かった。


「今日行政府行ったんだよ。おゼゼがないから」

『何だ、昼飯でもたかりに行ったのか?』

「いや、輸出分のあったかパワーカードを納めてきたんだよ」

『昼飯はたかってないんだな?』

「たかんなくても、ちゃんと向こうから用意してくれた。行政府の人達は親切だから」


 本当だってばよ。

 疑わしそーなのが通信を通してもわかるのがやりきれない。

 もっと可憐なあたしを信用しろ。


「あたしがどんなクエスト請けてるんだって話題が出てさ。皇宮の話をしたら、プリンスルキウスが近衛兵長さん宛てに手紙書いてくれたんだ」

『よかったじゃないか。役に立つだろう?』

「うん、ちょっと楽になりそう」


 手紙が本物だってわかってもらえれば、少々やらかしてもリカバリーが利くんじゃないかな。

 手紙に真実のあたしを正確に記述してあればだが。

 とにかくこのクエストは第一印象が全てだ。

 笑顔の練習、にこっ!


『皇宮へは明日行くのかい?』

「いや、明後日以降かな。明日は用があるんだ。開拓地で漁やるの」

『ああ、今日持ってた網か』

「そうそう。まー上手くいくかわからんけど、魚を獲れれば腹の足しになるし、イベントとして面白そうだからさ。いっぺん試しにやってみようってことになったんだ」

『楽しそうじゃないか。明日の午前中だな?』

「うん。サイナスさんも行く?」

『行こう。村で待ってるよ』


 ん? 待っててくれるのか。


『どうした?』

「えーと、あたしは待っててもらっても別に全然構わないんだ。けどサイナスさんのためにはならないとゆーか、エンターテインメントの餌食になってしまうとゆーか」

『嫌な予感がする』


 サイナスさん正解。


「正直なところ、魚は獲れるか獲れないかわかんないじゃん? だからお肉も狩ってくことにしたんだよ。クララの飛行魔法で……」

『理解した。先に行ってる』


 サイナスさんの高速『フライ』嫌いは相当のようです。


「サイナスさん先に行くなら、サブローさんに伝えといてよ。あたしお肉狩ってから行くんで、ちょっと遅れるよって」

『要するに待たれると朝寝坊がしにくいということだな? 了解した』

「サイナスさんはさすがだなー」


 乙女の睡眠時間は譲れないのだ。

 あたしの美容に関わるから。

 でもお昼御飯に間に合わないなんてことは絶対にないわ。

 あたしの矜持に関わるから。


『待望の帝国行きクエストじゃないか。午後ちょっと帝国を見てくるということはしないのかい?』


 疑問なのはわかる。


「向こうで何があるかわかんないってのもあるけど、お土産を用意中なんだよ」

『お土産?』

「うん。あったかパワーカード。輸出分とは別に昨日注文してあるんだ。明日には届くはずだから、持参しようと思ってるの。警備兵さんとか寒いところにいるんだろうし、欲しがると思わない?」

『思う。いい配慮だな』

「同時に販促もできるし」

『さては販促がメインだったか』

「バレたかー」


 アハハと笑い合う。

 現場で使ってもらえば、いいものだということはすぐに広まる。

 売れ行きについては心配してないけど、最初から大人気の方が気分いいしな。

 あったかパワーカードの虜になってしまえ。


「明日『光る石』スタンド完成日だから、赤の民の村へ取りに行かなきゃなんないんだ」

『明日だったか。赤の民の村も行きたいな』

「一緒に行く? クララの……」

『歩いていこう』


 うむ、サイナスさんったら言い終る前に的確に被せてくる。

 『フライ』はメッチャ警戒されているようだ。

 爽快だと思うんだけど、たまーに耐性のない人がいるな。


「じゃあ明日は漁のあとで赤の民の村ね。あれどうなってるのかな、札取りゲームの生産。今日行政府で聞かれてさ」

『一〇日に一〇〇〇セット製造するペースで大増産だ』

「思った以上の生産力だな」

『黄の民も緑の民も全面協力だぞ。儲かるってこともあるが』


 うむ、問題はない。

 皆が儲かるというのが実にいい。


「『文字を覚えるための嵌め込みゲーム』の方も急がせてね。可能なら数字と計算のゲームも。アレク達に言っといて」

『もうか? 急ぎ過ぎじゃないか?』

「札取りゲームは今後の定番商品として長く売れ続けていくだろうけど、今みたいな爆発的な売れ方はしなくなるから。生産ラインが遊び始める頃に次を投入したいんだよね。作業に慣れた人をずっと使えるじゃん?」


 人を固定して使えれば効率も良くなるし、ちょっとした工夫や改良案も思いついてくれるかもしれない。

 ブームが終わったからって解雇するってのは損だよなー。

 使えるとわかっている人員を手放すのはもったいないわ。

 準備さえできてりゃ、生産開始のタイミングは計れるしな。


『随分と色々考えてるんだなあ』

「考えることはタダだからね。あたしは考えることに労力を惜しまないのだ」

『言い様が大変格好よろしい。ユーラシアは優秀なのに、どうして本を読まないんだろう?』

「優秀のところがよく聞こえなかったな。もう一回言ってくれる?」

『ユーラシアは優秀で可愛いなあ』

「念のためもう一回」

『これ以上は有料になります』

「残念だなー」

『十分サービスしたろ』


 アハハと笑い合う。

 何げないこうしたやり取りも楽しい。


『今日はそんなところか?』

「うん。サイナスさん、おやすみなさい」

『ああ、おやすみ』

「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」

『わかったぬ!』


 明日はさっかなっとりっ!

 ゴッソリたっぷりだ!

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