第871話:時間潰し
――――――――――一六三日目。
「おっはよー」
「おや、アンタかい。おはよう」
「ユーラシアさん、いらっしゃい」
今日は先にカトマスのマルーさん家に遊びに来た。
行政府が九時にならないと開かないとゆーこともあるから。
「どうしたんだい?」
「どう、と言われても困るな。強いて言えば時間潰しだね」
「失礼だねい!」
「まあまあ、これお土産だよ」
「肉と骨かい。ありがとうよ」
「いつもすみません」
嬉しそうな二人。
お肉は紛うことなき正義にして最強の免罪符だね。
どこへ持っていっても喜んでもらえるし、大体何でも許される。
しげしげとあたしを見るマルーさん。
何なの?
「……アンタは簡単にレベルを上げられるんだね」
「あっ、レベル戻してからここへ来たの初めてだっけね」
「あれかい? 魔境で経験値の高い人形系魔物を倒しまくる?」
「そうそう、あたしの得意技」
マルーさんがちょっと顔を顰めている。
魔宝玉クエストのことを思い出したのかな?
また誰か魔宝玉ゴッソリ持ってこいってゆー、エンタメな依頼を出してくれないかなあ。
極めて真摯に対応させていただきます。
「レベルが低い時の発見もあったよ。『威厳』の固有能力持ってる人がすげえ格好良く見えちゃうの」
「ああ、ヨハンの息子だったっけね」
「ばっちゃんは知らなかったっけか。新大使としてレイノスに来てる、帝国のルキウス第四皇子も『威厳』持ちだよ」
「ほう? お偉い立場の人が『威厳』持ちなのは運がいいねい」
「でしょ? いい人なんだよ。仲良くしてドーラ贔屓にして、皇帝になってくれないかなーって考えてるんだ」
「アンタの計画はさらに面白いねい」
まーいくら政治的な力量があっても、元々皇位継承権がそう高くない上に、僻地ドーラに追いやられちゃってる身だ。
次代の皇帝はさすがにちょっとムリだろうけど。
ドーラの存在感を高めるチャンスではあるから、プリンスルキウスに全面協力することに関しては変わりない。
「だけど飛行魔法が使えないのは不便でさ、この前会った次の日にレベル上げしたんだよ」
「一日でかい? 呆れたもんだね。……で、気付いたんだねい?」
おそらく新しく発現した固有能力『限突一五〇』のことだろう。
「うん。ありがたい固有能力だねえ」
「レベルアップでパラメーターが上がる分はいいけれども、スキルが増えるわけじゃない。レベルは九九だろうが一五〇だろうが、あまり変わらない気がするねい」
「いやいや、便利なの。レベルが一〇〇を超えて、イビルドラゴンだろうがウィッカーマンだろうが、一振りで仕留められるようになったよ」
「えっ?」
マルーさんはあたしの『雑魚は往ね』を知らなかったんだっけな?
説明説明っと。
「……ひどいスキルだねい」
「あたしにとっては使い勝手がいいんだ」
「ボス以外、どんな魔物が何体いてもワンターンで倒せるんじゃないか。呆れたもんだねい」
「いや、ブラックデモンズドラゴンやカオナシとかはレベル一二〇なんだって。もうちょっと精進しないといけないな」
「アンタ今レベルいくつなんだい?」
「わかんないんだよね。ギルドカードじゃレベル九九までしか調べられないの。多分一一〇弱くらい?」
「呆れたもんだね」
さっきから呆れ過ぎじゃないですかね?
「今日うちへは何か用があったのかい? アンタほど忙しい子が本当に時間潰しってわけでもないんだろう?」
「あれ? 買い被られてるな。いや、マジで大した用があるわけじゃないんだ。たまにはばっちゃんがあたしの可愛い顔を見たいと思うから」
「ずうずうしいねい」
「あとで行政府行くんだよ。時間調整して昼前くらいに行けば、御飯食べさせてもらえるかなーと思って」
「さらにずうずうしいねい」
アハハと笑い合う。
「画集のことだけどさ、全員の絵が揃って作り始めてるんだ。一〇~一一日後にはレイノスで発売になるよ」
「早いですねえ。楽しみです」
「何部刷ってるんだい?」
「注文は二〇〇〇部だよ」
「ほう、多いねい」
モデルさんに渡す分やサンプル等含めてプラス三〇部頼んでるけど。
「いや、二〇〇〇部なんて多分あっという間に売れちゃうんだよ」
「そうなのかい?」
「まず間違いないなー。ニルエモテモテになっちゃうぞ」
マルーさんもニルエも嬉しそう。
「完成したら一部持ってくるからね」
「はい」
「そーだ、ばっちゃんに前教えてもらったのあるじゃん。黒妖石の小石を固めたもので魔力を溜められるってやつ」
「ああ。何かやってるのかい?」
興味ありげですね?
「焼き物の粘土に混ぜて焼いて固めようとしたら、割れちゃってうまくいかないんだ。でも乾燥させると固まる粘土ってやつがあって、それで作ると魔力を溜められることがわかった」
「アンタ、塩を作るとか言ってたじゃないか」
「デス爺の設計で、海水取り込んで転移させてくる装置の試作品はできたんだ。でも進捗はストップだなー。カラーズの皆は今、移民生かすのに全力で開墾してるじゃん? 製塩まで手が回んない」
「塩のお値段が上がっちゃいますか?」
「大丈夫だよ。海の女王に頼んで、塩を売ってもらうよう頼んできたからね」
「働き者だねい」
好きなようにしてるだけだってばよ。
「塩は置いといて。黒妖石の小石固めたものの利用で、『光る石』のスタンドというのを今作ってもらってるんだ。試作はうまい具合だったんだよ」
「ははあ、面白いね」
マルーさんは溜めた魔力で光らせる理屈にすぐ気付いたらしい。
ニルエに説明したところ……。
「欲しいです、それ!」
「そお?」
「夜の編み物が捗ります!」
なるほど、ニルエは編み物するから。
夜に活動したいって人は案外多いなあ。
「これ、ばっちゃんに小石固めても魔力溜められるって聞いた時に、すぐ思いついたたアイデアなんだ。でもあたしはあんまり必要性感じなかったからなー」
「夜は寝ればいいと考えてたんだろう?」
「うん。睡眠はあたしにとって絶対的な価値観だけれども。思ったより『光る石』スタンドを欲しがる人多いんだよね。完成したらニルエにもあげるよ」
「ありがとうございます!」
「さてと、帰ろうかな。ばっちゃんも行政府行く?」
「遠慮しとくよ。居心地のいい場所じゃないねい」
「じゃねー。また来るよ」
「さようなら!」
転移の玉を起動し帰宅する。




