第868話:新人のお話
フイィィーンシュパパパッ。
「やあ、いらっしゃい。チャーミングなユーラシアさん」
「こんにちはー、ポロックさん」
「こんにちはぬ!」
魔境からギルドにやって来た。
挨拶もそこそこに中へ。
各店の閉店時間が近いのだ。
「やー、間に合った」
「ハハハ、御苦労様です」
買い取り屋のフリスクさんが労ってくれる。
「買い取り屋さんがいないとあたしの生活が成り立たないよ」
「うちもユーラシアさんが一番の大口です」
「他所で売ってる人もいるのかな?」
「レイノスやカトマスなら、もっと高く買い取るところもありますからねえ」
かもしれんけど、信用できない業者との取り引きって、腹の探り合いが面倒なんだよね。
とゆーか何の面白みもないアイテムで、吹っかけたり値切ったりしたくない。
エンタメの内に入らん。
時間のムダだからとっとと買い取って欲しい。
ギルドにも儲けさせてやらないといけないし。
「あたし新人さんには、ギルドでの売買はインチキがないからいいよって、勧めてるんだけどな?」
「ありがとうございます。誠実をモットーとしております」
「あたしと同じだね」
アハハと笑い、次は武器・防具屋さんへ。
「注文お願いしまーす。『ウォームプレート』のパワーカード三枚」
「『ウォームプレート』ですか? ははあ、販促か宣伝かですね?」
「そうそう。今度帝国本土行くことになりそうだからさ、広めてこようかと」
「商売熱心ですねえ。頭が下がりますよ」
「やだなー。頭じゃなくて値段を下げてよ」
笑い合いながら料金を払う。
こーゆーやり取りは好き。
今お金あるから、手付けだけじゃなくて四五〇〇ゴールドね。
明後日には届くな。
最後に食堂へ。
マウ爺いるかな?
あれ、珍しい人が一緒だ。
ワイバーンの卵を大将に渡して注文を入れる。
「こんにちはー。デミアンがいるのは珍しいね?」
「そんなことはない。吾輩夜は食堂にいることが多い。悪くないだろう?」
「うん、悪くない。マウさん、お仕事だよ」
「ふむ、新人のお守りか?」
「ギルドまで来たらお願いしまーす」
体の調子良さそうだな。
やる気に満ちている。
あ、ヴィルがマウ爺のところへ行った。
「今度の新人は移民の子から選抜されてるんだ。帝国少将の息子さんで、二つの固有能力持ち」
「……ふむ、いかにも将来性ありげに聞こえるのじゃがの」
「悪くない」
さすがにこの二人は、これだけの情報でいいと決めつけたりはしないな。
大当たりです。
「問題があるのじゃな?」
「うーん、あんまり戦闘向きの固有能力じゃないんだよね」
『水魔法』と『能動』の固有能力を持つことを話す。
「パラメーターは魔法寄りで、物理攻撃には期待できない感じなの」
デミアンが聞いてくる。
「『能動』とは知らない固有能力だ。悪くない効果なのか?」
「スタン無効じゃな」
「スタン無効悪くない、悪くないが……」
「あっ、料理来たっ!」
あたしの声にマウ爺とデミアンの表情筋が緩む。
食堂の大将のワイバーンの卵フワフワ焼きは絶品なのだ。
「さっきあたしが取ってきたワイバーンの卵なんだよ。食べてよ」
「いただこう」
「ん? ユーラシアは卵焼きと野菜スープだけなのか? 小食悪くないが」
「昼に焼き肉一杯食べちゃったの。夜は節制しようかと思ったんだ。でも奢りなら限定解除だから、心配しなくていいよ」
「ハハッ。ウェイターさん、つまみ盛り合わせ大盛りで頼む」
「やたっ! 奢られるぞー!」
笑いのあと、デミアンが真面目な顔で見てくる。
いやん。
「実際問題としてその新人、魔物を倒す手段がないだろう?」
「ないねえ。おまけにその子、自分の実力不足をわかってて、チュートリアルルームに行こうともしなかったんだ」
「……判断は悪くないが」
えらい後ろ向きなポジティブさだな。
もっともジーク君の場合は、モブ過ぎてあたしのアンテナに引っかからなかったってのが一番ヤバいのだ。
慎重なところは必ずしも悪いわけじゃないんだが。
「いや、嬢が『ギルドまで来たらお願い』と言うからには、ここまで来る見込みがあるのじゃろう。何をした?」
さすがはマウ爺、年の功。
今回はレベリングではないんだよ。
「親の少将さんと一緒にドーラに来た中佐さんってのがいて、その人の娘さんが冒険者やりたい子だったんだよ。剣術習ってて、固有能力『吝嗇』を持つ前衛向きのステータスなの。二人を組ませたから、ギルドまでは特に問題なく来るんじゃないかなと思う」
「なるほど。今回はパワープレイで解決したのではないのじゃな?」
「うん」
まああたしもいつも同じことやってちゃ、芸風を見切られるから。
「その二人の名は?」
「新人『アトラスの冒険者』の方がジークハルト、女の子の方がレノアだよ」
「嬢から見て、コンビならば問題ないのか?」
「うーん、問題ないことはないんだよね。レノアがやる気あり過ぎというか前しか向いてないというか」
ジーク君がレノアを制御できないと危ない。
デミアンが考えながら言う。
「『吝嗇』悪くない。パラメーター底上げの固有能力だな?」
「そうそう。あんたの『ジーニアス』と似たやつ」
デミアンの持つ固有能力『ジーニアス』は、全てのステータスパラメーターにボーナスがつくというものだ。
『吝嗇』も同じなんだけど、所持する財産に影響を受けちゃうってのが曲者。
「案外難しい。特に駆け出しの頃は」
「わかる? あれもこれもやりたがる子なんだよね。勇者の物語に憧れたから冒険者やりたい、ドラゴン倒したいって感じで」
「ふむ、気概は悪くない」
「レノアは元々ある程度の装備品は持ってたんだ。だからジーク君の方に初期装備品支給枠で二枚のパワーカード、『ヒール』使えるやつと防御用のやつ勧めた」
「常道だ。悪くない。ヌヌス兄妹よりもずっと楽なはず」
火力がレノア頼りになるからずっと楽かはわからんが、少なくとも防御力に関してと回復魔法を最初から持ってることに関しては大きなアドバンテージだ。
「そしたらレノアが『私もパワーカードにしますっ!』って」
「積極性は悪くない」
「悪くないぬ!」
「いや、良くはないよ。おゼゼなんて限界あるんだから。特に『吝嗇』は借金持ちになるとステータスがマイナス補正になっちゃうみたいだし」
デミアンが頷く。
盛り合わせが来た。
唐揚げおいしい。




