第857話:ギルドの七不思議
「サイナスさん、こんばんはー」
毎晩恒例のヴィル通信だ。
『ああ、こんばんは』
「ん? サイナスさんの声が弾んでるね」
『わかるかい?』
「わかるわ。あたしを誰だと思ってるんだ」
ユーラシアさんだぞ?
「で、どこの女性と仲良くなったの?」
『全然違うよ。例の札取りゲームが大反響って聞いたから』
サイナスさんはどーゆーわけか女性に縁がない。
灰の民の族長を任されるほど有能だし、まあまあハンサムなのになあ。
ヘタレというマイナスポイントが大き過ぎるのか。
「聞いた聞いた。作れるだけ作って持ってこいっていう、太っ腹な注文が行政府から入ったんだって?」
『ああ。緑の民オイゲン族長から連絡があった』
「アレク達の手持ち資金足りるのかなあ?」
第一回出荷五〇〇個分とカラーズでの販売九〇個分の収入はあったはずだが?
『どうだろう? 何も言ってなかったけれども』
「足んなそーなら、灰の民から出資してあげてよ。一セット売れたらいくらか寄こせって条件で」
『ユーラシアは手伝ってくれないのかい?』
「貸し借りを勉強させてやりたいんだよね」
灰の民もだぞ?
商売を学んでちょうだい。
アレク達だけが儲かるより灰の民にも利益を分配してやった方が、今後協力を得やすいとゆー考え方もある。
「あたしは画集の方やんないといけないから、ゲームの方は頼むね」
『今日君の絵を描いてもらう日だったんだろう? どうだった?』
「レイノスの港で描いてもらったんだ。海の向こうを指差す雄々しいポーズだよ。美少女に雄々しいってどーなんだろ?」
『うん、君には希望の象徴みたいなポーズが合ってる気がする』
「サイナスさんに持ち上げられると気持ちが悪いな。それは形にならないぞ?」
『残念ながらわかっているよ』
アハハと笑い合う。
「あんまりえっちな絵じゃなかったなー。表紙がえっちだと買いづらいだろって」
『ははあ? 必ずしも男性向けの画集じゃないということかもしれないな』
「よくわからない気の回し方だよねえ」
『商人の血が騒ぐんじゃないか? イシュトバーン氏も本気で売るつもりなんだろう』
「確かに本気を感じたな」
とゆーことは、あたしの予想を超えて売れちゃうってことか?
実に楽しみだな。
あたしの予想もかなり高めだと思うけど。
「画集は順調だと思ってて。明日イシュトバーンさんから完成画受け取ったら、印刷開始だよ。ガンガン刷って、来月には輸出だな」
『ハハハ、わかった』
「どうでもいいことだけど、『光る石』スタンドの試作品は良好。クララがオーケー出したから、まとめて作ってもらうことにした。黒妖石の小石渡してできるだけ作ってっていう注文の仕方してあるんだ。いくつできてくるかわかんないんだけど、多分三〇個くらいになるかな」
『『光る石』スタンドはどうでもいいことじゃないからな?』
あたしはあんまり興味ないんだってばよ。
「欲しがる人多いんだよ。何でだろ?」
『どうしてユーラシアが欲しがらないのか、理由を小一時間問い詰めたい』
「うちで欲しがってるのはクララだけなんだよね」
『君のところはレベルを上げて物理で殴るパーティーだからだろう』
「合ってるけれども、それが理屈に変換されるのは面白くないね」
しかも掛け合いすらまるで面白くならないときた。
むしろその理由こそ小一時間問い詰めたい。
「思い通りにならんなー。ラルフ君が姫を抱っこして魔境を往くっていうの、ギルドの伝説になんなかったみたい」
『ハハハ、作為的過ぎたんだろ』
「狙って外すとダメージ来るなー。おまけにギルドの七不思議に全部あたしが関わってるって聞いて、ちょっと気が滅入ってるところだよ」
『面白そうじゃないか。ギルドの七不思議って何なんだ?』
何だろ?
詳しい内容は全然知らないな。
「あたしも今日初めて聞いたから、内訳はわかんないの。ヴィル知ってる?」
『知ってるぬよ。悪魔のいるギルド。御主人の二歩はちょうど一ヒロ。最も稼いでる冒険者がいつも金欠。奢りあるところに御主人あり。依頼受付所サクラさんと一番親しい冒険者は何故か女性。スキル屋の店主から最もたくさんスキルを買っている冒険者が魔法使いではない。大胆にして細心の冒険者はがめついのに勘定がアバウト、の七つだぬ』
「ヤベー、全部心当たりある」
歩幅は知らんかったけれども。
こら、サイナスさん笑い過ぎだろ。
「今日は面白いこともあったんだよ。高難易度のクエストとして『魔王』と『カル帝国皇宮』っていうのがあるって、依頼受付所のおっぱいさんに言われたの。で、『カル帝国皇宮』の方をあたしがもらった」
『『魔王』はどうした?』
「ソル君に譲った。あたしの三日後輩で、十人会議にも出席してたドラゴンスレイヤーね」
『気前がいいね。君の答えはいつも『両方』だと思ってた』
うむ、なかなかあたしをよく理解しているサイナスさん。
「両方請けたいのは山々なんだけど、『魔王』くらい勇者に相応しいクエストもないからね」
『ほう、勇者か。君がそこまで評価してる冒険者なんだ?』
「ソル君はやるやつだよ。魔王と仲良くなったらあたしにも紹介してって頼んどいた。ヴィルもバアルも面白いじゃん? きっと魔王も愉快なやつだと思うんだ」
ヴィルもバアルも全然性格が違うようで、妙に律儀なところとかは共通している。
あたしは多分悪魔と相性がいいんじゃないかって気がしているのだ。
いろんな子に会ってみたい。
『『カル帝国皇宮』だって相当大変なクエストだろ?』
「うーん、皇宮のどこにどんな場面で飛ぶかがわかんないんだよね。最初に丸め込めれば勝ったも同然なんだけど、事前に作戦立てようがないからなー」
『君の得意分野じゃないか』
「得意だぞー」
でもいつもうまくいくとは限らないんだぞ?
『アトラスの冒険者』の石板クエストだから、そうメチャクチャじゃないとは信じたい。
「明日珍しく特に用がなかったりするんだよね。絵を版画屋さんに置いてくるくらいで」
『たまには休めばいいじゃないか』
「休めっていうサインなのかなあ? あたし休むの苦手で」
『何だ? 休むの苦手って。聞いたことないぞ?』
「アハハ、おやすみなさい、サイナスさん」
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『わかったぬ!』
明日はどーすべ?




