第854話:『魔王』と『カル帝国皇宮』
「ポロックさん、こんにちはー」
「チャーミングなユーラシアさん、いらっしゃい。今日は転移石碑からだね?」
「そうそう。アルアさんとこのパワーカード工房に寄ってきたの」
ギルドへやって来た。
総合受付のポロックさんは、角帽の大柄な男だ。
いつも大体穏やかな笑顔を浮かべている。
ポロックさんの顔を見ると安心するなあ。
「今日はまた、随分と可愛らしい格好だね?」
「服を作って画集の絵を描いてもらったんだよ。魅力が爆発しちゃってるでしょ?」
アハハと笑い合う。
「ユーラシアさんの絵はギルドじゃないのか。どこで描いてもらったのかな?」
「レイノス港だよ。海外を見据えるような絵なんだって。港は少し風があったんだけどさ。この服着てると寒くないの。気に入っちゃった」
「そうかい」
ニコニコするポロックさんに和む。
アレを聞いておかねば。
「ところでゲレゲレさんに会うにはどうしたらいいかな?」
「ゲレゲレさんか。ギルドへは大体月一度、月末になるとまとめて換金しに来るが……」
月一度換金だけにしか来ないのか。
会えないわけだ。
どーすべ?
「なかなか会うのは難しいだろうね。伝言だったらしておくよ」
「うーん、今ね。赤眼族関係のクエスト請けてるんだよ。赤眼族は他部族に当たりキツいんだけど、獣人とは比較的関係がいいみたいで。どーもゲレゲレさんと赤眼族はコンタクトしたことあるらしいから、直接会って話したかったんだよなー」
「クエストで、か。ん? ユーラシアさんは赤眼族の子とは仲良くしてるだろう?」
「クエストの完了条件がわかんないの。ゲレゲレさんが何か知ってるなら聞こうかと思って」
「ははあ、赤眼族のクエストは特殊だからね。心配はいらないと思うけど」
特殊? 口を滑らせたわけではないな。
ポロックさんが察してっていう澄ました顔をしてる。
どうやらヒントをくれたつもりみたいだ。
心配いらないってことは、普通にやってりゃクリアはできるらしい。
何だかわからんけれども了解です。
「ではゲレゲレさんに関してはどうしておこうか?」
「えーと……」
月末には間があるし、その頃にはもう解決してるような気もするしな?
「とりあえずいいや。月末まで解決しないようなら伝言頼むかもしれないけど」
「ああ、俺もそれでいいと思う。一応覚えておくよ」
ギルド内部へ。
「御主人!」
ヴィルが飛びついてくる。
よしよし、いい子だね。
あれ、おっぱいさんのところにソル君パーティーがいるな?
「ユーラシアさん、こんにちは」
「久しぶりだね。帰るとこ?」
「いえ、今日は母が村の寄り合いで夜いませんので、ギルドで夕食を食べていこうかと思いまして」
なるほど、仲良し家族だね。
「ドラゴンスレイヤー様が依頼受付所にいるのは珍しくない?」
「ユーラシアさんだってドラゴンスレイヤー様じゃないですか。いや、サクラさんに相談受けてたんですよ。難しい案件があるそうなので」
「へー、興味あるな」
ソル君が必要なほどの案件とはね。
少なくとも高レベルでないとダメなやつかな?
おっぱいさんが話しかけてくる。
「ユーラシアさんにも相談しようと思っていたんです」
「面白いやつかな?」
「面白いやつです。これなのですが」
おっぱいさんが面白いやつって断言したぞ?
期待が高まるなあ。
おっぱいさんが取り出した紙片を見る。
どらどら?
『魔王』
『カル帝国皇宮』
「すげえのがキター!」
いかにも高難易度っぽいクエストが二つも!
一方をあたし、もう一方をソル君が請けることになるってことかな。
両方請けたいくらいだわ。
「ん? でもこれ石板クエストっぽい内容だね」
転送魔法陣がないと行けないよな?
魔王ん家がどこにあるか知らんけれども。
「そうですね。転送魔法陣を設置させていただきます。ユーラシアさんには『カル帝国皇宮』の方を請けていただきたいのですが」
「うん、いいよ。やっぱ勇者には魔王の方が似合いそうだから?」
「似合いそうだぬ!」
ヴィルのカットインに嬉しそうなアンセリ。
ソル君は苦笑してるけれども。
「いえ、ユーラシアさんは元々帝国本土に繋がる魔法陣をお持ちで、しかも現在、機能していないですよね。転送先を少し繋ぎ変えるだけなら、魔法陣の設置コストを削減できますので」
「おおう、ちょっとビックリ」
『カル帝国・山の集落』の転送魔法陣のことだ。
『デトネートストライク』で村人の住居跡を吹き飛ばした時にビーコンも壊してしまったらしく、現在は機能していない。
あれを宮殿に繋ぎ変えるということか。
サクラさんは有能だな。
個々の冒険者の細かいところまで把握している。
今朝たまたま魔王の話題が出たところだったから、魔王に会えないのは惜しい気はする。
まーでもリリーと親しいあたしは、皇宮クエストの方をもらうのが筋ではあるだろうな。
帝国の様子を自分の目で見たかったということもある。
「ソールさんも『魔王』のクエスト、請けていただけますか?」
「はい、もちろん」
「では数日中にソールさんに『地図の石板』の発給を、ユーラシアさんには転送先の繋ぎ変えを行わせていただきます。正規の石板クエストではありませんが、クリア時のボーナス経験値は正規のもの並みに入手できますので」
「はい、わかりました」
「楽しみだなー」
おっぱいさんに別れを告げ、買い取り屋で不必要なアイテムを処分してから食堂へ。
アンが話しかけてくる。
「ユーラシアさんがドーラと帝国の争いを画策した悪魔バアルを捕まえた。レベルを一にされたが一日でカンストレベルまで戻した、という話がギルドの伝説になっているが、本当なのか?」
「本当だよ。でもそっちが伝説になっちゃったかー。ラルフ君が姫を抱っこして魔境を征くの巻はあんまり広まってないのかな?」
「ダンさんに聞きましたけど」
セリカがクスクス笑う。
「どちらが伝説っぽいかと言えば、ねえ?」
「ラルフ君を長きにわたってからかってやろうと思ったんだけど、こーゆーのは狙っちゃダメだなー」
「ダメだぬ!」
アハハと笑い合う。
お姫様抱っこで魔境を闊歩するラルフ君は、思いついた時は面白いと思ったのになー。
人為的過ぎるのはよくないみたいだ。
勉強になったわ。
「あっ、御飯来た! いただきまーす!」
「「「いただきまーす!」」」




