第85話:こいつがボスか
「考えてみりゃ、灰の民の村から東へ出たの初めてだな」
「危険だから絶対に柵を越えるな。特にお調子者のユーラシアって、名指しで言われてましたもんねえ」
「こらクララ、事実をゆーな」
笑いながら東へ進む。
ここからクー川まで強歩三時間ほどだ。
起伏のない地形で、木もあまり生えていないので遠くまで見通せる。
あそこでも戦闘中だな。
黄の民三人組だ。
植物系の魔物を相手に、単純に殴りにいってるだけだ。
脳筋どもめが。
でも強引過ぎる気がする?
「ユー様、あれ状態異常の激昂かかってます! 三人ともです!」
激昂、それは無闇やたらと怒れてきて感情のコントロールが効かなくなり、ただ攻撃する以外の行動を取れなくなってしまう状態異常だ。
命中率が極端に下がるのが厄介。
「助太刀しよう。クララ、『オールキュア』かけて!」
「オールキュアっ!」
黄の民三人の激昂を解除し、全員で魔物をタコ殴りして片付けた。
「畜生、灰の民なんぞに助けられるとは!」
「そう言うな、助かったぞ」
ボス格であろう、モヒカンヘアーで一際大柄の拳士が礼を言う。
何だ、黄の民にも話のわかるやつがいるじゃないか。
「灰の民から精霊使いの冒険者が出るって話は聞いていた。まあ知れたもんだろうと高を括っていたが、どうしてどうして大したものだ。俺らはパワーには自信があるんだがな、魔物相手の駆け引きは専門外と痛感している。気をつけた方がいいことはあるだろうか?」
「アニキ、灰の民にアドバイス求めるなんて」
「バカ者! このまま満足に働けないことこそが黄の民の名折れだとわからんか!」
へー、考え方もちゃんとしてる。
おみそれしたよ。
「今のやつもだけど、植物系の魔物は状態異常攻撃が多いよ。あんた達には向かないと思う。獣っぽいやつ倒してよ。パワー勝負になるよ」
「おお、了解したぞ。すまんな。さらばだ」
モヒカンがいい笑顔で挨拶する。
「黄の民にも人物はいるねえ」
掃討戦終わったらじっくり話したいもんだ。
◇
『雑魚は往ね』でマジックポイントを節約しながら、魔物達を駆逐していく。
『オールレジスト』の状態異常耐性と、『誰も寝てはならぬ』の睡眠無効に頼りきった戦法だ。
もしあたしが『雑魚は往ね』を撃てない状況になったら、クララの装備している『逃げ足サンダル』のスキル『煙玉』で離脱する手筈だった。
が、幸いそーゆーピンチにはならない。
快進撃だ。
「モーマンタイね」
「絶好調だねえ」
しばらく行くと、紫色のつば広帽子が見えてきた。
オリジナルスキル屋のペペさんだ。
しかし戦い方がひどい。
あのデカいニワトコの杖をただ魔物に叩きつけている。
およそドーラ大陸一とも噂される魔道士の戦闘には見えない。
「ペペさーん!」
「あっ、ユーラシアちゃん!」
一人で寂しかったのか、ちょっと嬉しそうだ。
「何でペペさんが参加してるの? 冒険者でも低レベルでもないじゃん」
「だってギルドからアルバイト代が出るの」
ははあ、マジで生活が苦しいんだな?
どーしてペペさんみたいなスキルをちゃちゃっと作れる大天才が、お金に困るなんてことがあるのか。
世の中おかしくない?
「手が足りないから、ギルドの職員でも戦える人は出てるのよ? 総合受付のポロックさんとか、食堂の大将とか」
「ポロックさんはともかく、大将が参加しちゃダメでしょ。もし大ケガしたら祝勝会の料理どーすんだ」
完全に祝勝会がある前提じゃないかって?
当たり前だわ。
少なくともうちのパーティーは今日のため、十二分に用意してるんだから。
「あはははっ!」
「大笑いしてるけど、ペペさんはどうして魔法使わないの?」
「え? 地形が変わっちゃうから……」
地形の話はしてなかったよーな気がするな。
どゆことだってばよ?
「私、ロマンを感じない魔法は使えないの」
「えーと意訳すると、山吹っ飛ばすクラス以外の魔法は使えないってこと?」
「うんそお」
ロマン砲撃たれちゃえらいことだ。
地面ボッコボコにしたら移住者の受け入れもクソもないし、魔法に巻き込まれる人が出ないとも限らない。
でもレベルカンストするくらいになると、力のない魔道士でも一回殴るだけで魔物倒せるんだな。
ペペさんは一人でも特に危なげなさそうではあるが……。
「もう少し東行ったところの山際に大型魔物がいるのよ。魔法通じない人形系だから私の出番はないけど、ザコ魔物を一掃したら皆で寄ってたかって倒そうってことになってるの」
「今日のメインイベントか。どんなやつか確認しときたいな。あたしちょっと見てくる」
「行ってらっしゃい」
◇
ペペさんと別れさらに東へ。
山際って言ってたな。
人が集まってる、あれか?
「うおーデカい……」
小高くなってるところの陰に本日のボス、デカダンスはいた。
人形系魔物特有のぬめっとした外観だが、とにかくデカい。
踊る人形の何倍あるんだ?
ド迫力だなあ。
二人の僧服を着た男性が結界を張り、デカダンスの動きを止め、魔法を封じ込めていた。
「やあ、精霊連れとは珍しい」
「こんにちはー。あんた方はプリースト?」
「聖火教レイノス支部のハイプリーストだよ。昨日急にギルドから依頼されたんだ。まあ結構な寄進があるだろうから構わないが」
「この結界って、いつ頃までもつのかな?」
「あと五、六時間ってとこかな。もし破れたら、もう一度張り直すのは難しい。やつも身動き取れなくて怒り狂ってると思うんでね」
「じゃあそれまでに他の魔物を全部倒して、全員でこいつと対決になるんだね?」
僧服の男達が顔を見合わせ、諦め顔で言う。
「対決できればね。ただ今までここに来た連中に聞いても、誰もこいつにダメージを与えられる衝波技を持ってないんだよ。だからザコを掃除し終わったところで逃げようかって話してたところなんだ」
衝波技というのは打撃部位から内部に破壊の波を浸透させる技で、いわゆる防御力無視スキルのこと。
当てれば必ず一ダメージ奪うことができる『経穴砕き』も衝波技の一つだ。
あたしもよく覚えた。
「逃げるのはちょっと待って。うちのパーティーは四人とも『経穴砕き』覚えてるんだ」
眉を動かし、ほう、という目であたし達を見る僧服達。
「四人とも? 若干希望が出てきたかな。よしわかった。楽しみに待ってるとするよ」
「お願いしまーす!」




