第848話:おやすみ聖女様
「サイナスさん、こんばんはー」
夕御飯のあとに、毎晩恒例のヴィル通信だ。
今日は昼晴れてて比較的暖かかったのに、夜になって急に冷え込んできたわ。
布団は友達。
『ああ、こんばんは』
「今日はほこら守りの村ってとこ行ってきた。カトマスから強歩四時間くらい、山の方に入ったところにあるんだけど」
『聞いたことあるな。神の住まう村だったか』
「そうそう。御神体が画集のモデルでさ」
『なるほど』
あるがままに受け入れるサイナスさん。
大分教育されてきたからだろうか?
「で、もう一人、ほこら守りの村には、あたしも時々占ってもらう幼女占い師がいるんだ。その子も描いてもらった」
『いよいよ佳境だな。残りの画集モデルは君だけか?』
「うん。あたしは描いてもらうの明日なんだ。イシュトバーンさん家行くことになってる」
『服装について、何か企まれてるという話だったか?』
「あたしいつも企む側の人じゃん? 企まれると居心地が悪くて」
『ハハハ。たまには他の人の気持ちになっておいで』
「美少女精霊使いを崇拝する側の気持ちかー」
『ユーラシアは本当にあつかましい』
アハハと笑い合う。
まーでもイシュトバーンさんとセレシアさんがどんな服を用意してくれてるのか、楽しみではある。
『ちなみにほこら守りの村の二人の作画が今になったのは、何か理由があったのかい? セッティングの難しそうな、海の女王とエルフの族長が後ろになったのはわかるんだが』
「そこに気付くとはサイナスさんは鋭いね。アポがいらないってこともあるんだけど、あたしもイシュトバーンさんを面白がらせてあげたいじゃん?」
簡潔に言えばキャラが濃く、イシュトバーンさんと面識がないのをあとに回したのだ。
食べる時でも味濃いやつ先に食べちゃうと、薄味が物足りなくなるからね。
エンタメの配慮ができる子なのだ、あたしは。
イシュトバーンさんにも喜んでもらえたと思う。
『だから一番キャラの濃いのがラストなのか』
「あたしは別に濃くはないでしょ」
『君、案外自分のことは理解してなくないか?』
「失礼なのかそうでないのか、判断に迷う発言なんだけど?」
『推定無罪の原則』
面白いから勘弁することにする。
「次に『アトラスの冒険者』の新人さんの話ね」
『ん? 例の帝国軍人の子供達の話か? 昨日で終わったんじゃないのか?』
「昨日はプロローグだよ」
『今日は?』
「序章?」
『本編が始まらないじゃないか』
「彼らの戦いはこれからだっ!」
『何だろう? もう先のストーリーは聞かなくていい気がしてきた』
「諦めないでどんな時も」
モブ的慎重派のジーク君と突撃『吝嗇』少女レノアのコンビは、なかなか面白いと思う。
二人の性格を足して二で割ったら、結構いい感じだと思うしな。
クリークさんマックスさんの子供達だから、今後何かで関わってくるかもしれないとゆーこともある。
「昨日はただの顔合わせみたいなもので、今日支給するパワーカードが届いたんだ」
『ああ、新入りには武器を支給するのか?』
「うん、三〇〇〇ゴールドまでの装備品はくれるの」
何か考えてますね?
『……いや、君だって初め未経験者だったろう? 子供の頃から運動神経が良かったことは知ってるけれども。いくら装備品をくれるからと言って、未経験者に魔物退治しろって無謀じゃないか?』
「無謀も無謀だよ。あたしも最初スライムって強いなーと思ったよ。クララと二人がかりでだよ? 丸っきりの未経験者は、最初のクエストの成功率四割ないって言ってた」
道徳心のある固有能力持ちを厳選するまではわかる。
でも頭から放任っていう『アトラスの冒険者』の制度は、ムダが多いと思う。
『制度を改めるべきだな』
「ほらほら、サイナスさんだってムダだと思うでしょ? 昨日は新人の選定まで関係ないだろうって言ってたのに」
『だからユーラシアは新人育成まで首突っ込んでるのか。少し気持ちがわかった気がする』
尊敬に値するだろ。
もっとあたしを崇めたっていいんだよ?
「『アトラスの冒険者』は、固有能力持ちで性格のいい子から選ぶんだって。今『アトラスの冒険者』は皆ドーラ人から選抜されるんだ。ってことは脱落しちゃうとドーラの損失じゃん?」
『君を見てると、性格の条件の方はかなり緩そうだね』
「聖女のような性格なのは別に構わないんじゃないかな? ともかくドーラが損するようなことは、あたしの儲けにもならないから嫌なんだ」
『君がトータルでものを見ているのは知っていたが』
聖女はスルーされちゃった。
「今『アトラスの冒険者』が憲兵みたいなことやってるんだよ。この制度がずっと続くなら、国がおゼゼ出して警察を組織しなくていいしね」
『ははあ、税金の多寡にも関わるということか。小さな政府の考えだな』
小さな政府か。
プリンスもそう言ってたな。
「税金なんか取らなきゃ取らない方がいいよ。ドーラはどうせレイノスからしか輸出入できないんだから。行政府が貿易取り仕切ってお金儲けすれば、運営資金くらいは調達できるんじゃないかな」
『なるほど。国民から広く税金を徴収するんじゃなくて、貿易を中心とした政府の事業で資金をまかなうということか』
「貿易が政府主導になるのは、海の一族の支配領域っていうドーラの特殊性があるから当然なんだけどさ。あんまり政府が儲けることばかり考えてもいけないじゃん?」
『どういうことだい?』
「塩も行政府が取りまとめた方がいいと考えたこともあったんだ。けど、どうせ密売が出るじゃん? 取り締まる組織を作んなきゃなんないとなると、また必要のないおゼゼかかっちゃう。ムダの極み。行政府は普通の商売じゃなくて、行政府やその信用なくしてできないことをやってくれた方がいい」
『もっと大っぴらにドーラのことも考えてますよと言ってれば、ユーラシアは賢そうに見えるのに』
「あたしが賢いことは国民の常識だろ」
言わなくてもわかれ。
乙女の心情を察しろ。
『君の絵が楽しみだよ』
「明日なー。何されるのかなー。心配で寝られないよ」
『ハハッ、おやすみ聖女様』
「ズルいな。忘れかけた頃に聖女ネタを回収するとは。じゃ、サイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『はいだぬ!』
明日は聖女の絵。




