第846話:『吝嗇』
フイィィーンシュパパパッ。
「あっ、ユーちゃんいらっしゃい」
「師匠こんにちはっ!」
「おはヨゥだヨゥ」
「時間ちょうどよかったかな?」
ほこら守りの村から帰宅後、イシュトバーンさんを送り届けてからチュートリアルルームにやって来た。
ジーク君とレノアも来たばかりっぽい。
「これお土産だよ」
三人にコブタ肉を手渡す。
「あっ、肉っ! 大好物なのですっ!」
「これはとっても美味いお肉だぞー」
「いつもありがとう!」
「……」
バエちゃんの高速クネクネに固まるジーク君。
うむ、気持ちはわかる。
残像でぼやけてるもんな。
見たことないけど、蜃気楼ってこんな感じなんだと思う。
「ジーク君に支給するパワーカード来てるかな?」
「ええ。頼まれてた通り、『ホワイトベーシック』と『武神の守護』ね」
防御用カードは沈黙耐性のある『光の幕』やクリティカル攻撃を無効にする『シンプルガード』、回避率の上がる『シールド』という手も有力だった。
でもヒットポイント自動回復付きって、メリットがわかりやすいんだよな。
嫌らしい状態異常攻撃を使ってくる魔物が少ない最序盤では、最も使える防御用カードだと思う。
『武神の守護』なら、前衛のレノアが将来使ってもいいだろうし。
「ジーク君、パワーカードはどう?」
「……集めたくなるヨゥ」
そーゆーこと聞いたんじゃないんだけどな。
いろんなカードがあるってチラッと教えたからか、集める方向に思考が行ったらしい。
もっともリストを見てると欲しくなっちゃう気持ちはあたしもわかる。
以前リリーもコレクションがどうのって言ってたわ。
帝国の人は収集癖でもあるんだろうか?
煽ったろ。
「最近開発されたこんなカードもあるよ。『遊歩』って言うんだけど」
起動してふわっと浮き上がる。
「浮いてる?」
「飛行魔法かヨゥ!」
「すっごいっ!」
「起動すると自動的に一人用飛行魔法がオンになって、自由に飛び回れるパワーカードだよ。これ受注生産だけど、二〇〇〇ゴールドで買える」
「「「欲しい!」」」
あれ、バエちゃんまで食いついてくるな?
やっぱ飛ぶことは人類永遠の夢だから。
「残念ながら飛行魔法はレベル依存なんだ。このパワーカードを使うのにもレベルが二〇は必要だから、今のあんた達じゃ使えない」
冒険者じゃないバエちゃんは諦めなよ。
テストモンスターが経験値もらえる設定だったらよかったのに。
「昨日見せた『アンリミテッド』ってカードあったでしょ? あれはただの武器じゃないんだ。普通じゃ倒せない人形系の魔物を簡単に倒せる特注品」
「人形系の魔物……経験値上げ放題、魔宝玉狩り放題ってことかヨゥ?」
「大正解!」
「すごいっ!」
ハハッ、ボルテージ上がってやがる。
「ただこれはレア素材をたくさん使うんだ。具体的には『逆鱗』っていう、ドラゴン倒した時に手に入るやつとか」
「……つまりドラゴンを倒せないと、手にする資格がないってことかヨゥ?」
「とゆーことはないな。素材なんてクエストの報酬でもらうこともあるし、偶然手に入っちゃうこともある。実際にあたしが『アンリミテッド』を手に入れたのは、ドラゴン倒す前だったし」
とゆーか『アンリミテッド』を作ってもらった当日に初めてドラゴン倒したわ。
ジーク君は運のパラメーター高いみたいだから、何かの拍子にすごいカードを入手しちゃうかもしれない。
「昨日も言ったけど、竜特攻付きのカードはごく普通に手に入れられるんだぞ? マジかよ? って効果のカードはまだまだある。これ以上のネタバレはしないから、自分で探してみてね。ギルドまで行ってからか、あるいはそれ以前にパワーカードの工房には行けるはず」
いかにも沸点の高そうな煮えない男ジーク君がやる気になってきたのがわかる。
いーんだよ、気合いの入る理由は何でも。
「ところでレノアの固有能力って何だった?」
「あっ、レノアさんも固有能力持ちなの?」
「うん。それもレノアが冒険者向きかなって思った理由の一つなんだ」
「私も魔法を使えますかっ?」
「どーだろ?」
普通の属性魔法系じゃないことはわかるけど。
魔法使えるようになる固有能力は多いからな?
バエちゃんが青いパネルを作動、レノアに手を当てさせる。
「……『吝嗇』ですね」
「能力名ひどくないですかねっ?」
「どんなやつ?」
財産が多くなるほどステータス値にプラスの補正がかかるらしい。
デミアンの『ジーニアス』に似た能力だ。
悪くない。
がっついてるレノアらしい能力とも言える。
「装備揃えたりスキル買ったりするのにおゼゼ使うと、補正が小さくなるってことか」
「借金抱えるとマイナス補正になるわよ?」
「げ、マイナスになることもあるのか」
考えると難しいな?
行動の自由度を縛るわ。
少なくともあたし向きではない。
「レノアに財産管理を任せとくとドツボに嵌るかもしれないぞ? ジーク君がコントロールしないと」
「わかってるヨゥ」
「では早速試闘してみましょうか。出でよ! 邪悪なる存在、テストモンスターよ!」
バエちゃんの得意げな決めゼリフとともに、剣と盾を持った戦士の影が現れる。
レッツファイッ!
「あんた達なら余裕で勝てるから落ち着いて」
レノアの斬撃! かなりのダメージだ。楽勝だな。あっ、レノア木刀だけ持ってて防具装備してないじゃないか。テストモンスターの攻撃! レノアがダメージを受ける。ジーク君のヒール! レノアが回復する。レノアの斬撃! よーし、勝った!
「おめでとう! これでチュートリアルは終わりです。あとは実戦で頑張ってくださいね」
「レノア、あんた今日防具持ってこなかったの?」
「持ってこいって言われてなかったですしっ!」
「ごめんね、言い忘れてたわ。なのに木刀を持ってるのは何で?」
「戦士の心意気ですっ!」
レノアの性格はメッチャわかりやすい。
冒険者向きでかつドーラ向きでもあると思うけど、帝国みたいな先進国家向きではないんじゃないの?
マックスさん苦労してたんじゃないかなあ?
まあ二人ならギルドまでは問題なく来るだろ。
「ギルドまで来れば、百戦錬磨の最年長冒険者があんた達の指導することになってる。もしそれまでに困ったことあったら、バエちゃんに泣きつけ。いいね?」
「わかりましたっ!」
「わかったヨゥ」
「レクチャーはここまで!」




