第845話:それはさいごのまほうじんです
マーシャが確信を込めた口調で言う。
「わたしはずっとこのむらにいるのです。みんながあいにきてくれるのです」
「そーかー。あたしもまた来るからね」
「はい!」
名の知れた占い師になれば、遠くからでも人は訪れるだろう。
リタとマーシャで栄えるという未来を見ているのかもしれないな。
やはりマーシャはほこら守りの村にいるのがいい。
「ちょっと輪郭が描けてきたねえ。おお、神々しいね」
「ほんとうです」
ポーズがポーズだからか、ここまでは普通だな?
まあイシュトバーンさんの作品だ。
仕上がりが普通になるなんて微塵も信じてはいないけど。
「マーシャに占って欲しいな」
「はい、なんでしょう?」
はて、どう説明すればいいかな?
わからん時はまんま全部だな。
「『アトラスの冒険者』は『地図の石板』を手に入れると、新しい転送魔法陣が設置されて飛べるようになるんだ。でも最近手に入れた石板から設置された魔法陣に、『この転送魔法陣を使う資格を満たしておりません』って言われちゃうんだよ。どうすればいいかな?」
あれ、イシュトバーンさん興味ありげですね。
聞き耳立ててないで、絵に集中してなよ。
「はい、わたしをじっとみてください」
マーシャを見つめる。
随分髪の毛も伸びてきたな。
マーシャの魔力が頭の中に浸透してくる。
ああ、前よりも優しい魔力になったじゃないか。
「こんなんでました!」
マーシャが元気よく叫ぶ。
「それはさいごのまほうじんです! そのまほうじんをつかうとき、ゆーしゃさまはぼうけんしゃではなくなります!」
重大発言キター!
「お肉を狩れなくなっちゃうのかな?」
イシュトバーンさん笑わんでいい。
「ゆーしゃさまはさいごのまほうじんをつかうまえに、じゅんびをしますよ」
「準備?」
とするとおそらく『アトラスの冒険者』ではなくなる、という意味だな。
おっぱいさんが言ってた管理者の使用する転送魔法陣だとすると、行き先はおそらく……。
マーシャの言いようからすると、あたしは『アトラスの冒険者』の資格を棒に振ってまで問題の魔法陣を使うことになるのだろう。
その理由は……。
「うん、ありがとうマーシャ」
「ゆーしゃさまのぜんとにさちあれっ!」
イシュトバーンさんから声がかかる。
「よし、できたぜ」
「どれどれ? 神々しい……エロ神々しいね?」
「どすけべえなのです!」
輝く魔力のオーラが表現されているんだが、何故かえっちいオーラにしか見えないという、相変わらずの謎絵だ。
「素晴らしいです!」
「リタ、ちょっと落ち着いてきたねえ。よかったよ」
イシュトバーンさんの絵は説得力があるなあ。
モデルさん皆大喜びだもんな。
うむ、何より大事なことだ。
「じゃあ交代してくれ」
「「はい」」
モデルがマーシャに交代。
ポーズは……三角座りだ。
可愛いイメージだが?
まだ自分の絵をガン見しているリタに喋りかける。
「どう?」
「こんなにセクシーに描いていただけるとは思いませんでした」
「イシュトバーンさんの描く女性画は、皆えっちになっちゃうんだよ。冗談で画集出したら売れるねって言ってたら、本気にする人が多くてさ」
リタも土地神様が亡くなるまで、刺激の少ない日々を送っていただろう。
たまにこういうイレギュラーなイベントがあって嬉しいのかもしれない。
「村人達は親切にしてくれる?」
「ええ。近頃はまた、近隣の集落からも来てくれる人が増えたんです」
「リタの恩恵があるからだぞ?」
霊験あらたかって話だからな。
怪のクエストの時にこの村は裕福だって思った。
霊験のおかげでお布施とかがあるのかもしれない。
「マーシャの絵も大分描けてきたね」
「そうですね」
「でも……」
普通だな?
可愛い女の子の絵だ。
ここから謎の変貌を遂げちゃうのか?
これはこれで需要があるだろうけどな、ピンクマンとかに。
「マーシャの絵もセクシーになっちゃうんですか?」
「いや、どーだろ?」
ペペさんみたいなエセ幼女じゃなくて、マーシャはマジ幼女だぞ?
えっちになったら売っちゃいけないものになる気がする。
でもクララやヴィルの絵ですらああだからなあ、というイシュトバーンさんの絵に対するマイナス方向の信頼性。
「あ、そーだ。これ、モデルのお礼だよ」
「まあ、ありがとうございます。綺麗な魔宝玉ですね」
透輝珠だ。
これ、若干暗めの環境の方が綺麗なんだな。
「ドーラも魔宝玉に頼ってちゃ厳しいからね」
リタと話す内容にしては的外れかもしれないが、これはあたしの本心だ。
一つのものに比重がかかってちゃ、その必要性が失われた時に大打撃を受けてしまう。
貿易規模が大きくなるに連れ、魔宝玉の割合は低くしなければならない。
というか、相場下落を防ぐために絞っていくべきじゃないかな。
「ドーラの発展のためですか?」
「今後ドーラの人口はどんどん増えるんだ。皆が幸せの方がいいじゃない?」
「ええ、わかります。私もこの村の発展が嬉しかったですから」
「うんうん、だよね」
御神体として村を支えるリタ。
ドーラにもいろんな考え方があっていいんだよな。
ほこら守りの村周辺は、はリタを中心とした地域信仰でまとまってくれればいい。
「よし、描けたぜ」
「どらどら?」
「あっ、とても可愛いですね!」
抱きしめたくなるような幼気な少女絵だ。
あれ、えっちさがないぞ?
一枚くらいこういう絵があってもいいという、イシュトバーンさんの考えかな?
「ふーん。こう来たか」
「いいだろ」
「いいねえ。でもらしくなくない?」
「精霊使いの洞察力をもってしてもわからねえか」
イシュトバーンさんがニヤニヤしてるぞ?
何かあるのか?
「あっ!」
何だこれ?
逆から見ると小悪魔だぞ?
「気付いたか」
「どーなってんの? おかしくない?」
「不思議ですねえ。マーシャが悪い子になったみたいです」
「すごいのです! とりっきいなえなのです!」
マーシャ大喜びじゃないか。
でも何なんこの謎絵は?
今までの絵の中でも一番おかしい。
「心眼だぜ」
「心眼かー」
また出たぞ心眼。
追及はムダだ。
すごいものと思うしか。
「マーシャありがとうね。これ、お礼だよ」
「ありがとうなのです」
透輝珠を渡す。
「今日は帰るよ。画集の完成を楽しみにしててね」
「「はい!」」
「あいるびーばーっく! しーゆーあげーん!」
転移の玉を起動し帰宅する。




