第844話:ほこら守りの村の怪再び?
――――――――――一五九日目。
フイィィーンシュパパパッ。
「おっはよー!」
「おう、待ってたぜ」
イシュトバーンさん家にやって来た。
既にスタンバイしている。
「これ、お土産のお肉と骨だよ」
「ん? 朝から魔物狩りしてたのか?」
「もちろん。食の確保は何より大切だからね」
あたしが成人して独立したのは去年の精霊の月、所謂三の月だ。
あれから一一ヶ月、元々の計画より我が家の人口が倍になっているのにも拘らず、冬越しの食べ物に困らないのは、冒険者になってお肉を自由に狩れるようになったおかげだ。
レベルアップに伴い食欲も増したせいで、イモや豆の消費量は計算以上なのだが、そこはダイコンや凄草もあるし。
今年はもっと様々なものを作ろう。
「行くけどいいかな」
「おう、楽しみだぜ」
転移の玉を起動し、一旦帰宅する。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
木のまばらに生えた森に降り立つ。
ほこら守りの村の転送先だ。
「ここはもう少し朝早い時間で、木々の隙間から陽が差す方がいい雰囲気かもな」
「うん」
もう大分高い位置まで太陽が来ているから、イシュトバーンさんが柄にもないことを言い出したのだろう。
柔らかい木漏れ日も精一杯頑張ってる冬の日差しも、あたしは両方好きだけど。
「ここねえ、最初は『ほこら守りの村の怪』っていう転送先の名前だったんだ」
「怪? オカルトか?」
「うん。うちのアトムとダンテがビビっちゃっててさあ」
「ほこら守りの村の御神体は霊験あらたかなことで有名だ。神秘的なクエストもあるかもな。でも解決方法は力技だったんだろ?」
「お察しの通りだけど」
アハハと笑いながら集落の方へ。
「こんにちはー」
「これは精霊使い殿、とイシュトバーン殿?」
「おう、村長久方ぶりだな」
イシュトバーンさんは顔が広いなー。
お肉を渡す。
「お土産だよ。皆さんでどーぞ」
「これはこれは。いつもすみませんな」
どこへ持っていっても喜んでもらえるお肉は、偉大かつ正義だ。
「して、今日はどうされましたかな?」
「絵を描きに来たんだぜ」
「絵、ですか?」
わかるまい。
「こんなのなんだよ」
今までのモデルさんの絵を見せる。
「ほほう、これはこれは……」
「イシュトバーンさんの描いたいい女の絵を、画集として売り出そーっていう企画だよ」
「イシュトバーン殿の描いたものでありましたか。多才でありますなあ」
「マーシャと御神体リタをモデルに」
「えっ?」
村長の言いたいことはわかる。
あの二人にえっち要素ないもんな。
「世の中いろんな需要があるもんだから」
「そ、そうですか。田舎にこもっていると、都会の流行がわかりませんで……」
「マーシャはほこらかな?」
「はい。今時分はおそらく」
村長と別れ、土地神様の碑を参ってから参道へ。
「クエストの時はこの参道がループしてて、ある程度魔物の数倒さないとほこらまで行けなかったんだ」
「よほどの魔力が空間に干渉してたんだな」
「御神体の少女霊が暴走しかかってたね。土地神様が消滅しちゃって悲しかったんだって」
「そんな可哀そうな霊を叩きのめすのかよ?」
「美少女パワーで圧倒したね」
アハハと笑い合う。
いや、喜んで叩きのめしたわけではないわ。
他にやりようがなかっただけだわ。
「で、幼女預言者の方は?」
「これがまたわけがわからんくらいすんごい子なの。魔力が溢れ出てるのを周りの人が知覚できるくらいでさ。でも様子が割と自然なんだよね」
「あんたがすんごいって言うくらいか?」
「一目ですんごいってわかるくらいすんごいんだよ。ちっちゃい子なのに、占い師って自分で名乗ってる。占い師になりたいじゃなくてだよ? で、それを誰も疑問に思ってないの」
「ほお?」
いつもの丸く好奇心に満ちたえっちな目だ。
今日はモデルが年少だから自粛を勧告したい。
「着いた。せっかくだから参っていくかな。むーん!」
参拝客用の御神体像に手を合わせて全力で祈る。
『ふおおおおおおおおお?』
ヴィルがぎゅーされた時みたいな声がする。
ほこらの中だ。
「何事だ?」
「行ってみよう!」
以前リタが悪霊になりかけてた時みたいな、ひりつくような悪い雰囲気ではない。
ほこらの中を覗く。
「おお、奇麗」
「何だこれは?」
御神体こと少女霊リタが光ってるんだけど?
「あっ、ゆーしゃさま!」
「マーシャこんにちは。リタはどうしちゃったの?」
「とつぜんなのです!」
暴走してる風じゃないしな?
リタに声をかける。
「えー、本日はお日柄も良く……」
「こんにちはっこんにちはっ!」
「メッチャ元気だね?」
「今、すごいパワーが流れ込んできたんですっ!」
「あんたのせいじゃねえか」
「ごめん。全力で祈り過ぎたかもしれない」
だってこんなんなると思わんもん。
世の中摩訶不思議。
「大丈夫です大丈夫です大丈夫ですっ!」
「だいじょうぶですよ」
まあマーシャが大丈夫と言うなら。
落ち着いているマーシャの様子にイシュトバーンさんも興味持ったみたいだ。
「ゆーしゃさま、きょうはどうしましたか?」
「絵を描かせてもらいに来たんだよ。画集を出版するんだ。本や紙を売れるようにすること、帝国に輸出してドーラが儲かるようすることが目的かな」
「さんぎょうをはってんさせて、けいざいをまわすですね?」
「そうそう」
ハハッ、イシュトバーンさんビックリしてやがる。
マーシャはわかってる子。
「二人にはモデルになってもらいたいんだ。いいかな?」
「うれしいです。おねがいします」
「大丈夫です大丈夫です大丈夫ですっ!」
本当に大丈夫かなあ?
不安になるわ。
「どっちから描かせてもらう?」
「御神体だな」
フルパワー少女霊に創作意欲が刺激されたらしい。
見るからに神々しいもんなあ。
えーと、立って両手を真横に広げたポーズか。
バエちゃんの絵のポーズに似てるな。
やや斜めから描くようだ。
「さいきんゆーしゃさまはいそがしいですか?」
「忙しいと言えば忙しいかな。あたしは動くのが好きだから毎日が楽しいねえ。マーシャは?」
ちょっと質問がアバウトになった。
今のマーシャがどうかってことには、さほど関心があるわけじゃない。
もっと先のこと、自分の将来をどう考えているかってことには興味がある。
マーシャはすごい子だけれども、あたしみたいにあちこち動き回るってのは想像しづらいんだが。




