第843話:色々楽しみ
「サイナスさん、こんばんはー」
夕御飯後、毎晩恒例のヴィル通信だ。
『ああ、こんばんは』
「今日は色々あったよ」
『君が色々あったって言うくらいだから以下略』
「アハハハ!」
サイナスさんも腕を上げたなあ。
夜の通信が楽しいと気持ちよく寝られるので満足。
「あたしもエンターテインメントに関しては一家言あるじゃん?」
『一家言あるとは知らなかったけれども』
「じゃあ今一つ賢くなったね。『精霊使いユーラシアのサーガ』を読む時も、予備知識が多い方が楽しめると思うから」
『時間が押しているよ。今日は色々あったって言ってたじゃないか』
「エンタメ談義も楽しいもんだから、つい笑いを求める方向に思考が行ってしまう」
思考とゆーか嗜好がかな?
『魔境行ったんだろう?』
「午前中はそうだね。赤眼族のクソガキとも大分仲良くなったよ。赤眼族の集落にクレソンを置いてきたから、目先は大丈夫そう。ストックのお肉の残量だけ気をつけてればいいかな、と」
『と、言ってはいても、時々様子見に行くんだろ?』
「赤眼族と関わりができたのは、クエストでなんだ。けど完了条件がわかんないから、時々遊びに行く」
今度行く時に、御機嫌伺いがてらマウ爺にもらった碑文の写しを見せてくるか。
『ラルフ君の方は?』
「特に危険もなかったなー」
『ずっと緑の次期族長をお姫様抱っこしてたのか?』
「してた。レベル一〇超えりゃもうヒルデちゃんの身体は全然大丈夫だと思ったけど、勇者っぽい振る舞いが笑えてきてしょうがないから指摘しなかった。最後までヒルデちゃんをお姫様抱っこしてた」
『悪い師匠だなあ』
「弟子の腕力を鍛えるために、あえてそーした」
『今思いついたんだろう? さも当然のようにしれっと言うなよ』
アハハと笑い合う。
『午後が忙しかったのか?』
「んー、行政府行ったんだよ」
『新人冒険者に会いにか? 少将の息子だという』
「細々とした用が他にもあってさ」
聖火教大祭司ミスティさんの言ってたこともある。
あたしが行政府行くのを、パラキアスさんが楽しみに待ってると。
ドーラへの移民に対する帝国政府の対応が批判されてるということだった。
第二皇子の失点の一つにはなるだろうけど。
「輸出用のパワーカード二〇〇枚確保できそうとか、葉入り紙の売り込みとか。あっ、帝国の辺境侯爵っていう大貴族がヒイラギの紋章使ってるらしくてさ、そっちに売り込んでくれるみたい。葉入り紙一〇〇枚一〇〇〇〇ゴールドで注文もらった」
『ほう? 一枚一〇〇ゴールドか』
「いや、そうはなんないな。大貴族に納めるなら、格好いい箱に入れなきゃいけないだろうし」
『黄の民に作ってもらうのか?』
「依頼するつもり。輸送隊や中間業者やドーラ政府にも儲けさせてやらないといけないし。紙職人の収入は一枚五〇ゴールドかな」
『でも結構な収入になるじゃないか』
「うん。帝国の大貴族御用達ってのも、宣伝文句として大きいじゃん?」
技術を品質を認められたってことだ。
仕事に誇りを持てるだろ。
『新人冒険者はどうだったんだ?』
「結論から言うと、一人で冒険者やってくのはムリ」
『ふむ?』
「少将と一緒にドーラに来た歩兵の隊長さんの娘が、たまたま冒険者やりたい子だったんだよ。そっちの子が前衛向きだから、二人なら大丈夫だな」
『女の子で冒険者やりたいって変だな? 元々女性皇族のお付きの騎士志望だったとかなのか?」
「本に影響されたんだって。『輝かしき勇者の冒険』とかいう」
『ふうん。どんな本だい?』
「主人公が悪いドラゴンを倒して幸せに暮らしましたみたいな。生活感のまるで感じられないお気楽なフィクション」
『主人公の勇者、君の下で修行させた方がいいんじゃないか?』
「やっぱサイナスさんもそう思う? エンタメ要素が足りないよねえ?」
サイナスさんにダメ出し食らうようでは主人公失格だ。
「さらっと流し読みして、『精霊使いユーラシアのサーガ』は帝国でも売れるような気がしてきた」
『『精霊使いユーラシアのサーガ』は、シリアス冒険ものなのかギャグ仕立てなのか』
「迷ってるんだよ。格好良く書いて欲しいけど、面白エピソード満載の方が売れそうじゃない?」
『ハハハ、作者の匙加減だな』
格好良くて面白い伝説エピソードをこれから作ればいいのか。
頑張ろう。
「で、新人パーティーはさ。序盤は前衛の女の子で押せるし、レベルさえ上がれば、新人の方の魔法がものを言うかなって感じ」
『何とかなるんだな? よかったじゃないか』
「うん。まーあたしが面倒みてるなら当然だけれども。でも『アトラスの冒険者』も、もうちょっと新人採用する際に考えてくれないかなーって思ってる」
『君新人の選定まで関係ないだろう?』
「ないけどムダじゃん。転送魔法陣だってタダじゃないんだから、新人が脱落するたびムダが出るのは嫌なの」
『ハハハ、苦労性だな。貧乏性か?』
お節介なのかなー?
あたしはムダとか損とかが嫌いなのだ。
「札取りゲームをレイノスでチラッと宣伝してきたよ。レイノスでも欲しい人ばっかりだった。明日の新聞に大きく記事が出るんだ」
『今日ヨハン氏に引渡しだろう?』
「予定ではね。多分明日には店先に並ぶでしょ? あっという間に売れちゃうなー。正しい字覚えたければ正規品を買え、類似品粗悪品に手を出すなって言ってきたから、追加分もガンガン売れるよ。アレク帰ってきたらそう言っといてよ」
『また煽ってきたのか?』
「いや、今日道端で新聞記者に捕まったから披露したんだよ。広場で許可取ってやったんじゃないから、さほどでもない」
『君のさほどでもないって当てになるのか?』
「プリンスにも紹介してきたよ。きっと帝国にもメッチャ売れちゃうなー」
『おい、意識して話逸らしたろ!』
「うるさいなあ。余計なことに気を回してると、デス爺みたいに頭部が輝かしくなっちゃうぞ?」
今日は本当に大して煽ってない。
どうせ信じてもらえないから話逸らしただけだのに。
それに煽って何が悪いのだ。
商売の基本だわ。
「じゃ、サイナスさん、おやすみなさい」
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『了解だぬ!』
明日はほこら守りの村か。
マーシャがイシュトバーンさんに会って捻くれたりしませんよーに。




