第842話:種明かしが一〇秒早かった!
「いやあ。今日も面白かったぜ」
「もーイシュトバーンさんもアドバイスしてよ。傍観してないでさ」
「冒険者のことは美少女精霊使いに任せろって格言があるだろ」
「格言通りだったかー」
チュートリアルルームからあたしん家に戻っての一時だ。
クララが出してくれた温かいハーブティーがホッとする。
「ジーク君とレノア、どう思う?」
「冒険者として一人前になったら、レノアの方モデルに描かせろ」
「面白い子だよね」
ジーク君はともかくレノアが相当やる気になってたから、明日テストモンスター倒すのは全然問題ない。
魔法撃つのは経験が必要なんだよな。
ジーク君に回復魔法をかけるタイミングを早く覚えてもらいたい。
となればおかしなクエストに当たりさえしなきゃ、ギルドまではすぐ来るだろ。
レノアがクエスト行こう行こうって急かすだろうし。
「明日、ほこら守りの村行こうか。いい?」
「絵だな? もちろんだぜ。あんた以外では最後のモデルになるんだったか?」
「うん。アポいらないところだから」
「確か幼女預言者と少女霊だな?」
よく覚えてるな。
相当楽しみらしい。
あの二人、特にマーシャはかなり特殊な才能を持った子だ。
イシュトバーンさんにも喜んでもらえるんじゃないかな。
「ところであたしの絵ってどうなりそうなの?」
「装いの方は完成してるって連絡が入ったぜ。あんたの都合次第だ」
「今比較的いつでも大丈夫だな」
「明後日の午前中どうだ?」
「わかった。イシュトバーンさん家行けばいいんだね。何か用意いる?」
「特に必要ないな。待ってるぜ」
明後日かー。
どうなることやら。
「あんたこれからどうするんだ? まだ夕食には早いだろ」
「新聞社行ってこようかと思ってるんだ。さっきの札取りゲームの宣伝に」
「面白そうじゃねえか。オレも連れていけ」
「んー疲れない?」
「疲れたら抱っこしてくれ」
「甘えんな痴れ者めが」
アハハと笑って、転送魔法陣からレイノスへ。
◇
「よく考えたら、イシュトバーンさん『遊歩』持ってるじゃん。疲れたら飛べばいい。心配して損した」
「ハハッ、心配してくれたのかよ」
「だって大事なお爺ちゃんなんだもん」
「「「……」」」
お付きの女性二人とともにいい雰囲気になった。
「って言うと、健気感を演出できるかなあ?」
「おいこら、感動して思わず小遣いをやりそうになったじゃねえか」
「あっ、失敗した! 種明かしが一〇秒早かった!」
アハハと笑いながら新聞社へ行く。
と、そこへ?
「精霊使いユーラシアさん、イシュトバーンさん!」
「密会ですか逢引きですかスキャンダルですか?」
「ナイスアクションだなあ」
新聞社に着く前に新聞記者ズが現れました。
ラッキー。
「ちょうどよかった。今から新聞屋へ行くところだったんだぜ」
「何か御用でしたか?」
「記事のネタを提供してあげようかと思って。以前話したドーラの識字率を上げるための玩具ってやつ、売り出すんだ」
「ど、どういうものです?」
「こーゆーの」
シートを広げて敷き、札取りゲームを出す。
呆れるイシュトバーンさん。
「あんた、シートまで持ってきてたのかよ?」
「こういうのは皆に見てもらった方がいいからね」
つーか実演しないとわかんないだろ。
身を乗り出す新聞記者ズ。
「絵札と字札。見やすい印刷ですね」
「カラーズ緑の民の技術だよ。ベースになってる木の札は黄の民に作ってもらったの」
「なるほど、字と絵が対応してるから……」
「確かにこれなら読めなくても覚えられますね」
「裏返して『たまねぎ』の三文字目は、とかで字札の取りっこするんだよ」
「「ふむふむ」」
よしよし、人が集まってきたぞ。
「あ? 精霊使いじゃねえか。またイベントか?」
「ではないけど、字を読めるようになる玩具を発売するんだ」
「字を? どういう理屈だい?」
「説明しようか。一枚絵札を、と。これなーんだ?」
「「「「船」」」」
「でしょ? で、裏返すと字も書いてあって、これが『ふ』『ね』だよ」
「!」
「じゃあ何の絵かわかれば、字も知ることができる?」
「そうそう。何だかわかんないような絵はないから、簡単に覚えられるぞー」
「おお!」
「すげえ!」
ハハッ、白の民の子供と反応変わんないな。
書く方はまた別の訓練が必要だけどね。
「な、なあ。字の読み書きって必要なのか?」
「絶対必要ではないけど、偉い人で字の読めない人はいないぞ? 自分の子に偉くなって欲しいんだったら、読み書き覚えさせた方がいい」
「「「「……」」」」
「今後どんどん移民が入って人口が増えるから、役所の仕事は増えるよ。当然結構なお給料で人を雇うと思うけど、事務仕事なのに読み書きできない人員は必要ないかな」
「「「「……」」」」
「賢そーに新聞読んでる人とそうでない人。女の子にモテるのはどっちだと思う?」
「「「「……」」」」
「って言ってる内に、もう皆字覚えなきゃって気になってるんじゃないの? なら早い方がよくない?」
「おい、このセット一つ売ってくれ!」
「ズルいぞ、俺が先だ」
よーし、大人気!
「ごめんよ。これはサンプルで売り物じゃないんだ。でも商品も今日レイノスに入ってるはず。明日には買えるからね」
「どこで売ってるんだ?」
「あ、わかんない。商人のヨハン・フィルフョーさんかヘリオス・トニックさんに問い合わせて。あ、いいや。明日の新聞で札取りゲームの販売店はどこかの地図を載せよう。字読めなくてもわかるようにしといてくれる?」
「「はい!」」
新聞記者ズも乗り気だぞ。
これで新聞も売れるだろ。
「注意点がありまーす。この『文字を覚えるための札取りゲーム』の初期出荷は五〇〇セットだったかな? 多分すぐ売り切れちゃうけど、粗悪な類似品には絶対に手を出さないでね。間違った字覚ちゃったら嫌でしょ?」
「もっともだな」
「でも手に入れるのが遅くなるのも困るぜ」
「もう既に追加分作ってるし、輸出分含めてどんどん生産するから、待ってればそう時間かからず正規品が手に入るよ」
「おう!」
「わかったぜ!」
新聞記者ズにもサンプルを渡す。
「明日の新聞は字読めない人も多く買うと思うから、絵でルールわかるくらいに見やすくしてくれる?」
「「わかりました!」」
「じゃーねー」
踵を返す。
イシュトバーンさんを送ってから、転移の玉を起動し帰宅する。




