第841話:『輝かしき勇者の冒険』
「で、レノアは何で冒険者やりたいの?」
レノアがアクティブな女の子だってことは見りゃわかる。
けど、活発なのと冒険者をやりたいってのは話が別なはずだ。
帝国人に魔物は馴染みがないはずだしな?
割と謎なんだけど?
「これですっ!」
「えーと?」
レノアが取り出したのは古びた本?
タイトルは『輝かしき勇者の冒険』。
勇者が色々あってドラゴンを倒し、最終的にお姫様と幸せに暮らしました。
めでたしめでたし?
「帝国にはこういうエンタメ本があるのか」
「帝国では有名な児童書だぜ。識字率が低くても人口が多いからある程度数が売れて、商売になるんだろうな」
「やっぱ人口大事だなー」
あたしとイシュトバーンさんが商売上の重要な点について話し合っている中、レノアがまくし立てる。
実にテンションの高い子だなあ。
「私もいつの日かドラゴンを倒し、この本の主人公のように勇者となるのですっ!」
「勇者も悪くはないけど、あたしは聖女になりたいかな」
「あんたは勇者向きじゃねえか?」
「向き不向きがあるかー。茨の道だな」
アハハと笑い合う。
「ドラゴン一匹倒しただけで本が売れちゃうのか。じゃあ『精霊使いユーラシアのサーガ』は大ベストセラーになっちゃわない?」
「『精霊使いユーラシアのサーガ』の表紙の絵はオレが描こうじゃねえか」
「やたっ、ありがとう!」
「もう! 師匠達は何をおっしゃっているのですかっ!」
何かレノアが怒りだしたけど?
「何をと言われても、イマイチ感動ポイント? 面白ポイント? がわからない」
「ドラゴンですよドラゴンっ! すごいじゃないですかっ!」
「お嬢さんよ。この精霊使いのパーティーは、ブラックデモンズドラゴンを一ターンで倒すんだぜ? この物語みたいに苦戦しねえ。普通のドラゴンだと一撃で三体倒す」
「イシュトバーンさんにしてない話じゃないか。何で知ってるんだよ。まったくえっちだな」
「「えっ?」」
呆けたような声を出す二人。
ジーク君語尾が普通になってんじゃねーか。
「ドラゴンを……一撃?」
「精霊使いにはバカ高いレベルがあって、ドラゴンを一振りで屠るスキルを持っている。それだけの話だぜ」
「それだけって……」
「ちょっと前まではドーラでもドラゴン倒すの大変だったみたいだけど、もう方法論が確立されてるから、あんた達でもドラゴンスレイヤーにはなれるよ?」
「ドラゴンを倒す方法論って何だヨゥ?」
「レベルを上げて物理で殴る」
いやいや、絶句するところじゃないんだって。
大マジなんだってばよ。
あたしの見たところ、レベル六五もあればジーク君とレノアのパーティーでレッドドラゴン以外のノーマルドラゴンなら倒せそう。
イシュトバーンさんが言い聞かせるように言う。
「さっき人形系を倒しまくってぼろ儲けしたって話したろ? 人形系の魔物は経験値もやたらと多いんだ。倒してりゃ勝手にレベルは上がるんだぜ」
「で、でもレベルって高くなるとほとんど上がらないって……」
「あら、ユーちゃんこの前レベル一まで下がったけど、一日で九九まで上げてきたわよ?」
「い、一日でレベル九九って、そんなバカな……」
「だから語尾がふつーだって」
本当だとゆーのに。
あたしは珍獣でも超常現象でもないとゆーのに。
「レベルカンスト魔道士なのに魔法使わなくて、でっかい杖でぷちぷち魔物潰してる人に比べりゃ、あたしなんか可愛いもんだと思うけど。いやあたしは比べなくても可愛いかったな?」
「ハハッ。まあ精霊使い見てると、レベルの暴力は偉大だなって思うぜ?」
「困ったらユーちゃんが何とかしてくれるわ。ファイトっ!」
ジーク君が軽く両手を上げて言う。
「オーケー、冗談じゃないらしいってことはわかったヨゥ」
「装備品を支給してくれるという話でしたねっ!」
おお、立ち直りが早いね。
「レノアは装備品既に持ってそうだけど?」
「剣とブレストプレート、兜、脛当ては持っていますっ!」
「あれ? 帝国では武器禁止だったんじゃなかったっけ?」
「父の訓練用のを奪いましたっ!」
「じゃ、とりあえずレノアは自前の使ってね。ジーク君の装備品を取り寄せて支給すればいいな」
イシュトバーンさんが言う。
「パワーカードを勧めるのかい?」
「そりゃまあ回復魔法が安いし。てゆーか、レノアだってパワーカードがいいと思うよ? たくさん稼いだりドラゴン倒したりしたいみたいだから」
「たくさん稼いだりドラゴンを倒せたりする装備品なんですかっ?」
「待つんだヨゥ。パワーカードって何だヨゥ?」
「こういうものだよ」
『アンリミテッド』を起動する。
「装備者の魔力を流すと具現化する装備品だよ。これは武器系だけど、防具系やスキルを実装してるものもあって、同時に七枚まで起動できるんだ」
「回復魔法が安いってのはどういう意味だヨゥ?」
「白魔法『ヒール』と『キュア』が実装されてる、一五〇〇ゴールド相当のカードがあるんだ。初期装備品として取り寄せてジーク君が装備しとけば、初めからヒーラーとして働けるってことだよ」
ジーク君明らかに喜んでますね?
でもレノアの目がギラギラし過ぎて怖い。
「ほぼ手ぶらみたいなもんだから、通常の装備品に比べればたくさんアイテムを回収してこられるよ。それが稼げるってこと。竜特攻のついたカードも一五〇〇ゴールドで手に入るんだ」
「通常の剣で竜特攻付きなんて、少なくとも量産品ではありゃしねえぜ」
「素晴らしいですねっ! 私もパワーカードにしますっ!」
「焦るんじゃないよ。どーせギルドまで行かなきゃ買えないんだから、今の内は手持ちの装備品を使って、荷物持ちはジーク君にやらせりゃいい。だからあたしの考え方としては、初期装備品として回復魔法使えるやつと防御用のやつ二枚を支給してもらって、ジーク君が装備すりゃいいと思うんだけどどうかな?」
頷く二人。
バエちゃんに『ホワイトベーシック』『武神の守護』を持ってきてもらうよう頼み、バエちゃんはジーク君に転移の玉を渡す。
「今日はこれまで。明日にはパワーカードが届くから、一一時前頃にまたここで会おうか。続きだぞー」
「はいっ! わかりましたっ!」
「最後に疑問が残ったんだヨゥ。バエちゃんは何て名前なんだヨゥ?」
「「あ」」
イシンバエワです。
転移の玉を起動し帰宅する。




